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約束の日はとっくに過ぎてました-1年だけ眠るはずだったのに、目覚めたら世界が終わってたんだけど?-
約束の日はとっくに過ぎてました-1年だけ眠るはずだったのに、目覚めたら世界が終わってたんだけど?-
46(shiro)
SFポストアポカリプス
2025年07月18日
公開日
1.5万字
連載中
科学者の父やその同僚たちの実験に志願して、コールドスリープしたJKヒロイン・美幸(みゆき)。 1年だけ眠るはずだったのに、目覚めてみると、そこはかなり昔に放棄されたらしい、無人の実験施設だった。 父親の姿も、見知った科学者たちの姿もない。 目が覚めたとき、必ずいてくれるって言ったのにどうして? 外へ出てみると、建物は地上部分が全壊し、地下部分だけがかろうじて残っている状態だった。 美幸を力ずくでポッドから引きずり出して目覚めさせた謎の少年リョク。 美幸は知らないが、彼は美幸のことを知っているらしい。 美幸を自分の命賭けて護る宣言をしたリョクって、一体何者――?

プロローグ

 あたし、実はひそかに考え続けてきたことがあるの。

 この実験がはたして成功するかどうか。


 ううん、問いつめてみればこれが当初の思惑通り成功したとして、その後のあたしがどうなるのかということ。

 ……少なくとも様子をみるってことで、数ヵ月はこのタワーから出られないんだろうなあ。


 白い白い建造物。外から見たときと全然変わらなくて、どこか嘘っぽい。ハリボテっていうんじゃなくて、なんていうのかなあ……うーん……。


 そりゃあ白って清潔感あるし、明るいと思うわ。でも、ここまで徹底してるのってねー。

 あたし、もう1週間もここにいるけど、食事以外で白くないやつ見たことないのよ? フォークやスプーンだとかも危ないからって白いプラスチック。


 ここまで徹底してるのって、はっきり言って不気味よね!

 ただただ白いだけなんて、うすっぺらいわよ。あまりに無機質的すぎる!


 これっていけないことじゃない? なんとなく自分っていう存在を再認識して、いじけたくなってしまうじゃない。こーんなにもあたしは無力で、とるにたらない者なんだって。


 とるにたらない者……。         、


 ううん、違うわ。そんなことない。今までの自分だったら完全に否定できるかどうか分かんない言葉だけど、少なくとも今のあたしは違う。

 そう、言い切れる。

 今、あたし以上に貴重で、何をしても許される人はこの建物の中にいない。きっと、だれ一人いやしない。



 だって、あたしはもうすぐあの人たちの、大切な大切なモルモットになるんだから。



 彼らの実験材料になって、体中を調べつくされる。電子顕微鏡で見なきゃ分からない小さな細胞や、それこそ遺伝子、染色体まで全部。


 そうしてあたしは眠るの。彼らの話だと、ちょうど1年間。《CITY》マイルァ中央管理局所属カルヴァ第三化学技術局支部っていう、やけに長ったらしい舌噛みそうな名前の所で、初めての長期睡眠体験者という名目ととりかえっこで。


 でも、どうして『睡眠』なのかしら? 体中の細胞を瞬間凍結させられるってことでしょ? ということは、脳細胞だってそうってことじゃないのかな。

 そうして夢も見ないで、目が開いたときには1年後。体は歳を取らないまま。

 なら『冷凍』なんじゃないかと思うんだけど……。


 それともこれも、管理局と化学・技術局みたいな関係かしらね?(管理局というのは全ての局を合わせた総称なんだって)

 でね。ここで1つ問題があるの。


 それは、あたしを実験に使うってこと。


 べつにあたしの承諾なしで勝手にここまで話を進められちゃったってわけじゃないのよ?

 実はあたし、まだ17歳の未成年者なの。


 小動物を使っての短期間実験は成功して、いざ人間を使うってことになったんだけど、やっぱり表向き、聞こえが悪いじゃない、そういうの。

 実験する科学者たちのほうはいいらしいんだけど――実はみーんなあたしとは生まれたときからの知り合いだったりする――世論だとかがうるさいらしいのね。


 だけどこの機械ってネズミやサルやハトたちのために造ったんじゃないもん。今の医学界では治すことのできない病気にかかっちゃった人たちを、この装置を使ってもっと発達してるだろう未来の技術に任せちゃおうという……まあいってみれば無責任の極致のような計画。


 だってそうじゃない? いくらなんでも自分たちにできないからって未来の人に押しつけて、さあ始末がついた、なんて。

 された人だっていざ不治の病が治って命が助かったって喜んでも、知り合いなんてもうどこにもいなくなっちゃってるだろうし、恋人や奥さんがいた人なんて、もうとっくに死んじゃってるってことになるじゃない。10年やそこらで画期的な治療法が発見されたとしても、世間に出回るまでにはさらに何年もかかるし……良くて、おばあちゃんかおじいちゃんになった人と再会。


 やだよお、自分の好きな相手が自分にとって1日でそんな姿になるなんて。それぐらいならいっそ、潔く病死しちゃった方がマシって考える人も多いんじゃないかな?


 と、まあ、それはあたしの個人的な考えなんだけど。

 とにかく一般募集なんてできなかったわけ。成功したら多少文句言われたって画期的な発明なんだから強く言い返せるけど、失敗したら……だもんね。


 だからあたしに話が回ってきて、受けたの。

 あたしの父さま、ここの研究室の室長補佐だったから。


 けど、出世欲のために売られた可哀相な娘、なんて思わないでね。

 この計画について父さまの昔からの友人で同僚の科学者たちが話してるのを盗み聞いて、あたしのほうから「あたしを使ってほしい」ってお願いしたの。父さまには内緒で。


 で、彼らも、そりゃ全部理解した上で立候補するんならって歓迎してくれて。その後、志願者があたしだと知った父さまは、しばらくの間ほとんど反狂乱だった……気がする。


 この実験、失敗したら凍結してた細胞が崩れて一瞬でグチャグチャになるんだって。もおドロドロのグチョグチョ、ベチャベチャのドロンドロン。三流ホラームービーで溶けてく化物なんかがよく出てくるけど、あれよりひどいことになるって……一体どんなのだろ? 想像つかない。


 結局は、同僚たちの説得と、科学者としてのこの実験に対する思いと自信が勝って、しぶしぶ認めてくれたけど。


 まあ、そういうわけなの。


 ここへ来て1週間、体調を整えさせられる中、あらゆるチェックを受けて、小指の爪の形まで調べつくされたりしちゃったけど、そんなめんどくさいこともやっと今日で終わり。


 明日。あたしは自分で自分の時間を止めるわけ。

 たとえ成功した前例がなくたっていいの。(ネズミなんかと一緒にしないで! あたしは人間なんだから!)


 あたしにとって、今以上に悪くなることなんて、絶対ない。あり得るはずない。


 今窓から見えてる夕日もとっくに沈んで、夕方の紺色の空がもっと暗くなるころ。20時キッカリに眠るの。あたしは真冬のクマさんになって、1年後の父さまにおはようって言うのよ。そして生まれ変わったあたし、初めましてって……。

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