「わーーーーー♡フクロウくんおひさ〜♡こんなとこでひとり〜?♡」
「あぁいや、今休憩中──ってなんで牡丹さんが!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
ダンジョンの入口前のセーフティーエリアで1人のフクロウにヒメが駆け寄る。
雪山を登るのは相当疲れたようで、念の為にイワヒバはログアウトして休ませていたのだが、そんなことよりもヒメの隣に牡丹がいることに驚いた。
「今はヒメの騎士だからな…!!」
「はぁ。貴女、ヒメさんみたいな人苦手かと思ってました」
「まぁ、その、なんだ……い、色々あったのだ……」
「なんだその顔」
謎に乙女みたいな表情をする牡丹に困惑するフクロウだったが、その理由を思考する前に話題が移った。
「そーだっ♡せっかくだしみんなでここ攻略しよーよっ♡イワヒバちゃんも含めてちょうど4人だし♡」
「まぁ構いませんよ。色々見ながら進むので時間かかるかもですが」
「全然いいよ〜♡牡丹ちゃんもいいよね?♡」
「あ、あぁ……構わん……」
せっかく2人きりだったのに……と呟く声は吹雪と焚き火の音で2人の耳には届かなかった。
さて、イワヒバが休憩から帰ってきていざダンジョンへ。
『溶岩墓地』。
今は休止していて外からでは分からないが、この雪山は火山である。その内部では今でもマグマと、死者の怨嗟が煮えたぎっている。
「火山なのはわかるけどさ〜♡なんで墓地?♡」
「罪人の死体をここに捨ててたらしいぞ」
「墓地って死体専用のゴミ捨て場って意味じゃないんですけどね…」
「そんなだから……なんか、殺意がたかい……」
先程から倒している魔物、ガイコツ剣士と
特にガイコツ剣士は本来、決して強くはない魔物のはずだが……。
「……このゲームでは、モブモンスターも例外なく、死なない限りは学習し続けます」
「ああ、なるほどな」
「……?」
「なになにっ?♡どーゆーことっ?♡」
フクロウが手短に説明するも、約2名には伝わっていなかったので、戦いながら話を続ける。
「まず、ダンジョンには魔族が魔物を配置できます。戦い方を教えた魔物を配置し、倒しても一度は復活するガイコツ剣士に戦いの様子を見せて学習させれば……」
「やたらと上手いNPCが複数で襲ってくる状況の完成、ということだな…!」
イチイの本領は、直接対決よりこういう場面でこそ発揮される。ゲームの使用を悪用し、一方的に有利を押し付ける。そしてなにより、勝利より相手を不快にさせることをなにより重んじる。
ただでさえ少し難易度が高めのダンジョンが、悪意によって強化された結果、このダンジョンは最も多くのデス数を叩き出した。後に、悪意の洞窟と呼ばれることになった。
「ねえ!♡そんなことよりヒメ死にそう!♡たすけて!!!!♡♡♡♡」
「よし!たいさーーーーーーん!!!」
次から次へと襲ってくる魔物の猛攻に、やはりヒメは耐えられず牡丹に抱えられて一度『逃げる』を選択した。
「ふう……ここまで来れば安心ですね」
「うむ。装備と作戦を立て直してもう一度行こう」
「ん……そう、だね……」
「ありゃ?♡イワヒバちゃん、疲れちゃった?♡」
結局入口近くまで戻ってきたのだが、イワヒバが疲れたのか少しボーッとしている。
「やはり、剣ではダメージの通りが悪いな」
「ガイコツですからね。てかいつも通り拳で戦えばいいじゃないですか」
骸骨には剣や槍など、斬撃や刺突属性のついた武器ではダメージの通りが悪いというのは、このゲームに限った話ではない。牡丹が知らないとも思えないが……。
「今日の私はヒメの騎士だからな…!!」
「あんま同じことばかり言ってると語録扱いされて弄られますよ」
「好きなの使っていいんだよ〜…?♡」
声のテンションは高いが、相変わらず表情に乏しく、ついでに言っている内容も意味不明。当然、総ツッコミである。
今日の牡丹はログイン時からテンションがおかしかった。客観的に見れば熱でもあるのかと疑われても仕方ない。
「いやほら、称号を『騎士』にして騎士の装備でついでにヒメの騎士を名乗っているのだから、ここは崩したくないのだ」
「は?……あ、ああ〜〜、『ロールプレイシステム』を重視するタイプですか。意外ですね、そういうの興味ないかと思ってました」
「せっかく運営が大々的に宣伝している固有のシステムなのだから、そこは意識してやった方が楽しいだろう」
ロールプレイシステム。
これまで誰の口からも出てこなかったのが不思議なくらいには、カラケイの固有にして根幹のシステムである。
称号や装備、そして
「僕も軽く検証はしましたけど、効果が微量すぎて、何がしたいのかよく分からないというのが今のところの見解です」
「分かっていないな。どうせ称号に合わせて装備を変えて調べたんだろうが、そこは始まりにすぎん」
「……というと?」
「そうだな、言うなれば……このゲームでの"生き方"を見られているとすれば、どうだ?」
んーーーーーーーーー……と、フクロウは目を瞑り考える。
「なんというか、それは
確かに、例えばイワヒバのようにわかりやすい偉業とそれに合ったプレイスタイル、本人の意識が上手く一致し、この
「だからこそ称号があるのだろう。称号に合わせてその時々でそれらしい行動をする。その積み重ねでロールプレイを完成させやすくしているのだ」
「……まぁ、貴方がそう言うならもうそれが正解だとは思います」
「うむ!検証は任せた!」
牡丹の勘の鋭さに対する信頼はもはや議論の意味がなくなる。実際それらしくはあるので、あとはフクロウの領域だ。
閑話休題。
「と、いうことで騎士らしさをなくさない打撃武器……じゃじゃーん、『王国騎士長の大盾』〜」
「「「でか……」」」
3人の声が一致する。
黒と金を基調としたいかにも上等な盾であるが、盾とはただ守れれば良いというものではなくそれを持って戦うことを想定されているものだ。一体誰がコレを持って戦えると言うのだろうか。イワヒバの倍はある。
「これを扱えるものだけが騎士長になれたらしい」
「そんなバケモンそうそういないでしょ」
「だが私なら……というかプレイヤーはみんな普通に持てる。これを持って突撃して道を作るので、みんなは付いてきてくれ」
合理的で簡単な、いい作戦だ。
だが、1つ問題があるとすれば──。
「あの、わたし……走れないんだけど……」
「は…?そんなことあるか?」
そう、イワヒバは走れない。まだ練習中なのである。
「まぁ、フクロウが背負って走れ」
「ん、おにーさん、よろしく」
「う、うんっ…まかせて」
緊張が隠しきれていなくてキモイぞロリコン。
……と、それで解決かとおもったが、ヒメもおずおずと手を挙げた。
「あの〜♡私もみんなみたいに超速く走るの無理なんだけど〜…♡」
「よ、よし!なら私が背負って──」
「流石に無理があるでしょ。僕らがゆっくり走ればいいだけですよ」
「ちっ……そうだな」
「なんで舌打ち……?」
様々な思い渦巻く中、いざ再出発。