天馬ケインは、神々しい白い毛並みに、空色の宝石みたいな優しい瞳、白鳥のように大きな翼で天駆ける駿馬。
まさかそのケインが、ルウの召喚獣だったなんて……。
「こんなに本物そっくりな天馬を作り出せるのは、天使長様くらいだな」
「本物と並んでいても、見分けがつかないレベルだねぇ」
討伐隊の天使たちが仕上がりを称賛する。
驚いているのは、私だけだった。
「みんな、なんで分かるの?! 私、全然気付かなかったよ?!」
「ん~、見慣れてるから、かなぁ」
「何度か見ていれば、放つオーラの違いが分かるぞ」
違いが分かるほど天馬と召喚獣を見ることは、主人公にはないと思う。
だって、そんなシーン台本に載ってなかったし。
魔法で疑似生命体を生み出す召喚魔法。
召喚獣は術者のセンスで様々な姿のものが生み出される。
ルウが生み出した天馬は神々しくも、生き物だと認識させる存在感があった。
……それはいいとして。
召喚獣って、その目で見たものを術者に送ることができるんだよね。
この天馬が見たものは、ルウに送られていた?
例えて言うなら、監視カメラの映像をリアルタイムで見るようなもの?
つまり、ディアモ戦の一部始終を見られてた?
(……ま、まずいかも……)
私は、サーッと青ざめた。
突き飛ばされて落ちたところ、全部見られてた?!
ルウが見てるってことは、情報を共有するケイも見てるよね?
もう怒られる予感しかないよぉ~!
「うわぁ……油断して落馬するなんてカッコ悪いとこ見られてたの?!」
「大丈夫、ウッカリ瀕死なんてよくあることさ」
「いや、それ慰めになってないから」
頭を抱える私の肩をポンポンと叩いて、ミカが一応慰めて(?)くれるけど。
ウッカリ瀕死経験者の彼が言うと変な説得力があるね。
(ケイなら怒る、絶対怒られる……)
仕事に関しては、ケイは厳しかった。
ウッカリミスで怪我をして仕事ができなくなるなんて許されない。
主人公は死なないけど、身体を動かせなくなったら戦線離脱することになる。
現に落馬した後は、骨折で起き上がることもできなくなった。
ミカが回復してくれたから
「下手な立ち回りして、帰ったらお説教かなぁ」
私は溜息混じりに呟く。
ミカを護る筈が、逆に助けられちゃったから。
ションボリしながら乗ろうとしたら、天馬が光の粒子に変わってしまった。
バランスを崩して転びそうになる私を、誰かの腕が支える。
「叱ったりしないから、早く帰っておいで」
「?!」
ケイの声だ。
ハッと顔を上げたら、ケイがそこにいた。
「ごめんね、落馬を止められなくて」
驚きで言葉が出てこない私を、ケイが軽々と抱き上げた。
その背中には、天馬と同じ白い翼がある。
顔立ちや体格はルウと同じだけど、ルウは6対の翼、今ここにいるケイは1対の翼だ。
……ケイの姿をした召喚獣?!
で、それを使ってケイが会話しているの?!
「突き落とされたりしないように、こうして抱いていれば良かった」
そう言いながら私を抱えて飛び立つケイの後に、ミカたちが続く。
帰りは何事も無く天界に着いて、私たちは天使長がいる神殿へ向かった。
◇◆◇◆◇
「状況は全て見ていた。皆、すぐに帰って休みなさい」
報告は不要と告げられ、討伐隊の面々が自宅へ帰っていく。
私はケイ(召喚獣)に抱えられたまま、寝室へ連れて行かれた。
ケイに似ているルウが並んで歩くと、まるで双子のようだ。
「ごめんなさい」
ルウの部屋。
ベッドに寝かされた私は、とにかく謝った。
盾スキルがあるからと慢心して、危険な状況に陥ったことを詫びようと思ったの。
「今度はもっとしっかり皆を護るから。同じ失敗は……」
言ってる途中で、ケイの口付けで止められた。
前にも似たようなことをされたなぁ……と、ほんのり思い出す。
「ケイはね、ヒロが頑張ってくれることは嬉しいけれど、ヒロに危険が及ぶことはしてほしくないんだって」
ベッドに腰かけて、ルウが穏やかな声で言う。
ケイに唇を塞がれていて喋れない私は、黙ってそれを聞いていた。
「ヒロが主人公特性で死なないのは知ってる。でも、傷を負えば痛い筈だよ」
ルウが、そっと私の頭を撫でる。
その撫で方は、小さい頃に風邪をひいて寝込んだ私を撫でるケイに似ていた。
「俺はヒロが大切で、怪我をしたら心配なんだ。失敗を怒るなんて、この世界でな無いよ」
長い口付けの後、ケイが微笑んで言う。
私がボーッとしていたら、ケイとルウが布団の中に入ってきて、私を真ん中に川の字になった。
「もっと早くにこうしていれば良かった。そうすれば、添い寝を譲らなくて済んだのに」
ルウが囁く。
布団に入った彼はスーッと縮んで、いつもの少年の姿に変わった。
少年の姿は、天使長という殻を脱ぎ捨てたルウの無防備な姿でもある。
「でも私としては、ケイとルウには1つの身体に入って寝てほしいな。でないとどっちに抱きつけばいいのか困るもの」
私は正直な意見を述べた。
川の字の真ん中も悪くないけれどね。
「そうだな。ヒロがゲームをクリアするまでは、俺はルウの一部だからな」
ケイがそう言ったとき、ルウが私の手をギュッと握った。
チラリと見たルウは、ちょっと拗ねたような顔をしている。
ゲームクリアまでの仲だと言われるのが嫌なのかもしれない。
感情豊かになったルウの好感度は、現在ハートが7つ。
MAX10になるとき、ルウはどんな感情を向けるのかな?
コッソリと好感度チェックをしていた私は、ミカの好感度がハート3になっていることに気付いた。
絆スキルも表示されている。
(……え? 今頃?)
ディアモ討伐イベントで使う筈だった、ミカとの協力攻撃スキル。
倒した後に使えるようになるなんて、やっぱりバグなのかもしれないね。