目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第16話:召喚獣

 天馬ケインは、神々しい白い毛並みに、空色の宝石みたいな優しい瞳、白鳥のように大きな翼で天駆ける駿馬。

 まさかそのケインが、ルウの召喚獣だったなんて……。


「こんなに本物そっくりな天馬を作り出せるのは、天使長様くらいだな」

「本物と並んでいても、見分けがつかないレベルだねぇ」


 討伐隊の天使たちが仕上がりを称賛する。

 驚いているのは、私だけだった。


「みんな、なんで分かるの?! 私、全然気付かなかったよ?!」

「ん~、見慣れてるから、かなぁ」

「何度か見ていれば、放つオーラの違いが分かるぞ」


 違いが分かるほど天馬と召喚獣を見ることは、主人公にはないと思う。

 だって、そんなシーン台本に載ってなかったし。


 魔法で疑似生命体を生み出す召喚魔法。

 召喚獣は術者のセンスで様々な姿のものが生み出される。

 ルウが生み出した天馬は神々しくも、生き物だと認識させる存在感があった。


 ……それはいいとして。


 召喚獣って、その目で見たものを術者に送ることができるんだよね。

 この天馬が見たものは、ルウに送られていた?

 例えて言うなら、監視カメラの映像をリアルタイムで見るようなもの?

 つまり、ディアモ戦の一部始終を見られてた?


(……ま、まずいかも……)


 私は、サーッと青ざめた。

 突き飛ばされて落ちたところ、全部見られてた?!

 ルウが見てるってことは、情報を共有するケイも見てるよね?

 もう怒られる予感しかないよぉ~!


「うわぁ……油断して落馬するなんてカッコ悪いとこ見られてたの?!」

「大丈夫、ウッカリ瀕死なんてよくあることさ」

「いや、それ慰めになってないから」


 頭を抱える私の肩をポンポンと叩いて、ミカが一応慰めて(?)くれるけど。

 ウッカリ瀕死経験者の彼が言うと変な説得力があるね。


(ケイなら怒る、絶対怒られる……)


 仕事に関しては、ケイは厳しかった。

 ウッカリミスで怪我をして仕事ができなくなるなんて許されない。

 主人公は死なないけど、身体を動かせなくなったら戦線離脱することになる。

 現に落馬した後は、骨折で起き上がることもできなくなった。

 ミカが回復してくれたから身代わりの反撃サクリファイスアタックが使えたけど、守りの要が失敗して皆を危険に晒すなんて、絶対やっちゃいけないことだ。


「下手な立ち回りして、帰ったらお説教かなぁ」


 私は溜息混じりに呟く。

 ミカを護る筈が、逆に助けられちゃったから。

 ションボリしながら乗ろうとしたら、天馬が光の粒子に変わってしまった。

 バランスを崩して転びそうになる私を、誰かの腕が支える。


「叱ったりしないから、早く帰っておいで」

「?!」


 ケイの声だ。

 ハッと顔を上げたら、ケイがそこにいた。


「ごめんね、落馬を止められなくて」


 驚きで言葉が出てこない私を、ケイが軽々と抱き上げた。

 その背中には、天馬と同じ白い翼がある。

 顔立ちや体格はルウと同じだけど、ルウは6対の翼、今ここにいるケイは1対の翼だ。


 ……ケイの姿をした召喚獣?!


 で、それを使ってケイが会話しているの?!


「突き落とされたりしないように、こうして抱いていれば良かった」


 そう言いながら私を抱えて飛び立つケイの後に、ミカたちが続く。

 帰りは何事も無く天界に着いて、私たちは天使長がいる神殿へ向かった。



   ◇◆◇◆◇



「状況は全て見ていた。皆、すぐに帰って休みなさい」


 報告は不要と告げられ、討伐隊の面々が自宅へ帰っていく。

 私はケイ(召喚獣)に抱えられたまま、寝室へ連れて行かれた。

 ケイに似ているルウが並んで歩くと、まるで双子のようだ。


「ごめんなさい」


 ルウの部屋。

 ベッドに寝かされた私は、とにかく謝った。

 盾スキルがあるからと慢心して、危険な状況に陥ったことを詫びようと思ったの。


「今度はもっとしっかり皆を護るから。同じ失敗は……」


 言ってる途中で、ケイの口付けで止められた。

 前にも似たようなことをされたなぁ……と、ほんのり思い出す。


「ケイはね、ヒロが頑張ってくれることは嬉しいけれど、ヒロに危険が及ぶことはしてほしくないんだって」


 ベッドに腰かけて、ルウが穏やかな声で言う。

 ケイに唇を塞がれていて喋れない私は、黙ってそれを聞いていた。


「ヒロが主人公特性で死なないのは知ってる。でも、傷を負えば痛い筈だよ」


 ルウが、そっと私の頭を撫でる。

 その撫で方は、小さい頃に風邪をひいて寝込んだ私を撫でるケイに似ていた。


「俺はヒロが大切で、怪我をしたら心配なんだ。失敗を怒るなんて、この世界でな無いよ」


 長い口付けの後、ケイが微笑んで言う。

 私がボーッとしていたら、ケイとルウが布団の中に入ってきて、私を真ん中に川の字になった。


「もっと早くにこうしていれば良かった。そうすれば、添い寝を譲らなくて済んだのに」


 ルウが囁く。

 布団に入った彼はスーッと縮んで、いつもの少年の姿に変わった。

 少年の姿は、天使長という殻を脱ぎ捨てたルウの無防備な姿でもある。


「でも私としては、ケイとルウには1つの身体に入って寝てほしいな。でないとどっちに抱きつけばいいのか困るもの」


 私は正直な意見を述べた。

 川の字の真ん中も悪くないけれどね。


「そうだな。ヒロがゲームをクリアするまでは、俺はルウの一部だからな」


 ケイがそう言ったとき、ルウが私の手をギュッと握った。

 チラリと見たルウは、ちょっと拗ねたような顔をしている。

 ゲームクリアまでの仲だと言われるのが嫌なのかもしれない。


 感情豊かになったルウの好感度は、現在ハートが7つ。

 MAX10になるとき、ルウはどんな感情を向けるのかな?


 コッソリと好感度チェックをしていた私は、ミカの好感度がハート3になっていることに気付いた。

 絆スキルも表示されている。


(……え? 今頃?)


 ディアモ討伐イベントで使う筈だった、ミカとの協力攻撃スキル。

 倒した後に使えるようになるなんて、やっぱりバグなのかもしれないね。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?