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石を持って口裂け女をぶちのめす!!~その1~

 石器時代せっきじだい殴郎なぐろうが破壊音を聞いて駆け付けた時、すべては終わった後だった。


 南からありとあらゆる神社を襲い、粉砕しながら北上してきた恐るべきマンモス怪獣、“神社粉砕マンモスーン”。北に行った父に代わってこれを狩ろうと息巻いていた殴郎だったが―――マンモスーンは既に精肉されていた。


 全長15メートルもある破壊神象を一体何者が殺したのか? 答えは簡単。紅葉降りしきる林の真ん中、マンモス解体現場に佇むひとりの女だ。白いワンピースにトレンチコートを着た、髪を伸ばした妖怪じみた雰囲気の!


 殴郎は背負った超巨大石器時代ウォーハンマーに手を添えながら身構えた。女は恐らく、右手のカッターナイフを得物にしている。殴郎お手製の巨岩ハンマーと比べてはるかに小ぶり。ごく普通、市販のカッターナイフである。


 とても全長15メートルの恐るべきマンモスに立つような刃ではないはずだ。


 殴郎は紅葉を磨り潰すように進みながら、女の背中に問いかけた。


「あー、えーっと……そこのアンタ。その象、アンタがやったのかい? すげーな、ただもんじゃねーよ。今まで関西のエリート神主が誰一人勝てなかったマンモスを、そんなんで殺すなんてさ」


 フレンドリーに話しかけたが、返事はない。女は時折しゃっくりするような動きをしている。明らかに普通ではない。


 殴郎はウォーハンマーを握りしめた。彼がもう一声かけようとするより早く、女が振り返った。


「私……キレイ……?」


 殴郎はゾッとした。女の口元はマスクで覆い隠されている。その出で立ちでその質問、そして刃物を持っている。ということは―――人間ではない!


 この伝説的神社“弥生時代”の祠に封じられし大災害ディザスターきゅう妖魔ようま、口裂け女だ!


 殴郎は即座にハンマーを抜いた。しかし動きは遅きに失した。すぐ目の前に口裂け女が踏み込んでいて、マスクを自ら剥ぎ取ったのだ! 当然口は避けている!


「ねエエエエエエエエエエ! 私キレイィィィィィィィイイイイイイイイ!?」


「うわぁぁぁぁあぁあ! あんまりキレイじゃねええええええええ!」


 殴郎はハンマーを捨てて飛び退いた。鼻先をかすめるカッターナイフ! それが何度も振り回される! 口裂け女はどんどん距離を詰めてくる!


 両目は怒りで血走っており、鼻からは消防車の如き勢いで鼻血が噴き出す!


「キレイキレイキレイイイイイイイイイイイ! キレイキレイしましょおおおおおおおおおおおおおおお! ブチギレェェエェェェェェェイ!」


「鼻血ブーしてる女は綺麗と言い難い! うおおおおおお! 離れろおおおおお!」


 殴郎は必死で刃をガードしながら飛び下がる。即座にハンマーを捨てた判断は正解だった。カッターナイフの間合いでは、超巨大石器時代ウォーハンマーは役に立たない。あれはマンモス粉砕用の兵器なのだから!


 そしてこのまま猛攻を許すのはまずい! 早晩どこかに追い詰められて、輪切りのハムにされてしまう!


 急いで距離を取って仕切り直さないと。だがこの口裂け女は早い! 10メートルは離れてたのに、一瞬で距離を詰めてくるほど。なんとか飛び退いてかわせているのは、口裂け女がカッターナイフの間合いを維持しているからに他ならない。


 だが答えが出るより早く、最悪のタイミングが訪れた。殴郎の背中が神社の楓にぶつかったのだ!


 口裂け女がカッターナイフを振りかぶる。あれは坂上田村麻呂を一撃で屠ったとされる必殺剣、“死人に口なし斬首ブレード”の構えに相違なし!


「斬れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」


 口裂け女の斬首攻撃だ! 殴郎は素早く屈んで回避する。カッターナイフが楓の幹を半分ほどまで切り裂くとともに、殴郎は足元の紅葉を蹴り上げた。


「キレッッッ!?」


「こんの……カッターナイフ鼻血ブーたれ口裂け女がぁぁぁぁぁッ!」


 殴郎のスピアキックが口裂け女の腹に刺さった。石器時代の先祖がマンモスに向かって鎗を投げるが如き、恐るべき蹴りだ。口裂け女は吹き飛び、鼻血で虹のようなアーチを描きながら地面に落下した。


 墜落した口裂け女は顔面にへばりついた紅葉を拭おうとその場で藻掻く。大量の鼻血で濡れた紅葉は別れを惜しむヤンデレのようにへばりついて中々引き剥がせないのだ!


「あばよ!」


 殴郎は即座に背を向け、その場を逃げ出した。


 口裂け女はすぐに追ってきたりはするまい。鼻血紅葉で視界を塞がれているし、カッターナイフは楓の木に食い込んだままだ。


 今のうちに身を隠し、脳内口裂け女対策会議を開かねばならない。あの関西神社連合軍を壊滅させたモンスーン級マンモス災害、神社粉砕マンモスーンを単騎で解体しつくした口裂け女を、どうにかここで殺らねばならぬ!

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