臨時隠密班設立初日。
休日返上でいつものように暑い中副総隊長室に出勤すると、部屋にはグランブルー隊長がソファに足を組んで腰掛けていた。そこだけを見ると外国にいるのではないかと、錯覚してしまいそうになる。
「グランブルー隊長? どうしてこちらに?」
「如月副総隊長、わしの散歩に付き合ってくれんかの?」
その強い視線に抗えず、僕は渋々付き合うことにした。
彼女は七十八歳とは思えないほど背筋をピンと伸ばし、白銀の髪をきっちりまとめている。彫りの深い顔立ちには、若い頃の気品がそのまま残っていた。
アメリカ生まれだが、日本で
その表情は堂々としているのに、足を組んで笑う仕草には不思議とお茶目さもあった。
「何故、婆のわしを選んだんです?」
「……グランブルー隊長だから言いますが、隊長の誰かが裏切り者だと睨んでいます」
窓の外をチラっと見て、またグランブルー隊長を見る。
「わしが裏切り者かもしれんぞ?」とグランブルー隊長は薄ら笑を浮かべた。
「獅子神総隊長から一番信頼を得ているのに、何を言ってるんですか」
僕は軽く笑って、グランブルー隊長の話を流す。グランブルー隊長は
「なるほどの。それでわしなのか」
「はい」
「さて、聞きたいことも聞けた。共に散歩に参ろうか」
グランブルー隊長はニコリと笑い、ソファーから静かに立ち上がる。
副総隊長室を後にし、二人は無言で暑い廊下を歩き出した。建物の中なのに、外にいるセミの「ミーン!ミンミンミン!」という鳴き声が聴こえる。夏も終盤に差し掛かっているというのに、外はまだ暑く熱中症とかに気をつけなければならない。
「如月副総隊長を見ていて思うことなのじゃが、あの弱虫が副総隊長になっているのが感慨深いことだの」とグランブルー隊長が僕のジッと顔を見て、首を数回縦に振った。
「何故それを?!」
僕は驚き過ぎて、思った以上の声量が出てしまい廊下に声が響く。
「獅子神のやろうに延々とお前さんの話を聞かせられたから知っておるのじゃ。予備隊員になったばかりの頃から聞いておる」
「あの筋肉達磨」と今この場にいない獅子神総隊に腹が立った。
「隊員達も行方不明の者達が帰還してホッとしておるようじゃな」とグランブルー隊長は、本部の隊員達を保護者のように見守っている。
「そうですね」
「早く、あの子達も見つかるといいのじゃが……」と窓の外を見て、グランブルー隊長の表情はどこか遠くを見つめるようにポツリと呟く。
「……そうですね」
グランブルー隊長もあの大災害で家族を失っている。夫と息子夫婦、そして孫までもが行方不明だ。
「そいえば、最近ちゃんと仕事をしておるようじゃな」
空気を変えるようにか、笑顔でグランブルー隊長は違う話をし始める。
「……まあ」
「しっかりやっておるようで良かった。……さて、お昼にしようかの。勿論お前さんもじゃよ?」
僕が行方不明になっている間に大量に溜まった仕事を片したかったが、グランブルー隊長の静かだが強い気迫に頷くしか無かった。
ガヤガヤとした上級隊員専用の食堂にグランブルー隊長と来た。
食堂はお昼時という事もあり、カレーや焼きそば等のお腹の空く匂いが充満している。
お昼をどれにするかグランブルー隊長と選び席に座った。
「如月副総隊長、そのなりで良く食べるんじゃな」と大口を開け、カレーを口の中に入れている僕をグランブルー隊長が少し驚いたように見てくる。
「まあ、お腹が空いてるんで」
「カレー大盛り、豚汁、豚丼特盛、マカロンか……どんな組み合わせじゃ」とグランブルー隊長は呟いた。
「それ、グランブルー隊長が言えます?お粥って……ば、」
ババアと言いかけて、グランブルー隊長の鋭い睨みに言葉を飲み込んだ。自分で婆と言うのは良くて、他が言うのは駄目なのか。
いきなりグランブルー隊長の表情が怖くなる。それは僕も同じだ。
「……如月副総隊長」
「第四訓練場で何かあったみたいですね」
音は小さいが、第四訓練場の方から悲鳴と地響きが聞こえて来る。
「食事くらい、ゆっくりしたいんじゃがな」とグランブルー隊長はテーブルに手をつきながらゆっくりと立ち上がった。僕もグランブルー隊長に続き椅子から立ち上がる。
グランブルー隊長と廊下を駆け足で第四訓練場に向かう。
第四訓練場にグランブルー隊長と僕が到着すると、僕たちの目の前には封印されていた複数の物語が解放されていた。
さまざまなモンスターが第四訓練場を埋め尽くし、隊員たちは対応に追われている。
「ゔ……」
「助けて、くれ」
だが、多種多様なモンスターが第四訓練場を埋め尽くしていて、隊員達が対処しきれていない。上級隊員は怪我をして動けないでいる下級隊員を護るように、モンスターと戦闘をしている。
これは、早くなんとかしなければならない!!
