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第11話 たくさんのお姫様を抱えた王子様。

「踊る機会なんて、誘ってくださればいくらでもあったのに、王子様はたくさんのお姫様の相手で忙しそうでしたね」

私は舞踏会で彼と踊る順番を列をなして待つ、着飾った貴族令嬢を遠目に見ていた。

多くの貴族令嬢と恋人のように密着して踊るレナード様。

きっとあそこにいた令嬢は心を込めて刺繍したハンカチを、彼にプレゼントし受け取られて歓喜したのだろう。


「私のお姫様はあなただけですよ。ミリア」

彼が私の頰に手を伸ばそうとしてくるので、思いっきりひっぱたいてやった。


「ふふ、なんだか滑稽ですわ。いつか、本当のお姫様に会えるとよいですね。きっと、魅力的なレナード様は多くの令嬢の心を奪ってきたのでしょうね。貴族令嬢たちはあなたに恋するのを通過点として、自分の夫に辿りついていくのですね。令嬢たちにとって良い娯楽を提供なさっていると思いますわ。流石、慈善活動がお得意なアーデン侯爵です。私は公女なので特別に3日間、あなたとの恋愛擬似体験を味わわせていただきました。私、無趣味なものでちょうど良い娯楽でしたわ。お疲れ様です、八方美人の王子様。私、あなたにはもう全く興味がありません。あなたといても時間の無駄なので、私はここで失礼させてもらいますわ。馬車を止めて頂けますか?」


確かに彼と一緒にいる時はときめいて楽しかった。

彼と踊りたがる令嬢の気持ちが理解できた気がする。

彼は育ちもよく性格も善良で、私には合わない。


こんな完璧な人の前で、私は弱みは見せられない。

それに彼のような男の妻になったら、女性関係のトラブルに巻き込まれるのは不可避だ。

冗談じゃない、そんなことには巻き込まれたくはない。

私は5人の妻たちが病的にいがみ合うカルマン公爵家で育ち、そういったことにはうんざりしているのだ。


「最初から、ミリアは私に興味などないでしょう。私に興味を持ってください、知ろうとしてください。確かに強引にあなたに迫りすぎて、戸惑わせたかもしれません」


馬車を止めてくれる気はないようで、彼は私を説得しようと隣に座ってくる。

私は、彼から離れようと一歩分遠くに座り直した。


「興味は持っていましたよ、3日間は。ただ、3日間あなたについて知って、興味がなくなったのです。正直、アカデミー時代はレナード様に憧れてました。でも、あなたの程度を知り、失望しています。もう、私の方はあなたに用はありませんので、邸宅までお送りいただく必要もございません」


はっきりいって、彼とはもう関わりたくはない。


彼と結婚することが既定路線で逃れられないものだとしても、深く関わらない方が良い。

父に彼を引きずりおろすように言われた時に、情など持ちたくはない。

彼の優しい家族まで見せられてしまって、正直困惑している。


「私はずっとミリアが好きでした。あなたがアカデミーに入学してきたころから、あなただけを思っています」


一度も話しかけてきたこともないのに、彼は何を言っているのだろうか。

入学して半数のクラスメートに告白され、上級生からも告白された。

その中に彼はいなかったではないか。


「私にあなたを惹きつける魅力などありません。そんなに公女と結婚したいですか?私と婚姻を結ぶリスクはお伝えしたはずですよ」


私は自分が彼のような男を惹きつける程の魅力を持っていないと分かっている。


「ミリアは十分魅力的です。あれだけ異性から愛を乞われても自分の魅力を信じられないのですか?ならばミリアが魅力的だと言ってくれた私が、あなたに夢中だということはあなたの自信になりませんか?」


私に夢中な演技をしているだけの男が、何を言っているのだろうか。


「アカデミー入学時のことを言っていますか?よく、ご存知なんですね。私に愛を乞うてきた男の中に、あなたはいなかったと記憶しております。男ばかりの中に女が放り込まれれば、どんな女でも同じ状況になると思いますよ。それは人間だけではなく、いかなる動物の世界でもそうです」


彼は私のことを4年前から好きだと言っている。

あの頃、彼から告白されていたらどうだっただろう。

でも、そんなことはなかったし、困っていた私を助けてくれたのも彼ではなくサイラスだ。


「それに、ミリアと結婚することにより起こり得るリスクも十分理解しています。同時に、私ならミリアが危機的状況に陥っても守れると自負しております」


今度は私の髪に触れようと彼が手を伸ばしてきたので引っ叩いた。


「私が危機的状況に陥る可能性を示唆するということは、カルマン公爵家の闇の深さをご存知なんですね。では、アーデン侯爵家の弱みを握らせてもらえますか?私に潰される覚悟がおありで、私を迎え入れようとしているのですよね。」


彼ほど政界の中枢で力を持っていたら、カルマン公爵家の不正など私が示唆する前から分かっているということなのだろう。

その事実を握りながら、公爵家を潰しにくるのではなく私を嫁に娶ろうとする彼の意図はなんだ。


「私は貴族派の首長カルマン公爵家には健在でいて頂きたいと思っております。帝国運営において、一方の派閥が権力を握るのはよくありません。現在は貴族派の力が強いので、アーデン侯爵家をはじめとする皇帝派の力を強める必要があるでしょう。アーデン侯爵家の弱みといえば、カルマン公爵家ほどではなくても闇を抱えているというところでしょうか」


彼があっさりと弱みを言ってきたが、これは本当だろうか。

本当の弱みを隠すためのカモフラージュかもしれない。


「どんな貴族も多かれ少なかれ闇を抱えております。それが、弱みとは思いません。私の予想があっていたら、白状してください。アーデン侯爵家は帝国の忍びの役割をしているのではございませんか?」


はっきり言って爵位剥奪されてもおかしくないレベルで悪事を働いているのはカルマン公爵家、ロベル侯爵家、リース子爵家、コットン男爵家の4つだ。

そして持っている力の大きさから言って真実が明らかになった時、帝国が傾くレベルの影響力があるのはカルマン公爵家だけだ。


私は、3日間ずっと感じていた疑いを彼にぶつけた。

いつのまにか後ろにいたり、部屋のベットに潜んでいたり彼は忍びではないだろうか。



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