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第27話 血の斬撃

 「盾に隠れて進むのって楽ですね〜」

 「せっかく用意してくれたのにフル無視は申し訳ないがな」

 「まぁ大盾構えてるだけで無視できるようになってるのが悪いんでね〜」


 先程とは打って変わってほのぼのした空気の中進んでいた。


 「……わたしも、盾……つかおう、かな?」

 「こういう風に使うのは難しいからやめときなね〜」

 「え…??」


 盾を構えてるだけ、とフクロウは言ったが、実際に構えているだけの簡単なお仕事でないことくらいは分かっていた。

 そもそもこのゲームでは、盾だけで戦う想定では作られていない。大盾など重さで機動力が落ちるだけで、さほどお手軽に有利になるわけでもないのであまり使われてはいない。

 誰もが牡丹のように高度な盾の扱いが出来るなら、今頃武器を持たずに盾だらけになっているだろう……と、フクロウは溜息を吐く。


 まったく、高度なことは高度そうにやってほしいものだ。


 「……そういえば、フクロウは何を調べに来たんだ?」

 「『賢者の森』の特殊勝利狙ってるんですけど、そのヒントがここにあるって言うんで、攻略ついでに」

 「ほー……何か見つかったか?」

 「いや何も……フィールドにはそれらしいものなさそうですよね」


 あるものと言えば壁、溶岩、ガイコツ、動く鎧……存在するモノの種類自体が少ない。ヒントというのが何を指すのか、もう少し具体的に聞き出せれば探しやすかったのだが。


 「ならボス戦まで最短ルートでいいな?」

 「え?まぁ……構いませんけど、ルート知ってんですか?」

 「私はもう一通りクリアしているからな」

 「え?」

 「あ?当たり前だろう。もう2週間も経っているんだぞ」


 仕事のある一般人ならともかく、プロゲーマーや配信者は時間だけはある。そろそろ4つ全てのダンジョンを制覇していてもおかしくはない。


 「……じゃあ、なんで、やっているの?」

 「それはヒメと……いやちがう。まぁあれだ、楽しいゲームはいくらやってもいいからな!」

 「そっか…!たしかに、そうかも…!」


 謎の誤魔化しに納得どころか感動するイワヒバであった。フクロウは既に何かを察したが、何も言わない方が良さそうなので話題を変える。


 「そういえば牡丹さんは特殊クリア目指さないんですか?」

 「特殊クリアはユニーク称号だの武器だのが貰えるからな。私がそういうの取ったら大人げないだろ」

 「さいですか……」


 流石は最強。傲慢極まりない。

 ユニークを集めた4人のプレイヤーを一度に相手したら楽しいだろうなぁ……とか聞こえた。怖いので全員無視してボス部屋まで辿り着いた。


 「最初は敵の動きとか、考察材料になるものがないかとか色々見たいんで、なるべく長引かせる方向でお願いします。わかりましたか、牡丹さん」

 「え、ああ。なんで私にだけ言うんだ……?」

 「貴方以外は好きに動いても一瞬で終わったりしないからですよ!!!」


 まったくである。

 そんな一幕もありつつ、いざボス戦へ。



 【戦士達の血】



 そこには既に溶岩はなく。


 ただ血だけがあった。


 血はひとところに集まり、人型を作り出す。


 それでもまだ、怨念の詰まったドロドロとした血は足元に残る。


 血に染まったこの場所で、それでもソレは血を求め続ける。


 ソレはゆっくりと手を上げた。


 「くる……!」


 真っ先に反応したのはイワヒバ。だが攻撃が届く距離ではない。全員が防御態勢を取る。


 敵が手を振り下ろすと、弾丸の如き血の雨が降り注ぐ。


 「避けきれるか〜〜〜!!!」


 どうにか避けようとするも、一発、二発、三発と当たっていく…そして。

 ズシャアという音と共に派手に「出血」する。


 「痛った……」


 状態異常:出血。赤属性の状態異常で、内部のゲージが一定以上溜まるとHPがごっそりと減る。そしてなにより──


 「いや、は?痛い……?」

 「あ、出血すると痛いから気をつけろよ〜」


 ──痛みがある。

 無論、法で許されている範囲内ではあるが普段のゲームでは感じないレベルの痛みだ。プレイヤーは動揺する。


 「いやてかこれっ!どう避けるんだ、よっ!」

 「よく見ろ〜」


 フクロウが苦戦している中、牡丹はヒメを守りながら弾幕を剣で弾いて対処している。


 「このっ…!」


 弾幕の中、イワヒバが痛みに耐えながら無理やりに進んでようやく攻撃を当てる。あまりダメージにはならなかったが、攻撃に対処するためか弾幕が止まる。


 「ナイスイワヒバちゃん!!そのまま離さないで!」

 「……ん。こいつはころす」


 イワヒバは激怒した。痛いのに慣れてはいるし、常に痛みが走ってはいるが、それでも……否、だからこそ痛いのは嫌だ。


 付かず離れず、攻撃を続けながら距離を取らせないように、心は怒っていても頭は冷静に。ゲーム初心者でありながら、やはりイワヒバは戦闘センスがずば抜けている。


 「……ヒメ、回復をしておいてくれ」

 「もうしてるよ〜♡」

 「流石だ!」


 牡丹の後ろで守られながら、ヒメは懸命に祈っていた。もちろん、無為な行為ではない。

 スキル『祈り』。祈りのポーズをとることで味方全体を回復し続ける。


 「コイツ強すぎだろ!考察する暇ないんだけど!『重たい空気カヤヂクゲケグ』」


 初撃の弾幕ほどではないにせよ、イワヒバとの接近戦をこなしつつ、後ろで魔法攻撃を使うフクロウ達に血の弾丸を的確に当ててくる。

 とにかくそれを封じるため、魔法『重たい空気』を当ててMPを使えなくする。これで少しは落ち着いて見れる……と思ったのもつかの間。



 ザシュッ



 血の弾丸がフクロウを貫く。


 「はぁ?スキルとか魔法でもないってことか…!?」

 「だからよく見ろって〜」

 「クソっ!確かになるべく長引かせろとは言ったけどなんもするなとは言ってない!たすけて!へーーるぷ!」


 やれやれと人力TASが剣を抜く。

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