ピシャッ。
ゴロゴロゴロゴロゴロ……。
今にも崩れ落ちそうな石積みの塀に、黒い瘴気に薄汚れた外壁。
暗雲立ち込め、常に雷鳴が響く高原の岩肌に聳えたつその城は、魔王城の名に相応しく、禍禍しい威容を放つ。
そんな城も中に入れば超快適。使い魔どもの魔力により、常に最適な温度湿度と明るく清潔な環境が保たれている。
その最奥の、最も広く豪奢で瀟洒な部屋がインテリアにもうるさいこの俺様の棲家だ。
その日も俺は、そのさらにそのど真ん中にある黄金の玉座に腰掛け、いつもと同じように、腹心の配下ベルゼホーンから血色のワインを受け取った。
髑髏を模ったワイングラスは、禍々しくも美しい。
グラスと同じ材質のクリスタルの皿の上には、血の滴るステーキ肉が。
ちびちび
「で、今日の報告は……ぐ、ぐごがっ」
俺は思わず喉を抑えた。
おかしい、息が苦しい。
まさか……、まさか、さっきの酒に何か入っていたのだろうか。
口に手を入れ、さっき流し込んだ液体を懸命に吐き出そうとする。
しかし、俺に毒は効かないはずだ。だから無論、毒味係なども用意してはいないのだが。
はたと見ると、ベルゼホーンの奴がニヤニヤ嗤いながら俺を見ていた。
「き、貴様かベル……。言えっ、俺に何を飲ませたっ」
片手で喉を抑えつつ、もう片方でヤツの襟首を掴むと、ベルゼホーンを恫喝する。
だが、俺の力で身体を宙に浮かせながらも、ベルは薄笑いを浮かべるだけ。
「がっ……はあっ」
とうとう俺は、座った姿勢を保ちきれずに、床に両手を突いて突っ伏した。
異様な色の吐瀉物が、紅の絨毯に沁みてゆく。