「「「お疲れ様~っ!」」」
その日、広瀬家に集まったのは、開発スタッフ&出演者たち。
最新の技術を惜しみなく使用したフルダイブ型恋愛シミュレーションゲーム【天使と珈琲を】の制作に関わったメンバー勢揃い。
どこの貴族の屋敷かと思うような西洋風の庭園で、みんな賑やかにガーデンパーティを楽しんでいる。
テーブルにおにぎりがあったり、箸で食事をしたりしている時点で、ここは西洋じゃなくて日本なんだなって感じるかもしれないね。
「アフレコは個別でやったから、誰が出演しているのかほとんど知らなかったけど、馴染みの奴が多いな」
と言うのは、炎を司る大天使ミカ・フラムエル役のTERUさん。
テノール系の声質で、熱いキャラクターを演じることが多い人で、ミカも炎が似合う熱いキャラになっている。
悩みの種は、何故か主役を演じても脇役のイケメンに人気投票で負けること。
「私は先に録音した人の声を聞きながらのアフレコだったから、なんとなく分かったけどね」
言いながら美味しそうに日本酒を味わっているのは、風を司る大天使ファー・ラエル役の岡田絵美さん。
女性ながら少年役から青年役まで幅広く演じる人で、ファーは風のように素早い攻撃を得意とするキャラだ。
二枚目役を演じることも多く、TERUさん演じる主役キャラを押さえて人気投票1位になることがよくある。
「わ~、人気声優こんなに集めちゃって、ギャラ高そう~」
って爆笑しているのは、水を司る大天使サキ・ジブリエル役の神崎コージさん。
コメディでは
演じるサキもお約束のようなオネエキャラである。
でも特定条件下で見られる少年バージョンのサキは、オネエというより男の娘という感じでとても可愛い!
「お待たせ、おつまみ追加するよ~」
料理上手で調理を任されてしまったのは、地を司る大天使ウリ・ドルフェル役の林翔太さん。
落ち着いた色気のある低音ボイスが人気で、「愛を囁かれたい男性声優TOP3」に入っている。
ちなみに彼が演じるクールな二枚目キャラが、TERUさんの主役キャラを人気投票2位以下に蹴り落すこともよくある。
「ヒロ、お前が食べたがっていたザーサイ入り手羽先、作ったぞ」
「美味しそう! 翔太さんありがとう!」
「翔太愛してるって言ってくれてもいいんだぞ?」
「え?! いやさすがに愛を囁かれたいTOP3の人には恐れ多くて言えませんよ~」
そして、翔太さんに餌付けされたりからかわれたりしているのが、私、ヒロこと広瀬裕菜。
声優のお仕事は【天使と珈琲を】が初めて。
つまり新人声優なんだけど、ベテラン勢と気安く話せるのにはワケがある。
「ダメダメ、ヒロが演技以外で愛を囁く相手は俺だけだよ」
って言いながら背後に歩み寄って翔太さんの頭を拳でコツンと小突いているのは、天使長ルウ・シフェル役の広瀬ケイ。
5オクターブの広い声域を持ち、モデルの仕事もくるぐらい細身の長身で整った顔立ちでもある。
彼が登場すると、顔出しイベントでは女性陣による黄色い声の大合唱が凄い。
子供の頃にケイのステージイベントに連れて行ってもらったときは、その声援の熱量に楽屋のモニターを観ながらビックリしたのを覚えている。
ケイは声優とモデルを兼業して、若くして財を築いたと言われる人。
声優になりたいと言った私を養成所に通わせてくれたり、自ら演技指導をしてくれた人。
真冬の公園で独り泣いていた私を、拾ってくれた恩人でもある。
「も~、ケイだけ独り占めなんてズルイ。ヒロはみんなのアイドルだろ?」
って言い出すコージさんも含めて、みんな私が小学生の頃から馴染みの人たちだ。
知り合って10年くらいになるかな?
広瀬家は郊外の戸建てで、庭も居間も広いからホームパーティがやりやすい。
それで、声優仲間たちが時々遊びに来ていたから、私も馴染みになったの。
「そうそう、みんなヒロの成長を見守ってきたぞ。ほれヒロ、成人したんだからお前も呑め」
「TERU、飲酒は二十歳からよ」
ぼちぼち酔いが回ってきたらしいTERUさんが差し出すグラスを、絵美さんがヒョイッと奪い取った。
どうするのかと思えば、手にしたグラスの中身(多分ブランデー)を美味しそうに飲み始める。
絵美さんも気持ちよく酔っているらしい。
「ヒロ、俺の手羽先を食え~っ」
「はいはい、食べてます、美味しいです」
ツマミを作り終えた翔太さんも飲み始めて、酔っ払い1人追加。
18歳成人でまだお酒が飲めない私は、翔太さんが作ってくれたオツマミの数々を存分に味わう。
家主のケイは、向こうのテーブルで飲んでいる開発スタッフたちの接待に行っていた。
◇◆◇◆◇
たっぷり飲んで食べて、来客たちがほとんど帰った後。
家事ロボットのバトラ&翔太さんたちと共に片付けを始めた私は、庭園のベンチで寝ているケイを見つけた。
ケイはまるで電車の中で寝落ちたサラリーマンみたいに座ったまま寝ている。
「あれ? ケイが酔い潰れるなんて珍しい……」
ケイはいつも適当なところで飲むのをやめるから、酔い潰れるなんてことは基本的に無いんだけど。
ベンチで寝ているケイは、頬をつついても無反応だった。
「こんなとこで寝たら風邪ひくよ。バトラ、車椅子に変形してケイを寝室に運ぶのを手伝って」
「カシコマリマシタ」
私はバトラに車椅子に姿を変えてもらい、ケイを座らせて一緒に家の中へ向かった。
片付けを手伝ってくれている4人も、珍しく飲み過ぎた様子のケイを見て首を傾げる。
「珍しいね、ケイが酔い潰れるなんて」
「むしろ初めて見るかも?」
「疲れてたんじゃない?」
「年かな?」
最後の一言は、もしもケイが聞いたらツッコミ入れるところだろうけど。
ケイは車椅子で運ばれている間も、ベッドに横たえられてからも、全く目を覚まさない。
しょうがないから家主を除く5人で片付けを済ませて、パーティは終了した。
「もう、しょうがないなぁ」
寝室へ様子を見に行くと、ケイはさっき寝かせた状態から寝返りすら打たずに熟睡している。
パーティ用のスーツを着たまま寝てしまったから、パジャマに着替えさせてあげなきゃ。
私はケイの服を脱がせて、パジャマを着せてあげた。
明日起きたら、ケイに「飲み過ぎお疲れ!」って言ってやろう。
私はそう思いながら、自分もシャワーを浴びてパジャマに着替えて、ケイの隣で眠りについた。