「おわったよ〜、イワヒバちゃん」
「もぐもぐ…ごくん…。は、はやい……ちょっとまって……もぐもぐ……」
「ゆっくり食べていいからね」
イワヒバに冒険に誘われたフクロウだったが、その前に試験があったので少し待ってもらっていた。
すぐには来ないだろうと料理を大量に並べていたようで、慌てて口に詰め込もうとするイワヒバを慌てて止める。
「……それで、どこいくの?」
「今日はついに!あの山に登ります!」
フクロウが指差す先にはフィールドでも特に目立つ、フィールドを囲む壁に抉られている山。
「わくわく、だね」
「そうだね。あの山の洞窟の先にヒントがあるとかないとか…」
「あるの?ないの?」
「ある!!……きっとね」
なにせあのNPC、オリーブは曖昧で意味深なことしか言わないのだ。普通に嘘ついててもおかしくない。そうだったらこのゲームは世紀のクソゲーとしてレビューしてやろうと決意し、出発したのだった。
「ねぇ、これなに?」
しばらく進んだ後、イワヒバがマップのとある表示を指差して聞く。
「ん?ああ、魔族が侵入してるね…」
「……しんにゅう?」
魔族の『侵入』。
特定のアイテムを使うことで魔界からこちらの世界に侵入し、プレイヤーを狩ることができるシステムだ。侵入するとどのエリアにいるのかマップに表示されてしまう。
「うーん……この先のフィールドボスは迂回して避けた方がいいかもね」
「どーして?」
そう聞かれたフクロウは、なるべく伝わりやすいように言葉を選びながら説明する。
「そうだな……ボスと戦ってる時に、突然他のプレイヤーが攻撃してきたら……どう思う?」
「……ころしたくなる?」
「ま、まぁ……言葉はともかく、そういうことだよね。逆に言えば、プレイヤーキラーからすれば狩りやすいってこと」
言葉選びについてはそのうちどうにかするとして、とりあえず今の説明で伝わってくれたことに安堵する。
フィールドボスを避けるようにして、改めて目的地へ進んだ。
一方その頃。
グレートオタサープリンセスことヒメと、普段の軽装と違い今日は騎士っぽい鎧を見に纏った赤い最強こと牡丹も、フクロウたちと同じエリアに入っていた。
「ふふ♡まさか牡丹さんが一緒にゲームしてくれるなんて♡」
「……ああ。その、困っていたようだったしな」
数刻前、珍しくヒメが1人になっていたところを、一体どういうつもりか牡丹が妙に緊張した様子で冒険に誘ってきていた。牡丹はなにか伝えようとしていたが、ヒメの勢いに押されあれよあれよという間に臨時の騎士となり冒険についていくことになった。
「この先にフィールドボスがいるんだよね?♡ヒメ一人じゃ無理だから助かるよ~♡」
普段であればマップに表示された侵入中のマークに気づかないはずもない牡丹だが、今は別のなにかに気を取られているのかそのままフィールドボスのいるエリアに入ってしまった。
フィールドボス、『雪原の
月の光を浴びて光るデカイ兎の魔物である。月の兎がモチーフとなっており巨大な餅つきの杵を持ち、持ち前の脚力で飛び回りながら攻撃をするシンプルながら厄介なボスである。
そんな楽しいボスとの会敵、その瞬間、牡丹はわずかな空気の揺らぎと矢の音を察知した。
「む……」
「きゃっ♡」
当然矢は避けるが、そもそも二人を狙ったものではない。着弾と同時に煙幕が発生する。
集中を欠いていたな……とつぶやくとすぐにマップを見て侵入している『魔族』の名前を確認。イチイとメイロ。煙幕矢はイチイのやりそうなことだが果たして。
「すまん、ちょっと待っててくれ」
「ほへ?……うひゃあああああああ!?!?!?!?」
迷路の「影縫い」対策にヒメを遙か上空に投げる。
落ちてくるまで約1分……それだけあれば牡丹には充分な時間である。
矢の飛んできた方向へ瞬時に間合いを詰める。やはりイチイだ。矢の弾幕を避けつつ、恐らく奴の目の前にあるであろうトラップを避けるように背後に回り斬撃。この間約1.5秒。
だが、これまでこの手のゲームで幾度もPKを仕掛けてきたイチイはそれすらも読んでいた。
パリィ!
完璧なタイミングで影から迷路が飛び出した。
「『レッドナイフ』!」
「素晴らしい!」
パリィされた硬直に『レッドナイフ』をぶち込まれる。目の覚めるようなプレイングに思わず感嘆の声が漏れる。
「うひょひょひょひょ〜!!!おいおいどうした人力TASさんよお!!おらっ!!」
「チッ……また煙幕か」
煙幕の中、互いに人影や音、空気の動きなど僅かな情報を頼りに、牡丹とイチイの剣戟が響く。
牡丹にとって普段であれば煙幕などあまり意味をなさないものだが、影縫いを使える迷路がいるとなるとかなり厄介だ。
……いや、この場合まず狙うのはヒメか。イチイに気を取られている隙に迷路がヒメを仕留める気だろう。
そう判断した牡丹は剣をしまい、掌底でイチイを吹っ飛ばし、ヒメの元へ向かう。
「おいおい嘘だろ……」
イチイは一応、牡丹のこの行動も読んでいたのだ。逃げる牡丹を仕留める為に、魔法陣をトラップとしていくつか置いた。
だが、それも無意味であった。圧倒的なスピードにより、魔法陣を踏んで発動したトラップが牡丹に当たる頃にはそこにはいないのだ。
「よっと……」
「び、びっくりしたぁ……♡せ、せめて一言言ってからにしてよ〜〜♡」
「……すまない。あと5秒で終わらせる」
「えっ、う、うんっ♡」
0〜0.5秒。
飛び出してきた迷路に蹴りを入れ打ち上げ、
0.6〜2.2秒。
その隙に、弓を撃って妨害してくるイチイに一瞬で間合いを詰め、掴んで地面に叩きつける。イチイが何が起きたのか理解する頃には、迷路のいる方向へ投げられていた。
2.3〜3秒。
2人を地面に叩きつけ、そこから切り上げで先程より高く打ち上げる。
3〜5秒。
空中で2度切りつけた後、2人同時に剣で叩き落とす。落下ダメージも含めてHPを同時に全損させた。
「おまたせ、待った?」
「もう何がなんだかさっぱり!♡」
「そうか……次からはもう少し分かりやすいプレイを心掛けよう」
どうも牡丹はヒメに好かれたいようだ。プレイングによるアピールはあまり上手くいっているとは言いがたいが……。
「おっと……」
ドーン!と攻撃されそうなヒメを庇い、相手の大槌を弾く。そういえばまだフィールドボスが残っていた。
「そういえばこの子を倒しにきたんだったね〜♡」
「ああ。こいつは予定通り2人で倒そう」
そして、フィールドボスを倒した2人はさらに奥へと向かった。イワヒバとフクロウがいる洞窟へ……。