教会の一室で、私はガラスの棺の中からイケメン三人が争うのを呆然と見ていた。
「いい加減にしてくれませんかね! 彼女と暮らすのは俺ですよ!」
「ざけんじゃねぇ。こいつは手前の手に負えるタマじゃねぇ」
「違う。わたしだ。わたしは彼女が目を覚ました時の為に、準備していた」
やがてヒートアップして銃を抜いたりナイフを取り出す面々。
ようやく我に返った私は、他人が言っていたら引っぱたきたくなる『アノ台詞』を言っていた。
「やめて! 私の為に争わないで!」
三人がハッとした顔で此方を振り返る。
まず始めに私の元に飛んできたのは、最初にバチギレしていた青年だった。
白く長い髪を伸ばし、褐色の肌をした端正な美青年・サングレは棺の中の私にかしづくと、崇拝する存在でも見るように潤んだ瞳で告げる。
「あぁ……、シスター・ディディ。また逢えた……」
そんなサングレを押しのけたのは、二番目にキレていた、黒髪に眼帯をした長身の青年。
名をガルーという。ガルーはクールな表情の中に安堵を見せ、ほっと息をついた後に私の髪に触れる。
「起きるのが遅ぇんだよ。馬鹿。オレを待たせて許される女は手前だけだ」
そんなガルーに頷いたのは、長い髪をポニーテールにした、美女と見まがう美男子だったっていうか、明らかに男なのに何で女物の服を着てるのこの人は!?
最後に色物(でも美形)が来た! と焦る私に女装男子は無表情のまま頷いた。
「……シスター・ディディが、子供の頃のわたしに『似合う』と着せてくれたものだったが……おかしかっただろうか……?」
捨てられた犬のようにションボリしだしたけど、思い出した! アリアだ! 女性名だし、女装癖があるけど、しっかり男のアリアだ!
そして寝ぼけていた頭が覚醒する。
この濃い人選、思い出した。
マフィアの鉄砲玉のガルー。
裏カジノを取り仕切る賭博王サングレ。
汚職聖職者アリア。
全員、生粋の悪党。
それでいて、こうなるまでに私を何回も何回も殺したキャラクター達だった。
ここにいたるまでの過去を遡って思い出してみる……。
◆◆◆
目が覚めたら鼻先に銃口が突きつけられていたのが、初回の目覚めだった。
リボルバーを握るのは、眼帯をした黒髪の青年・ガルー。
青年は咥え煙草を上下させて、眉間を寄せている。今にも私の顔面を撃ち抜きそうだ。
ど、どういう状況!?
しかし当時の私に説明はなく、私が「あの……」と声を漏らすと、
眼帯男は不愉快そうに舌打ちして、言い放った。
「……喋んじゃねぇ! ビッチ!」
罵声の後に暗転。
あ、死んだ……。
そう思ったら、今度はベッドに押しつけられていた。
体を動かそうとするも、首筋にヒヤリと冷たいものがあてられる。
何とか状況を探ろうと、ベッドの傍の姿見に気づく。
鏡に映っていたのは、褐色の肌で白い長髪の男・サングレが私を押さえつけている姿だった。
首にあてられているのは……ナイフ!
「あ、あのっ!」
しかし話しかけると、また「喋らないでください! クソビッチ!」と喉に熱い何かが走り、暗転。
あ、死んだ……。
更に次はアリアが長銃を片手に異端審問という名の異教徒弾圧をしている時だった。
彼が放った銃が罪なきモブを狩ってゆく中、流れ弾に当たった私は、なんか、死んだ。
それを何回ぐらい繰り返したのだろうか。
わけがわからないまま、イケメンに殺されまくるのに疲れた私。
やがて「どうせ殺すんだろ! ならさっさと殺せヨォー! でもどうせまた黄泉還ってやっからぁー! おらぁ!」とヤケクソになってガルーやサングレ、アリアの目の前で五体投地する状況に、三人が訝しがるくらいになってから、いつもとは違う暗転が訪れた。
いつもは『死→暗転→ニューステージ!→死→暗転』という無限ループって怖くね? 状態なのに、この時ばかりは違ったのだ。
(あれ……?)
暗転の後、眼前に開けたのは『コンティニュー』という文字が、くるくる回っている妙な空間だった。
(この画面、見覚えが……)
そう、見覚えがある。
ネットの乙女ゲーレビューで『キャラデザと声優は良いけど難易度がゴミ』『スチル一枚見る為に99回死んだ』『親の顔より見たコンティニュー画面』と讃えられた()例の……。
「そう、【マフィアクター】だヨ」
戸惑う私の後方から、カタコトのイケボが聞こえてきたのだ。
振り返ると、そこにはチャイナ服を着た赤毛で糸目の美青年が立っていた。
その顔に私は見覚えがあったけど目をこすりながら、繰り返す。