小さい時から、何かにつけて自分の領域というモノに並々ならない拘りを持っていた。
パーソナルスペースでも良いし、子供の頃に男の子なら憧れた事があるかもしれない秘密基地でも良い。それらを保つ事、持つ事に私は一定以上の熱量を注いでいた。
故に、こうなる事は必然だったのかも知れない。
「――成れるの?ダンジョンマスターに!?」
『うぉ、大声。まぁうん、成れますよ。自分のダンジョンを持てるし、それを発展させる事も自由。どうやってやるかは……まぁゲーム内の方が説明し易いですね』
「ホント?やったぁ。じゃあ早速入ってみるよ。ありがとう」
自分だけの魔術を創造し、成したい事を出来るVRMMO――Arseare。
サービス開始から既に1年経ち、良いところも悪いところもネット上に拡散されたゲームであり、豊富なコンテンツや今も尚繰り返される大型アップデートの数々から根強い人気がある作品だ。
とは言え、私はこれまでそれに触れてこなかった。
理由は簡単。別のゲームで忙しかったからだ。
『それじゃあ中で会いましょう。手解きとかも出来ますし』
「それはありがたい!中での名前は?いつもの?」
『えぇ、いつも通りです』
友人との通話を終え、早速自身の使い古したVR機器にArseareをインストールさせ……程なくして完了したソレを被り、ベッドに横になる。
……ここから、私のダンジョンマスター生活が始まる訳だね!
VR機器を起動させると共に、身体の内側から何かが沈んでいく様な感覚と共に、私の視界は黒く染まっていった。
―――――
次に私の視界に映ったのは、何処かの映画館の様な場所。
いつの間にか中央の、スクリーンがよく見える座席に座っていた私のすぐ横には1人の……燕尾服を着た白髪の女性が座っていた。
『新しい魔術師様、私は初期チュートリアル担当のAI、仮称名ベータと申します。よろしくお願いします』
「あっ、よろしくお願いします!ここではキャラメイクとか出来るんですよね?」
『そうなります。では早速始めていきましょう』
ベータと名乗ったNPCが指を鳴らすと同時、私の目の前にウィンドウと半透明のキーボードが出現した。
『まずはゲーム内で使う名前から。お好きな名前を入力してください』
「はいはーい!……これでどうでしょう!」
『入力……確認。マリス様ですね。間違えはありませんか?』
「大丈夫です!」
マリス。私が普段からゲームやSNSで使う、憎悪を意味する英語をカタカナ読みした名前。
私のプレイスタイル的にもこの名前は合っている為、気に入っているモノだ。
『では、続いて……アバターの作成を行っていきましょう。スクリーンと、手元のウィンドウをご覧になりながらお聞きください』
言われ、先程まで何も映っていなかったスクリーンへと目をやると。そこには3種の人型モデルの姿が映っていた。
1つは、現実の私のような普通の人間。
もう1つは、人の形をした獣のようなモデル。
そして最後に、人に羽や長い耳をつけたモデルだ。
『それぞれ、現実の人間と同じ特徴を持つ『人族』。人族を基に、動物の特徴を持った『獣人族』。そして体格などが人族のそれから大きく変わる代わりに魔術に秀でた才能を持つ『妖精族』。この3つの内1つを選んでいただきます』
「成程……あぁ、それでこの手元のウィンドウ!」
次に手元のウィンドウへと目をやれば、そこにはそれぞれの種族を選んだ上で、細かい調整を行える設定画面が表示されていた。
例えば、獣人族ならば。人と獣の割合を弄る事が出来、ほぼ人間と変わりなくケモミミが付いているだけのモノから、ほぼ獣と変わらない状態のモノまで調整が可能らしい。
……ここで初期ステータスが変わる訳かぁ……成程ね!
とは言え、私は普通のプレイをするつもりはない。
無難に選ぶならば……人族にはなるだろうが、
「よし、じゃあこの妖精族の魔人?ってのを選びます!」
『……失礼、宜しいのですか?説明にも書いてある通り……』
「大丈夫です!魔力が暴走?とか書いてありますけど、まぁ慣れればいいですし!」
『分かりました。マリス様の選択を私は尊重します。……ではアバターの作成に入らせていただきます』
手元から設定画面が消え、新たにアバターの作成ウィンドウが出現する。
1から自分で全ての設定を行えるフルスクラッチか、元々VR機器に保存されているアバターを読み取り調整するアジャストの2つが選べるらしい……が、ここはそこまで拘るつもりはない為、いつも使っているアバターを読み取る事にした。
『ではアバターのスキャンが終わるまでの間、このArseareにおける最大の個性……魔術の創造を行いましょう』
「おぉ!やったぁ!」
ゲームのキャッチコピーにもなっている、自分だけの魔術を創り出すコンテンツ。
ここでそれに触れることが出来るとは思っていなかった為に、少しだけテンションが上がってしまった。
その反応に満足するように薄く笑ったベータは、再度指を鳴らす。
瞬間、私の目の前には開いた状態の何も書かれていない白紙の巨大な本が出現した。
『それは、魔術の創造に必要な【白紙の魔導書】というモノです。それに触れていただくと、専用の設定ウィンドウが出現しますので……どうぞ、触れてみてください』
「わっかりました!」
言われるままにそれへと人差し指を伸ばしてみると。
私の目の前にポップな電子音と共に、2種類のアイコンが浮かぶウィンドウが出現した。
……思ってた以上に魔術の創り方って自由度高い……?
『自動創造』、『詳細創造』と書かれたそれらのアイコン。
試しに詳細創造のアイコンへと触れてみると、更に幾つかのアイコンが私の目の前に出現した。
「これはー……?」
『詳細創造では、その魔術の発動から効果の設定までを自分で。自動ではその逆に、魔術のコンセプト以外は全て自動で設定される創造方法となります。本来、魔術を創造する場合はアイテムが必要なのですが……今回はチュートリアルと言う事で、何も消費せずに行えるようになっています』
「成程、なーるほどー」
ベータの言葉を聞きながら、私は魔術をどう創っていくかを考える。
私がしたいArseareでしたいと考えているのは、ダンジョンマスター。それも他のプレイヤーに危害を加え、やりたい事をやる……但し、迷惑の掛からない範囲でという、所謂悪役ロールプレイだ。
……って事は、とりあえず……攻撃系?でも配下も欲しいよね。
考え、目の前のアイコンをタッチしていく。
魔術の発動方法を……まずは慣れる為にと【
種別を……魔術を攻撃で使う為に【
また、その先の効果を……と考えた所で、
「質問なんですが、この攻撃手段のアイコンを選ばなかった場合ってどうなるんですか?」
『その場合は、自動行使と同じ様にゲーム側が自動で設定しますのでご安心を』
「おぉ、便利ー。じゃあこれで!」
設定完了をタッチすると同時。
『以下の内容で魔術を創造しますか?』という文章と、是否を問うアイコンが目の前に出現したため躊躇う事なく人差し指で押し込めば。
【白紙の魔導書】が光り輝き始め、開いていた1ページが未知の言語で埋め尽くされていった。