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第24話 魔法使い最終試験

 「それじゃあ……最終試験を始めるよ」


 ようやくこのクエストも終わる。まさか1週間も掛かるとは……フクロウは嘆息した。

 全ては1週間ほど前に遡る。


 5日前。

 それは、イワヒバがソロで「大岩の騎士」を倒し、魂を解放し、防衛戦が終わった後のことだった。


 「イワヒバちゃんのアーカイブ見たんですけど。特殊勝利でユニークなもの貰えるとわかった以上!!特に僕みたいなのはイチ早く他のボスの情報を見つけないといけない!!」


 まずは軽く検証。

 イワヒバがクリアした時はソロ攻略だったので、とりあえずソロでノーダメージチャレンジをしてみたがやはりダメ。


 では逆に思い切り時間をかけてみようとしたが、時間経過ごとに攻撃が激しくなり、とてもじゃないが避けきれるように出来ているとは思えなかった。


 「火の魔法で燃やしたり木を攻撃した時も攻撃は激しくなるだけで、特に森林破壊はできなさそうだったし……」


 思いつく範囲で検証してみたが、やはり手がかりが少なすぎる。

 まず、「賢者の森」とはなんなのか、そこから考察する必要がありそうだ。


 「成程ね。それで私に聞きに来た訳だ」

 「はい。賢者の森とは、そもそも一体、どういう存在なんでしょうか」


『賢者の森』とは場所の名前であり、ボスの名前である。賢者の森にいる何かではなく、賢者の森そのものがボスという扱いだった。恐らく、そこに何かヒントがあるのではないかと考えている。


 「フム。其れを理解するには、もう少し魔法を理解しないとね。キミ、ワタシの弟子になりたまへ」


『サイドクエスト:森の魔女に弟子入りを開始しますか?』


 「あー……はい。わかりました」


 ──そんなこんなで約5日、魔法を極める旅に出ていた。

 他の軽いサイドクエストやちょっとした探検などをしていたとはいえ、かなりのボリュームのあるクエストで、フクロウは疲弊していた。


 「思ったより時間かかっちゃいましたよ」

 「いいや、想定よりずうっと早かった位だよフクロウ君。近年の魔術師は・・・・・・・優秀、だね・・・・・

 「…………」


 そう、オリーブは怪しく笑った。


 ……ここ数日、クエストのためオリーブと関わって分かったことがある。

 この人、なんでもないことまで意味深に聞こえるように話している…!!

 テキストなどないゲームのはずなのに、まるで、あからさまに傍点が振ってあるかのような意味深な言い方をする。が、よく聞いてみれば普通のことしか言っていない。


 考察勢のフクロウにとって、こうも会話に困るNPCは後にも先にもオリーブくらいのものだろう。


 「ワタシも本当はもう少し大掛かりなこと・・・・・・・をしたかったのだがね。最終試験はワタシとの模擬戦闘だよ。あらゆる魔法を使い・・・・・・・・・、ワタシを倒してみたまへ」


 オリーブが模擬戦用のフィールドを展開する。

 プレイヤー同士のバトル用に使われる機能だが、こういったNPCとの戦いにも用いられるようだ。


 「だがね。勿論、無論、このままではないさ。つまらない、つまり面白くないからね」


 フィールドの中に、さらに半径10mほどの円が形成される。


 「結界を張ったよ。少し狭いけどね。この中でキミはいつも以上に自由に魔法を使えるし、ワタシは不自由になる」

 「……はあ、つまり?」

 「つまり?つまりね、キミはMPの最大値と回復速度が大幅に上昇し、ワタシは逆にMPの最大値と回復速度が大幅に下がっているという事だよ」


 ハンデ戦。

 それは時に優しさであり、時に煽りとなる、魔のルール。

 強い方からハンデ戦を提案するということは、「お前と普通に戦ってもおもんない」と言っているのと同義でありマナー違反なのである(インチキマナー大全 より抜粋)。


『Ready…FIGHT!』


 さておき、勝負は始まった。


 最大MPの上昇や下降は、あくまで使える魔法の種類が増える程度の話で大したことではない。

 だが、このゲームにおいて「MPの回復量」が上がるというのは字面以上に重要である。


 この世界ではMPは、使って10秒もあれば回復する。しかし、使いすぎてMPゲージが0になると『龍罰』と呼ばれるペナルティが発生する。

『龍罰』が発生すれば魔力が暴発し、身体の内から爆発して即死するという恐ろしいペナルティだ。

 MPの回復量が増大するというのは、それだけ多くの魔法が連続で放て、攻撃が当てやすくなるということにも繋がる。


 「ヘイz──!」


 フクロウが呪文を唱えようとしたその瞬間、トンッと軽やかにオリーブが地面を蹴った。イバラがまず、フクロウを目掛けて襲い、結界となっている部分を囲うように生えてくる。


 詠唱を中断せざるを得ず、ショートソードでどうにかガードして誤魔化す。


 「使う素振りを見せたのは、見せてくれたのは、『沼地』の魔法かな?いいね、悪くない。だってキミはワタシを舐めていない」

 「……そりゃあ、師匠ですからね」

 「慕われるのも、悪くない、良い気分だ。でも、でもね?キミはワタシの、いや、ワタシ達の言動に随分興味があるようだけれどね?その癖、今は一旦封印した方が良い」


 魔法陣がさらに、次々と出現し、そこからイバラの壁が生えてくる。囲まれた。


 「チッ……!また意味深な発言を…!」


 考察に使う脳を全て戦闘に使う。対NPC戦でこんなこと、いつぶりであろうか。

 魔法は詠唱をする、あるいは杖にセットされている魔法を一定の動作をすることで発動出来る。だが、一定の動作と言っても、もっとわかりやすい動作に限られる。間違ってもあんな、地面を軽く蹴る程度の動作ではない。


