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Episode2 - ハローフレンズ


【魔術を創造しました】

【名称を決めてください】


 ――――――――――

【名称未設定】

種別:攻撃

等級:初級

行使:発声

効果:対象を指定して発動

   発動後、その対象のHPが0になった場合、その対象の影を使役する事が可能

   使役出来る数はキャパシティに依存する

キャパシティ:0/3

――――――――――


「出来た!……けどぉ……?」

『満足いかない場合、チュートリアルに限り創り直しが出来ますが……?』

「いや、大丈夫!ちょっと頭で処理するのが遅れただけだから!」


 中々に難しい魔術が出来てしまったようだ。それも、攻撃とは名ばかりの……補助系に分類されてもおかしくはない魔術が。

 だが、これはコレで面白い。私が求めていた配下を得る事が可能な魔術でもあるのだから。

……えーっと魔術の名前は……うん、これにしよう!こういうのは心の中の厨二病を発揮するものだよね!

 魔術の名称を【影縛りの枷デペンデント】へと設定し、軽い満足と共にちょっとした羞恥心を味わっていると、


『では読み取りも終わりましたので、選ばれた種族と共にアバターの適用を行います』

「お……おぉ!?」


 ベータがそう言うと共に、私の視点が変わっていく。先程まで普通の映画館に見えていたこの部屋のモノが、ベータを含め元の倍程度大きくなっていくのだ。

 否、周りが変わったのではない。私がアバターの適用によって先程の三分の一程度までに小さくなった・・・・・・

 私のサイズに合わせたウィンドウが目の前に出現し、現在の状態を教えてくれる。

 青白いウルフカットの髪に、スレンダーな身体。それに合わせるようにして、RPGなどの村人が着ていそうな布の服を着た、透明な羽根の生えた可愛らしい妖精の姿がそこにはあった。


「すっごい!妖精族って言ってもここまでとは思ってなかったですよ!」

『喜んでいただき私も嬉しいです。調整はよろしいですか?』

「はい!これで!」


 そう言うと、目の前からウィンドウが消えると共にベータが今の私の視線に合わせるように屈み、


『これにて、マリス様はこのArseareにおけるプレイヤー……創魔の術師となりました。貴女は魔の頂きを目指す為、多くのプレイヤーやそれ以外の人……そして多くの困難と立ち向かうことになるでしょう。しかしながら、【創魔クリエイト】と、その新たに創り上げた術と共に歩いていく事をお祈りします。……貴女様のこれからの魔道に、知恵の光あらんことを』


 これまでで一番長いセリフを言うと共に、周囲の景色がその姿を変えていく。

 巨大なスクリーンや座席は消え失せると共に、何処か中世を思わせる街並みに。

 私とベータ以外に居なかったそこには、多くの種族が混じる人々が行きかい始め。

 そして私の背後には、少しの涼しさを感じる噴水が出現していた。


【始まりの街:イニティ】


『キャラメイク、チュートリアルは終了となります。ここから先は、プレイヤーであるマリス様の思う通りに進んでください。尚、オンラインヘルプは――』


 ログを読み飛ばしながらも、私は笑みを浮かべる。

 ここが第一歩。私の……マリスの、Arseareにおける悪役ロールプレイのスタートラインがここなのだ。

 とは言えど、私はまだこの世界に不慣れだ。システムによる補助か、意識せずとも背中の羽根を使って飛べるものの、魔術の行使やこの世界における知識、常識は全く持っていない。

 故に、


「お、来ました……ね?」

「おぉー!お待たせ、クロエ!」


 友人を頼る事にしよう。

 声の掛かった方向へと身体ごと視線を向ける。すると、だ。そこにはRPGの魔術師然とした姿をした、この世界へと私を誘ってくれた友人の姿があった。

 彼女は何か困ったようにこちらへと手のひらを向けつつ、こめかみ辺りをもう片方の手で押さえ。


「待って、待ってください。妖精族を選んだんですか?それも……視る限りそれ魔人ですね?!」

「そうだよー。私の性格知ってるでしょ?」

「知ってはいます。貴女がノーマルよりもハード、ハードよりもマッドネスを好むのは!でもまさか初見のゲームでもそれを選ぶとは思わないでしょうに!」


 彼女はひとしきり私の容姿に対する愚痴を吐き終わった後、噴水の淵へと腰を掛ける。

 私はその帽子を脱いだ彼女の頭の上へと座り込んだ。


「――で、流石にパワーレベリングはダメですよね」

「面白くないね!でも最初の1体だけは手伝ってもらうかも」

「その心は?」

「私の魔術的に、一番最初だけが本当にどうしようもないくらい弱いんだよね。具体的には、この身体で肉弾戦しないといけない程度には」

「……成程、それじゃあ助けはしましょう。あと……」


 彼女は一息吐き、私にも見える様にウィンドウを出現させた。

 そこには現在私達が居るイニティを中心とした詳細なマップが表示されている。


「ここ、イニティの地下と上空に私の持つダンジョンが存在します。上空の方には何もありませんが、地下の方にはそれなりに強い敵性モブが出てくるので、素材が欲しかったらそこに来てください。大体私もそこに居るので」

「あ、クロエもダンジョンマスターなの?そういう面倒そうなコトはしなさそうなのに」

「このゲーム、素材を安定的に得るならダンジョンマスターをした方がいいんですよ。実質的にダンジョン1つ分の素材を半無限資材として使えるので」


 成程、と1つ頷いていると。

 彼女は指をそのままイニティの外……何やら巨大な森が表示されている所へと動かした。


「そこは?」

「ここは『惑い霧の森』という、このゲームでも最大規模のプレイヤー管轄のダンジョンです。全4層、上層部は初心者向け、中層は中級者、そこから下は全て上級者でも攻略が難しいダンジョンになっています。丁度イニティの近くにあるので、最初の1体分はここで済ましましょう」

「へぇ……良いねぇ、そういうダンジョンも」


 私の声色が気になったのか、クロエは若干慌てたようにしながら、


「あ、マリスやめてください。ここの主はちょっと私でも敵わないレベルの人なんで。というか、その気になったらダンジョンに入った瞬間にHP全ロスですよ」

「……そんなにレベル違うの?」

「レベルってより、戦い方やら魔術やらがちょっとおかしいですね。あの人。前線で戦うプレイヤー達が使ってる魔術体系の1つを作り上げたって言えば……どうです?」

「レベルが違うってよりは、もう現代の魔女とかそのレベルじゃんか……」


 兎も角。

 私とクロエはそのまま『惑い霧の森』へと移動する事にした。

 途中、イニティの外に広がる草原にてイニティラビットという……何やら凄く周囲を煽り散らかしている兎にエンカウントしたものの。

 クロエがすぐさま空へと打ち上げていた為にそこまで脅威を感じる事は出来なかった。


「よし、入りますよー」

「はーい了解!」


 何やら霧が漏れ出ている森の入り口前でパーティを組み、私達は共に中へと入っていく。

 私が想像していたダンジョンの入り口とは違う様相に、少しだけ驚きつつも。濃い霧が漂う森の中を歩いていけば、


【ダンジョンに侵入しました】

【『惑い霧の森』 難度:5】

【ダンジョンの特性により、MAP機能が一時的に制限されました】


 ログが流れると共に、1メートル先も見えないような白い霧に囲まれ。

 近くにいるクロエと、周囲のちょっとした木々や草花程度しか視界に映らなくなってしまった。


――――――――――

Name:マリス Level:1

HP:50/50 MP:300/300

Rank:beginner

Magic:【創魔】、【影縛りの枷】

Equipment:布の服・上、布の服・下

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