「如月副総隊長!グランブルー隊長!!」
木田は僕たちがここ第四訓練場に駆け付けたのを見つけ、少し怪我を負いながら駆け寄って来た。
「木田?!お前なんでここに?」
まさか木田がここにいるとは思わず、僕はでかい声が出る。
「俺のことより、モンスター達が消えないんです!!」
「なんだと?!」と驚きながら、木田から渡された封印札の貼られた本を見てみると、目の前にいるモンスターたちの物語だった。
「通常封印札が貼られれば、モンスターは消えるはずじゃ!」とグランブルー隊長までも、この異常事態に驚いている。
「違う封印札を使用してみましたが、モンスター達が消えません!」
三人で封印されている物語をジッと見る。僕達の間に少しだけ無言が続いた。
「グランブルー隊長、それより隊員達を助けましょう!」と力強く、僕はグランブルー隊長と目を合わせて言った。
「そ、そうじゃな。取り乱してすまない」
「大丈夫です。僕は、右からモンスター達を倒しながら隊員達を助けます。グランブルー隊長は反対側から。木田は、ここから近い
「「はっ!!」」
二人は綺麗に揃って敬礼をした。
「クロ、シロ、出番だ」
狐達の名前を呼ぶと、「コーン!」と鳴きながら、クロとシロが僕の影から飛び出してきた。クロとシロが出てきた影は少し揺らいでいる。
「主!あいつら、倒す?」とシロが僕に尋ねた。
「ああ。シロは広域結界を展開、クロは僕の背後を護ってくれ!」
指示を聞いたシロが「コーン!」と声高く鳴くと、広域結界が第四訓練場を覆ったおかげで、モンスター達が訓練場の外に出て行けなくなる。これで、非戦闘員の危険は無くなったことに安心をした。
「クロ、行くぞ!」
「コン!」
グランブルー隊長を見ると、既にモンスター達を倒し始めている。年齢を感じさせない力強い戦闘で、僕や他の隊員は何度見ても驚く。
「グランブルー隊長の念力は凄いな」
グランブルー隊長の物語武器の能力念力で、モンスターが念力でぺちゃんこになっていく。
「主?」
「何でもない」とクロに言い、僕もモンスター達に突っこんでいく。モンスターは吸血鬼や鬼、がしゃどくろ、オーガ、巨大なゾウといった厄介なモンスターばかりだ。おそらく危険度レベルの高い物語の封印が解かれているのだろう。
白龍は調査の為に研究室に置いてきたから、今持っているのは轟雷刀だ。
「千雷」
空には千の雷の槍が現れ、モンスター達を次々串刺しにしていく。
「千雷を使ったから、大方のモンスターは倒せたかな?」と僕はキョロキョロと周りを見る。
すると後ろから、一つ結びの髪が少し崩れたグランブルー隊長が合流した。
「他に隊員もいるのに広域攻撃とは、相変わらず強引じゃな」
グランブルー隊長は僕を少し呆れたように見てくる。
「一気発射じゃないので、そこまでコントロールは必要としないので簡単です」
「そう言えるのはお前さんだけじゃろ」とグランブルー隊長はあきれている。
見る限りモンスターは倒し終えたので、地面に落ちている物語に封印札をグランブルー隊長と貼っていく。
生きているモンスターが消えないだけで、封印だけはちゃんとされているようで安心をする。
全て貼り終えた頃に
「
僕は視線を怪我した隊員達に向け、
「はっ!」とこの場にいる30名の
グランブルー隊長が他の隊員達に聞こえないように「今回のコレは裏切り者の仕業かもしれんな」と耳打ちをしてきた。これには、僕も同意をする。
裏切り者を探し始めて、訓練場で物語の封印を大量に解くなんて、裏切り者以外いないだろう。
今回たまたま第四訓練場に近い上級食堂で昼食をしていたから、直ぐ駆けつけられたが……もし、違う場所だったら多くの死傷者が出て大惨事になっていただろう。
複数の物語の封印が同時に解かれ、物語に封印札を貼っても消えないモンスター達……。これは単なる偶然か、それとも何か繋がりがあるのか?