 しかし、今のでそれなりに魔力は使ったはずと、まずは時間を稼ぐ為に詠唱をする。


 「『ナ-ジュミ-ウグベン』」


 魔法『土砂降り気分』で雨を降らし、相手を「心冷」状態にし、MPの回復速度を下げる。


 「矢張り良い。確かに、ここから更に魔法を封じられればキミは勝てる。だけど、もう、遅い」


 なにかの呪文が唱えられる。

 オリーブが足元で描いていた・・・・・・・・魔法陣・・・が拡大し、結界内に展開。


 「魔法陣!?いつの間に…!」

 「キミがイバラの対処をしている間に、だよ。流石に予め描いておくのはやめておいた、ワタシに感謝して欲しいね。うん、するべきだ」


 魔法陣。

 当然、フクロウも知っている。地面や壁に描くことで、MP消費なしで魔法を発動できるというものだ。だが、戦闘中にその場で、妨害されないように素早く描くという仕様はあまり実用的とは思えず、スルーしていた。


 なにせ、効果の強い魔法を使うにはその分複雑な模様や文字を描かなければならない。魔法の詠唱から発動までを考えても、10数秒程度だということを考えれば、MP消費がない程度のメリットは意味がない。


 「起動完了ッ!!精霊達におまかせオートマティック・マシンガン!!」


 無数の魔法陣が四方八方に召喚され、あらゆる魔法がランダムに襲いかかる。


 「なるほど…!!こりゃあ、たしかにこのくらいのハンデは必要だわなぁ!!」


 恐らく、今この世界ゲームにある魔法はほとんど知っているフクロウにとって、一つ一つの魔法の対処自体は難しくない。

 だが、フクロウは決して牡丹ではない。

 タイミングも種類もランダムな無数の攻撃すべてに対処しきるのは不可能だ。


 杖を振り、どうにかまず、一撃を当てようとする。

 特定の動きで、杖にセットされている『火の玉』を瞬時に放つ。

 オリーブがまた、地面を軽く蹴ると今度は地面が一瞬でせり出し、壁を作って防御。


 「簡単に当たってやる程ワタシは優しくないよ」

 「分かってる!!」


 分かっている。隙が少ないとはいえ簡単に防御されるだろうというのは。だからこそ、壁を作らせた・・・・


 「まずはこいつらを燃やす!『ヒシク・カカグク・ビヒム』」


 今使われた『大地の壁』という魔法は大抵の攻撃は一撃は防ぐことが出来る優秀な魔法だ。だが、欠点が一つある。

 前が見えない、ということだ。


 ほんの一瞬、視界を塞ぎ、前方への移動もできなくなる。もちろん、能動的に解除することはできるが、呪文を唱える隙はできる。


 「フフ……こうも早く、あっけなく、対処されるとは。自信作、だったのだがね」


 フクロウは『花火』という、火の玉を降り注がせる魔法をさらに『追加呪文』により、飛距離と大きさを強化。

 魔法陣の円の役割をしていた、初めにオリーブが出したイバラの魔法を燃やし、魔法陣を無効化したのだ。


 「悪かったね!じゃあ死ね!」

 「おっと、そういえばキミは魔法専門じゃあ無かったね。まぁ、関係ないんだけど」

 「……!?」


 一瞬で間合いを詰め、ショートソードでの物理攻撃。だが、いつの間にか元の場所に戻されていた。


 「そういうことね…」


 何故、最初から気づかなかったのか。

 よく見れば、既に地面には小さい魔法陣が無数がいくつもあった。

 先程までの地面を蹴っての魔法発動も、魔法陣を起動していたのだろう。


 「気づいたね。ようやく気づいた。もう遅いけどね。今のが私を仕留める最後のチャンスだった。キミはそれを逃したんだ」


 地面に直接描いている途中であれば、上から線を消すような行動をするだけで簡単に消せる。

 だが、既に魔法陣として成立したものを消すことは難しい。時間経過を待つか、魔法陣に直接触れて「解除呪文」を唱えるなどがある……が、どちらもその余裕は無い。


 「……悔しいけど、今回は攻略するのは無理そうだね」

 「おや、おやおや。もう諦めるのかい?」

 「あぁ、攻略・・は無理そうだ。だから今回は、ただ勝つことにするよ」


 モシュネーから剣を取り出し、構える。


 魔法戦でまともにやり合うのはどうやら難しい。近接戦闘への対策も充分にされている。


 だが、対NPC戦はあくまで常識の範囲内で、クリアできるように作られたものだ。


 「f式の──『雷蜻蛉』|(かみなりトンボ)」


 VRゲームにおける通常攻撃は、大振りで隙の大きい攻撃ほど威力が高くなるように出来ている。目にも止まらぬ速さで攻撃する、というのはそこまで難しいことでもないが、やられるとゲームにならない。


 だが、人ならギリギリ反応できる速度で、余計な移動も多ければ十分なダメージが期待できる。プレイヤー相手であればタイミング合わせて回避されることもあるが……。


 「NPC相手はやっぱこれだね……っと」


 一撃を当てさえすれば、あとは適当にコンボを決めてHPを全損させる。


 【YOU WIN】 


 勝利の表示と同時に、ジャキン…と武器をしまう音が響いた。




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 称号『深慮の魔導師』を入手しました。

 スキル『精霊自由言語』を入手しました。

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