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リアルの牢獄を、アート革命でぶっ壊す!
リアルの牢獄を、アート革命でぶっ壊す!
ゆんゆん先生
異世界ファンタジースローライフ
2025年07月21日
公開日
10万字
連載中
ユンという、抽象画・現代アートを描くしがない女性画家が、写実画がもてはやされ、写実主義絵画全盛の異世界に転生して、成り上がる話。

第1話 誰も来ない個展と、キャンバスの果て

 白い壁に囲まれた、小さなギャラリー。

 春の午後。差し込む光の中にあるのは、長い影と沈黙。


だが、その光の中に佇むのは、ただ一人の画家だけだった。


折りたたみ椅子に腰掛けたユンは、展示された自作の絵を見つめていた。

抽象絵画、現代アート、ミクストメディア、パフォーマンスの記録——

自分が魂を削って描いた作品たちが、誰にも見られず、そこにある。


来場者はゼロ。ポストカードも売れず、受付の来場者記録も空欄のまま。

SNSで何度も告知した。DMも、メールも送った。

それでも、この空間には、ユンと沈黙だけがいた。


「……まぁ、予想通りか」


ユンはひとり呟いた。

それすら、何も跳ね返らない空虚な空間に吸い込まれていく。


ユン(29歳)

現代アート専攻の美大を卒業後、東京で暮らすフリーランス画家。

日中はイラスト制作やデザイン会社の下請けで生計を立て、

夜と休日をすべて「アート」のために捧げてきた。


描くのは、意味のある作品。問いかけるような表現。

社会や自分自身を切り裂くような抽象と、思索の塊。


——だが、評価はされない。

受賞歴ゼロ。フォロワー数は鳴かず飛ばず。

「すごいね」と言われても、それ以上が続かない。


それでもユンは描いてきた。

「誰も理解しなくても、自分が表現しないと“生きた”って言えない」

——そんな情熱に突き動かされて。


夕方。個展の撤収をはじめ、ユンは段ボールに作品を詰めながらふと立ち止まった。


「……私は、何のために描いてるんだろう」


誰にも届かない声。誰にも届かない絵。

それでも描き続けることに、意味はあるのだろうか。


そのとき——


バチンッ!


天井の照明が閃光を放った。

耳鳴り。眩しさ。崩れる足元。

次の瞬間、ユンの視界は真っ白に染まった。


身体が浮いている。重力がない。

筆も、キャンバスも、名刺も、SNSも存在しない世界。


「ここは……どこ?」


目を覚ますと、ユンは木造のアトリエらしき空間、簡易ベッドに寝かされていた。

蝋燭の灯り。重厚な家具。

そして壁に並ぶのは——


息を呑むほど精密な写実画ばかり。


起き上がると、鏡に映るのは、10代後半の少女の顔だった。

自分のものではない手。声も若返っている。


「え……嘘……? 誰の身体これ……」


机の上には一枚の新聞のような紙。

大きな見出しが、ユンの心を撃ち抜いた。


 「王立画学院・新人選抜試験 テーマ:写実こそ至高 王立美術院では『実在の再現こそ芸術』という原則が絶対視されており…」と、ある。


 王立画学院——それは、この大陸で最も格式高く、最も苛烈な美術教育機関。

貴族の子弟から才能ある平民まで、あらゆる階層の若者たちがその門を叩くが、入学を許されるのは毎年ほんの一握り。

「新人選抜試験」とは、公開制作・静物模写・人体構造論までを課される三日間の審査であり、合格すれば国家奨学金とともに、名門画家たちによる直接指導が約束される。

すなわち、ここに受かれば、画家としての人生が開ける。落ちれば、二度と王の御前には立てぬ——それほどの重みがあった。


 写実こそ至高——

その言葉は、ユンの人生で最も否定されてきた価値観そのものだった。


けれどユンは、静かに口角を上げた。


「……いいじゃない。やってやろうじゃん」


「この写実至上主義の牢獄で、“美”の定義ごとぶっ壊してやる」



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