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9.【国民入れ替え計画】

======== この物語はあくまでもフィクションです =========

ここは、『実の国』。

俺の名は、「異次元の殺し屋・万華鏡」。次元を渡り歩く殺し屋だが、殺すのは、人間とは限らない。


俺には聞こえる。殺してくれ、と。

どこの次元でも聞こえている。


どこの駅前かな?あ、大使館前か。

跳んで来たのは、選挙演説真っ只中の会場だった。

女性だ。まだ若い。


群衆の中に紛れて女子大生っぽい女の子に尋ねた。

「随分、若いね。君も若いけど。あの人、人気なの?」

「オジサン、知らないの?」

俺は、またしても南極ボケの話をした。どうやら万能薬らしい。簡単に信じてくれた。

「清久止揚(きよくしよう)って人でね。異国人に乗っ取られている『実の国』を何とかする為に立ち上がったの。」

「凄い名前だね。」「ペンネームに決まってんじゃん。「きよくしよう」って洒落だけどさ、止揚って哲学用語らしいよ。」

「インテリなんだ。」「うん。全部正論だよ。私らにも分かるように、かみ砕いて説明してくれるし。」

「どこの党?」「無所属新人ってやつ。次、年齢聞く?」

「凄い超能力だな。その通り。」「オジサンのタイプみたいだから教えるね。31歳。そりゃあ若いよ。後援会入る?」

「うん。選挙運動する前から、街頭演説してたんだ。私、ファンになって後援会作った。」

「じゃ、後で会わせてよ。」「オッケー!!」


彼女との約束をした途端、暴漢が止揚を襲おうと、金属バットを持って近寄った。

前に出ようとした女子大生を俺は止めた。


警備員が取り押さえに行ったからだ。


「まあ、南極ボケ。越冬隊の話は最近聞いたことないけど、まあ、いいわ。」

後援会名簿を書いている俺を見ながら、止揚は言った。

「大使館前だから、覚悟はしていたけどね。貴方の留守中に、神護国の侵攻は加速したのよ。30年越しの侵略計画がね。私が生まれてすぐの頃ね。今の「高齢者世代」は欺され続けてきた。企業は幽霊会社を経て転売、土地は『第三者』を通じて爆買い。三代前までは国の添理は油断していなかった。『乾姜』と呼ばれる政府事務員達の中に、純粋の『実の国』人はいなくなり、神護国しかいなくなった。国民は度重なる集金省の『集金』に腹を立ててたけど、その裏で『国民入れ替え計画』が進んでいたの。政府事務員達や政治家達に神護国人や、元神護国人が多い事をバラしたから、私は命を狙われている。でも、覚悟は出来ている。」


「ふうむ、ミカちゃんが惚れ込むだけあるね。」と、書き終えた俺は言った。

「なんで、名前知ってるの?オジサン。」「さっき拭いたハンカチに刺繍があった。」


「ふうむ、ミカちゃんが惚れ込むだけあるね。」と、今度は止揚が言った。


俺は、後援会事務所を離れると、この次元のネットカフェに行って、調べ物をした。

「入館」は、落とし物を利用した。


内絡のある部屋。この国の絡僚が一堂に会するのは、重要な会議だ。

感冒長官が司会して言った。「では、絡議決定、ということで、施行は来年度まで待たず、神護国の習慣通り、元日ということで。」


「成程。『国民入れ替え計画』完成か。神護国人が、この国の国民になり、『少数派』の『実の国』人が『外国人』になる。『外国人』には『集金』、いや、『人間関税』が課せられる。ハラッパ人もメリコウ人もエイシアンも『公平』に。在国者は、『人間関税』を払い、神護国人は、あらゆる『社会保障』を受ける。国の名前はさしずめ、そうだな、『神護国第五州』かな?」


「貴様!!どこから来た?」と、感冒長官が激怒して言った。

俺は、天井を指した。

「まあ、いいんじゃない?生きて帰れる筈もない。」


「どうかな?」俺は惚けて部屋を出た。


止揚の後援会事務所を訪れた。

テレビで、内絡が建物ごと要員ともども消えたことをニュースで報じていた。

「あなたの仕業ね。本当は何者なの?」

「本当の事を言おう。俺の名は、「異次元の殺し屋・万華鏡」。この世界は実は一つじゃない。複数の並行世界で成り立っていて、独立している。俺は、パラレルワールドを渡り歩く殺し屋。殺すのが死命だが、殺すのは人間単体とは限らない。」

「それを信じると思うの?本当の事だとして、危なくないの?」

「どちらもイエス。何故なら、俺のタイプだから。止揚さん、ミカちゃん、この次元のことは頼んだよ。」


俺は、壁を通り抜け、次の次元に跳んだ。


俺の名は、「異次元の殺し屋・万華鏡」。


―完―


※「止揚」(しよう、aufheben)とは、哲学用語で、あるものを否定しつつも、その要素を保存し、より高次な段階で統合することを意味します。矛盾する二つの要素を、対立と発展の過程を経て、より高い次元で統一する概念です。


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