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第29話 ポーションの販売価格

「それでは、今から迎撃の準備を始めろ!」


 ばーちゃんからのアドバイスを聞いてる間に、ブリーフィングは終わってしまったようだ。


 探索者たちは荷物を持ってエントランスから出て行った。


 残っているのは後方支援部隊の俺たちと誠のパーティのみ。


 ドラゴンが地下1階に来るまでやることがないので、受付のディスプレイに表示されている位置を見ながら待機していると、知晴さんがやってきた。


「裕真、お前はもう少し言葉を選ぶ力を身につけてくれ……」

「頑張ってみるよ」


 ユミにも呆れられていたし、俺も学んだよ。


 探索者は縁起を気にするってね。


 死にかける、なんて思っていても、本人たちの前では発言しないぐらいの気づかいはできるようになったはずだ。


「本当に頼んだぞ」


 肩をバン、バンと叩かれた。


 加減を知らないようで痛い。


 顔を歪めながら手を払いのけて、知晴さんを見る。


「注意するために来たの?」

「いいや。他にもある。ポーションの販売価格が決まった。1つにつき350万円だ。危険手当込みの金額で、交渉してもこれ以上の値段は出ないぞ」


 価格の妥当性について、俺はよく分からない。


 店で販売していたときよりも高いから、それでいいかなと思う程度だ。


 詳しいのはユミなので、俺は黙っておく。


「上級回復ポーションだけの値段でしょうか?」

「そうだ。他の各種ポーションやアイテムについては探索者ギルドが用意していて、不足する可能性が非常に低いことから、錬金術ギルドは提供しないことになった」

「なるほど……。マスターは他にもいろいろと用意しておりますが、提供しなくても罰則はないとの理解であっていますか?」

「それで間違いない。使わず見殺しにしてもギルドからは訴えられることはない。また回復ポーション以外は、例え討伐に貢献したアイテムだとしても、探索者ギルドは金を出さない。自腹になると覚悟してくれ」


 しっかり者のユミが、細かい確認をしてくれて助かる。


 肉体強化ポーションや対冷気ポーション、他にも攻撃に使えそうな道具も持ってきたけど、お金にならないなら探索者のために使う必要はなさそうだ。


 でもさ、見殺しにはできないよね。


 悪いことを言ってしまった謝罪もかねて、討伐隊が危険そうなら赤字覚悟でサポートしよう。


「販売については、わかりました。それでどうやって、ドラゴン討伐で使用したと証明すればいいですか?」


 ああ、確かにそれは重要だ。


 俺たちが誤魔化して申請して金儲けをする可能性もあるので、ギルドとしては使用した個数を正確に判断したいはずである。


 どうするつもりなんだろう。


「……誰に何回使用したか記録してくれ」

「討伐中にですか?」


 ユミの顔が険しくなった。


 俺たちが活躍しているということは、討伐隊は危険な状況にあると思われる。少なくとも、個人の持っている回復ポーションがなくなって、死にそうな人が発生しているのは間違いない。


 一刻を争う状況だ。


 そんなときに、誰に何を使ったかなんて記録する余裕はないだろう。


「本当は記録官を派遣したかったんだが、誰も参加したがらなくてな」

「それはギルド側の問題で、私たちには関係ないですよね」

「正論だな。だから俺も交渉してきた」


 デカく膨らんだ腹を前に突き出し、自慢げな顔をしている。


 どや顔だ。


 ちょっとうざいと思っていると、ばーちゃんが突っ込んだ。


「いいから、ささっと言わんか!」

「すみません」


 支部長になっても、ばーちゃんには弱いようだ。


 頭を軽く叩かれると情けない顔になって謝っていた。


「交渉した内容を教えてもらえないでしょうか?」

「誰にという部分は、不明でもよいことにした。とりあえず販売個数だけ把握してくれれば、後はこっちで何とかする」


 持ってきた数は把握しているので、討伐が終わった後に残った本数を引けば、消費分がわかる。これなら作戦行動中に余計なことを考えなくて済みそうだ。


 最初からそうしてくれと思いもしたけど、知晴さんが一生懸命交渉してくれた結果なのだから、文句を言うのは止めておこう。


「一応、探索者側にも何本使われたか聞き取り調査はするらしい。大丈夫だとは思うが、誤魔化すようなことだけはするなよ」

「私がきっちり管理しているので、その点はご安心ください」

「頼んだぞ……」


 誰も俺に期待していない。


 それが正解だ。


 計算も途中で面倒になって雑に処理してしまうだろうから、きっちりしたユミが適任なのだ。


 その辺は自覚があるから、みんな安心してくれ。俺は余計なことをしないよ。


「それじゃ知晴の小僧はわしがもらっていく。後は二人で頑張るんじゃぞ」

「え、師匠? 何も聞いてないんですが……」

「いいから。こい」


 耳を引っ張られて、知晴さんは外へ出て行ってしまった。


 お説教でもされるのだろうか。偉くなってもばーちゃんには逆らえないんだな。


 残された俺たちは、拡大させたミスラムに座りながらディスプレイを眺めている。


 ドラゴンに動きはない。迎撃の準備は間に合いそうだ。


「マスター、これが終わったら、お金持ちになれそうですね」


 ドラゴンの戦いは激しくなるはず。俺たちの出番もあるだろうから、滞納分を引いても数百万、いや一千万円以上の売上がでると予想できる。


 ユミが言う通り、一時的にお金を持っている状況にはなりそうだ。


「うん。素材を買うには困らなくなりそうだ」

「マスター、お家はどうします? 師匠のところに住み続けます?」

「それについては、ちょっとだけ考えがあるんだ」

「教えてください」

「成功したら教えるよ」


 顔に教えて欲しいと書かれているけど、実は失敗する可能性の方が高い。


 せめて錬金術師としてダメな部分は見せたくないので、ユミには全てが終わってから伝えようと思っていた。


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