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第5話 卒業後の進路


 月日つきひは流れ、僕、鴻巣こうのす涼介りょうすけ神森かみもり 貴之《たかゆき》はそろって大学を卒業することが出来た。


 卒業制作は、「僕たちが考えた宗教」とでも標榜ひょうぼうするべきか、ゼミの指導しどう教授きょうじゅがテキトーだったおかげで、「自分たちでこういう宗教を考えました」という本当にガキの夏休みの自由研究レベルのもので卒業することが出来た。まあ、いまどきのガキの自由研究もバカに出来ないらしいので、それ以下の可能性も全然ある。


 僕はその卒制をする前に神森に告げた。

「ミモリ」

 ミモリとは神森の「か」を抜いた僕が彼のことを呼ぶあだ名だ。

「ミモリはカリスマ性がある」

 ある時、僕は神森に唐突にそう言った。

 神森は苦笑していた。「ねえよ。カリスマ性なんて。お前の過大評価だ」

 僕はゆずらなかった。

「いいや。僕さ、ミモリを教祖きょうそにして、宗教やりたいんだよね」

「お前。頭おかしいのは知ってたけど、そこまでとは・・・」

「教祖になってよ」

「なにいってんの?」

「これが正しいんだよ」

「はあ?」

「世の中にはさ、新興しんこう宗教ってのが、たくさんあるだろ?」

「あ、あんのかもな。まあ、俺たちが知ってる以上にあるのかもな。目立つところは目立つけど、目立ってない小規模な宗教もあるんかもな」

「自分から『私は教祖だ』って言い出してるヤツは偽物ニセモンだと思うんだよ」

「なるほど」

「本物の教祖は自分のことを教祖だと思わない。その点、ミモリは自分のことを教祖だと思ってない。だから、ミモリは教祖たりえるんだよ」

「いや。一理なくはない。でも。えー、俺が教祖?」


 ※


 こんな感じで僕らの卒業制作はスタートした。卒業制作のコンセプトは、「新しい信仰を作り出し、いずれ宗教法人化するための企画戦略」というていで話を進めた。

 まず、法人化されるためには、3年以上の活動実態が必要だ。卒業前から信仰を始めて、卒業後数年してからの法人化を目指すていだった。

 もちろん、教義も必要。僕は、神森の言葉を一言ったことを百までふくらませて教義を考えた。一応、信仰の名称は、『神の森の集い』というものだった。これは、完全に神森と密着している教義だった。


 まず、はじめに、人々は、広大なるなんのめぐみもない砂漠さばくにいた。そして、水を求めて、オアシスとでもいうべき「森」にたどり着いた。それが、『神の森の集い』だった。

 僕たちの信仰では、「神」という言葉こそ使っているけれども、「ヤーヴェ」みたいな神神してる神は設定しなかった。

 この世界こそが、「森」であり、そして、いま、森ははげしく荒らされている。その荒らされている森を、教祖・神森の導きによって安寧あんねいをもたらす、という趣旨しゅしだ。

 具体的にどのような方法でお祈りをするかというと、三角形の三頂点にそれぞれ人が立つ。そして、ちょっとした丸太まるたのようなもの、頑張れば成人女性でも持てるくらいの。その丸太を三角形の辺を歩き、次の頂点まで運び、バトンタッチをする。そして、受け取ったものが、次の頂点へ。このくり返しで、三角形の中心が異界いかいへの出入り口となり、精霊せいれいを呼び出して、この世に安寧をもたらそうという試みだった。


 まあ、教義の話はまた今度するとして。


 それから、信者ももちろん必要である。

 法人化のためには少なくとも3人の幹部も必要だったので、神森に恋愛感情を抱く女子学生を利用させてもらった。


 そして・・・

 宗教法人となるためには、礼拝所れいはいじょが必要だった。神森の親がタワマンの4LDKの部屋を借りてくれたので、そこを礼拝所とすることにした。


 礼拝所は『みなもとなる森』と僕たちは呼んだ。

 僕と神森は実家に住所を残したまま、頻繁ひんぱんに『源なる森』で逢瀬おうせを重ねた。体を重ね合わせたのだった。


 幸い、神森好きの女子たちは、「他の女子に神森を取られるのは許せないけれど、男の鴻巣と愛し合っているのならば、神森についてゆく」と盲目的だった。


 ・・・と、まあ、本当にガキの遊びレベルのことをやって、あまりにも指導教授がテキトーすぎることもあり、これでめでたく卒業だった。


 僕たちは卒業後の進路が明確に定まっていなかった。

 神森は、小説を書くと言った。

 僕は、本気で宗教法人化を目指すと言った。


 こうして、クソニートフリーターが二人爆誕ばくたんしてしまったわけだが、なんと神森好きの女性たち(元女子学生)たちが、僕らにほどこしを与えてくれたのと、親の援助により、僕らは『源なる森』で奇妙な共同生活という船出ふなでを始めたのだった。


 今日も神森は文学賞に投稿する小説を書き、僕は動画投稿サイトに『神の森の集い』のコンテンツを増やしていっている。


 はたして、こんな生活がどれほど続くものなのか、そんなことは考えないくらいに僕たちは向こう見ずだった。


【つづく】



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