======== この物語はあくまでもフィクションです =========
ここは、『元の国』。
俺の名は、「異次元の殺し屋・万華鏡」。次元を渡り歩く殺し屋だが、殺すのは、人間とは限らない。
俺には聞こえる。殺してくれ、と。
どこの次元でも聞こえている。
跳んで来たのは、与党勧進長の部屋。
「あいつは、目障りだ。」「もう手は打ってあります。」
勧進長に返事したのは、雑務省顧問・宮地多岐一。
どこも似たような感じだなあ。こいつらに都合のいい人間を「大統領」に据える為に、対立候補を潰すのか。
尾行したら、ヒットマンの動いた様子はない。
ネカフェに入って調べたら、あった。
SNSに対立候補に事実無根の罪を着せる積もりだ。
前にも野党を使ってスキャンダルを『熱像』した経緯がある。
失敗に学ばない連中。成功体験ばかりあって、見えていないのだろう。
通常骨灰で、多くの時間割いて揉めている議案も他国の失敗したものばかり。
余所は失敗したが、ウチは大丈夫。根拠無き自信の奴ほど厄介だ。
道に迷って、当てずっぽうで走り、なかなか迷子から出られない輩と同類だ。
妄想と同じパターンで類推するから、なかなか修正出来ない。
俺がネカフェで調べていると、ミカちゃんと同じくらいの年齢の青年が隣のブースに来た。
「オジサンも、就職浪人?」得意の南極ネタで誤魔化した。
「ふうん。体力要るものなあ。で、再就職する為に調べてるんだ。じゃあ、オジサン、今日何の日か知ってる?」
「祝日は明日、今日は選挙投票日だね。」
「最低限の知識としては合格。」
「最低限か。厳しいな。」
「僕も今、投票行って来たけどさ。何か『裏工作』の話で持ちきり。」
「裏工作?選挙違反?」「何が何でも、今の大統領をクビにしたくないらしい。」
ここ、『元の国』では、与党の意味深党の代表が勤める国の代表を『大統領』と呼んでいる。『しゅしょう』で馴染んでいるので俺には違和感がある。
意味深党の代表の方は、『総帥』と呼ぶらしい。
今の総帥兼大統領は、『思いつき政治』をして、なかなか悪名高い。
俺は、PCの画面を若者に見せた。
「この人、赤石和江さんがいなくなると、どうなるの?」
「お仕舞いだね。ブレーキオイル抜いたブレーキだよ。」
瞬間、バイクに乗った俺は高速道路を走る、赤石氏の自動車が蛇行運転しているのを発見した。
俺は、追い越して前に回り込んで、跳んだ。
衝突を避けた、赤石氏の自動車はガードレールを突っ切って崖から落下した。
俺は隣にいる赤石氏を見た。気絶している。
午後9時。テレビのニュースで選挙番組が放送中。与党は惨敗だった。
速報が流れた。速報として、赤石氏が転落して死亡、とテロップが流れた。
だが、数秒後、アナウンサーが訂正の原稿を読んだ。
「自動車は事故で大破しましたが、隣に同乗していたSPの機転で赤石義務総長は無事です。病院から中継が入ります。」
テレビの画面に、三角巾を肩から吊した赤石氏が映った。
跳んで来たのは、与党勧進長の部屋。
勧進長と宮地の元に地検特捜部が雪崩込んで来た。
特捜部のリーダーが言った。「贈収賄だけでなく、殺人教唆までやるとはね。もう終わりだね。」
特捜部のメンバー半田は、陰に潜んでいる俺に、小さくピースサインを送った。
半田は、リストラ社員では無かった。
俺は半田に全てを話し、協力させた。
赤石氏を助け出したおれは、約束させた。
『ブレーキの点検』を忘れないことを。
ドライバーとしての点検と、政治家としての点検を。
赤石氏の涙は本物だった。
俺は、異次元の殺し屋・万華鏡。
さあ、また跳ぶか、未知の次元に。
―完―