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第14話:攻撃の要と盾スキル

 魔族の四天王の1人・黒炎のディアモは、ゲーム設定上はミカの好感度がハート3以上になると、討伐クエスト中に出現することになっていた。

 四天王を倒すには、【絆スキル】が必要になる。

 絆スキルは、攻略対象の好感度が3以上、主人公と接触している場合にのみ発動可能なスキルだよ。



「ミカ、ちょっと腕に触れてもいい?」

「ん? いいぞ」


 天界の武術訓練場。

 剣術の稽古をつけてもらった後、私は了承を得てミカの腕に触れてみた。

 ミカはキョトンとしつつ、私を眺めている。


 仮死状態から蘇生された後、ミカは敬称も敬語も不要だと私に告げた。

 それで私は、ミカの名前を呼び捨てに、タメ口で話している。

 これは、好感度ハート2からの仕様だ。


(ディアモが登場したんだし、絆スキルが出ないかな?)


 私はそんなことを思いつつ、ステータスウィンドウを開く。

 ステータスウィンドウは、私以外には見えない。

 出会った攻略対象の名前と好感度を表わすハートも、私だけに見えるもの。


(この腕、いい筋肉してるなぁ)


 ミカの腕を揉み揉みして、引き締まった上腕二頭筋を確かめつつ、私はそんなことを思う。

 炎系の魔法と剣術を得意とするミカは、ガチムチマッチョというよりは、細マッチョな体型だ。

 私はボディビルダーのようなムッキムキの筋肉よりも、プロボクサーのように細くて程よくついている筋肉の方が好みだったりする。


 ……って、それはおいといて。


 コッソリとウィンドウを出して確認してみたところ、ミカの好感度はハートが2つ。

 絆スキル欄は、空欄のまま。

 ミカとの絆スキルは表示されなかった。


(絆スキル、出てこ~い!)


 私は念を込めてミカの腕を揉む。

 ミカはそれを見て、何か勘違いしたらしい。


「なんだヒロ、俺の筋肉が気になるのか?」

「え?」


 ミカがいきなり上着を脱ぎ始める。

 体脂肪が少なそうなお腹に、シックスパックが見えた。


「好きなだけ触っていいぞ」

「私そこまで筋肉マニアじゃないよ?」


 半裸で女の子に抱きつこうとする変態バカがいるよ~!

 私は軽く引いてしまった。


「ヒロ~っ、俺の筋肉を受……」


 超笑顔で両手を広げた直後、ミカは何かにフッ飛ばされた。

 ポカンとしてそれを眺める私の隣に、ヒヒンと嘶く天馬エーレが現れる。

 気配を感じて振り返れば、木に隠れて様子を見ていたルウが、コッソリ親指を立てて見せて「よくやった」みたいな感じでエーレを褒めてるし。

 エーレに思いっきり蹴り飛ばされて気絶したミカは、サッと飛んできたファーが口付けて回復してあげている。


(ミカとファーって本当に仲いいなぁ)


 BL好きなら歓喜しそうな光景を、私は呑気に眺めていた。



 そんな感じで天界ではコメディ担当と化してしまったミカだけど、人界では討伐隊の要で頼もしい存在だ。

 攻撃に特化した炎の大天使は、攻撃だけなら天界最強と言われている。

 ディアモはミカと同等の火力を持つ魔族で、過去の戦いで何度か引き分けたという歴史が残っていた。

 もしもミカが殺されるようなことがあれば、天界と魔界の戦力に大差がついてしまう。


 それにしても、ディアモは何故あのタイミングで出現したの?

 絆スキルが使えないから倒せないし。

 反射+反撃で追い払えたのは、たまたま私がそういうスキルを持っていたから出来ただけだよ。


 もしかしたらバグかもしれない。

 制作スタッフに後で報告した方がいいかな?

 デバッグ作業で誰かが発見してくれたらいいんだけど。


 ディアモは、ミカが生きていると知ったら、また襲ってくる予感がするよ。

 次の討伐ではミカについていこう。



 絆スキルが使えないのなら、他の方法で対策するしかない。

 ミカの絆スキルは、ゲーム内最強といわれる攻撃スキルだ。

 それの代わりになるような攻撃スキルは無いので、ミカをサポートすることで対応しよう。


「盾スキルをもっと教えて下さい」

「おお、盾の良さが分かってもらえて嬉しいよ」


 私はウリのところへ通い詰めて、盾スキルを極めることに専念した。


 天界最強火力をもつミカは、攻撃力が飛び抜けて高い代わりに防御や回避といった身を守る能力が劣る。

 ディアモの黒炎球を食らったら、1発で倒されてしまう。

 私がその欠点を補うことで、絆スキルが無くてもディアモに負けない戦力を目指そう。



「ヒロ、頑張ってるね」


 ルウの好感度は、戦技レベルが上がると一緒にUPする仕様だ。

 ひたすら稽古を続けていたら、ルウのハートが1つ増えて5から6になっていた。



「ヒロは、誰かを護りたい気持ちが強い子だね」


 稽古の合間に、盾の師匠ウリが言う。

 ついでにウリの好感度も上がり、ミカと同じハート2つになった。

 戦技を教えてくれる大天使たちの好感度は、その系統のスキルレベルの上昇に応じて上がる。



「ミカ、私があなたの盾になるから、連携の練習に付き合って」

「お?! 嬉しいこと言うねぇ。いいぞ」


 私はミカに頼んで、攻守の連携の練習を繰り返した。

 上手く連携がとれるようになる頃には、ミカの好感度が少し上がっていた。

 といっても、絆スキルが発現するハート3つ目はまだ遠い。

 次の討伐先でまたディアモが襲ってきたら、2人の連携で頑張ろう。

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