私を抱えて飛ぶミカと、その後ろを飛んでいる天馬は、天界へ帰る途中で他の天使たちと合流した。
下位天使たちが、天界へ救援を頼みに行ってくれたらしい。
真っ先に飛んできたのは、飛翔速度天界最速のファーだ。
「ミカ、良かった。生きてたか……」
ファーは無傷のミカを見て、ホッとしたように微笑む。
下位天使たちが救援を呼ぶために離脱したとき、ミカはまだ仮死状態になっていた。
ファーはミカが死んだりしていないか心配していたらしい。
彼は四大天使の中でも特にミカと仲が良かった。
「ディアモの黒炎球を食らったときはもうダメかと思ったけどな。ヒロが蘇生してくれたおかげで命拾いしたぜ」
と言うミカは、今は元気そう。
でも、倒れていたミカを抱き起したときは、心臓も呼吸も止まっていたよ。
そのまま何もしなければ、確実に死ぬ。
ディアモが私を攻撃せずに、仮死状態のミカに追撃していたら、存在エネルギーが完全に尽きて死亡しているところだった。
(心肺停止からキスだけで蘇生できるなんて、現実世界じゃありえないよね)
私はそう思いながら、ミカの顔を見上げる。
ミカが視線に気付いて、口角を上げて微笑む。
そこへ、スッと近付いたルウがミカの腕の中から私を奪い取った。
「え?!」
「?!」
その素早さ、風の如し。
天界最速のファーもビックリな素早さ。
ルウは私をお姫様抱っこして額にキスすると、ミカの方を見て微笑む。
その笑みは、ほんの少し引き攣っていた。
「そうか良かったね。帰ったらゆっくり休むといい」
「え? あ、はい」
何が起きたか分からないミカはポカンとしている。
ミカの後ろで私を背中に乗せろと抗議の嘶きをしていた天馬も、突然のことにキョトンとしていた。
『ヒロ、ミカの好感度は今いくつだ?』
私もキョトンとしていたら、深層意識で待機中のケイが念話を送ってくる。
私は自分だけが見えるステータスウィンドウを開いて、ミカの好感度を確認してみた。
『あれ? 増えてる……』
ミカの好感度。
討伐隊の出発前は半分だけ赤いハートが1つだけだった。
今は、2つになっている。
ハート2つは、頼れる存在、信じられる相手と思っている状態だ。
ディアモを倒したわけではないので、エピソードとしては失敗の筈。
なのにミカの好感度が上がるなんて、どういうこと?
『多分、命の恩人として認識したんじゃないか?』
『まさか、蘇生だけでこんなに増えるとは……』
『強敵にやられて死を覚悟したところを救ったんだろ? そりゃそれくらい増えると思うぞ』
ケイと私は、コッソリ念話でそんな話をする。
その会話が聞こえている筈のルウは、涼しい顔で私を抱いたまま飛んでいた。
◇◆◇◆◇
天界にある神殿は、ルウの居城であり、天使軍の報告の場でもある。
討伐隊の指揮官であるミカは、天使長ルウに今回の出来事を詳しく報告した。
「襲撃者は黒炎のディアモ単独です。俺だけを執拗に狙って攻撃してくるので、部隊から離脱して空中戦に持ち込みましたが、残念ながら敗北してしまいました」
ミカはディアモと空中戦を繰り広げているうちに、下位天使たちの部隊との合流空域に来てしまったらしい。
炎の大天使と黒炎の四天王は対極にある者。
その力は互角であり、第三者の介入などが無ければ戦いは決着がつかないって公式ガイドには書いてあった。
「私たちは予定よりも早く討伐ノルマを達成したので、合流空域へ行って待つつもりでした。でも行ってみると魔族との戦闘中の様子が見えて、驚いて声を上げてミカ様に不利な展開を生んでしまいました。申し訳ございません」
下位天使グループのリーダーも報告して詫び、私も一緒に頭を下げる。
私たちがミカの気を逸らしてしまったことは間違いなかった。
もう少し遅れていたら、ミカが攻撃を受けることはなく、ディアモは決着つかずで撤退していたかもしれない。
「それで、襲撃者はどうしたんだい?」
「次の標的が私になったので、盾スキル【
最後は私が報告。
盾スキルを活用したと聞いて、盾の師匠であるウリが一瞬微笑む。
ウリは私が視線を向けると、すぐ真面目な表情に戻った。
◇◆◇◆◇
真夜中、ルウの寝室。
いつもなら2人きりになったらケイと交代してくれるルウが、珍しく身体の主導権を譲らない。
「ヒロ、愛してる」
ベッドの上で寄り添いながら、ルウは繰り返し囁く。
少年声なのに、ケイが囁いているように感じた。
「私は、君と一緒にエンディングを迎えるのを楽しみにしているよ」
ルウは私にキスをして、また囁く。
それはまるで、私に言い聞かせているようだった。
もしかして、ミカにお姫様抱っこされてたから妬いた?!
主人公が他キャラと結ばれると闇落ちするという天使長。
多分、独占欲が強いのかな?
ケイもそうだから、なんとなく分かる。
「私がエンディングを目指す相手はルウだけだよ」
信じてほしい。
私が他の攻略対象とのエンディングを目指すことは絶対ないから。
私はルウを抱き締めて囁き、唇を重ねた。