姉妹の夜会は金曜日に決まった。
紗織はシフトを調整し、翌日は週末。ちょうどいいリラックスタイムだ。
卒業してからは皆それぞれ忙しく、四人そろって夜食を囲むのは本当に久しぶり。
病院の仕事はハードで、ずっと濃い味のものが恋しかった紗織。しかし司は匂いの強い料理が苦手で、外食の機会もなかった。ちょうど彼が出張中、気心の知れた友人たちもいることだし、今夜は思い切って焼き鳥パーティーにした。
紗織が十時に仕事を終えて帰宅すると、室内はきちんと片付いて静まり返っていた。彼女は早めに家事代行の張さんを帰らせておいた。
荷物を置いて手を洗ったところで、インターホンが鳴る。遥たちが大きな袋を抱えて賑やかにやって来て、ドアを開けると香ばしい匂いが漂った。
「おお、この新居、すごくイイじゃん!」遥は目をきょろきょろさせながら、広いリビングを眺めた。クールな色調でまとめられている。「やっぱり椿山荘のマンションは評判通りね。私もお金貯めていつか住みたい!」
星奈が笑いながら言う。「無理でしょ、給料すぐ消えるのに、何で貯金できるの?」
「そこは星奈にスポンサーお願いするしかないでしょ!」遥は開き直る。
「お金ないよ!」星奈は佳を巻き込む。「佳に頼みなよ!」
佳は鼻で笑う。「いいよ、私のところでバイトして。週七で何十年も働けば、三人一緒に住めるワンルーム買ってあげる。」
「そんなブラック社長ありえない!」遥と星奈が揃ってツッコミ。
三人のやりとりに紗織は慣れっこで、淡々とテーブルにテイクアウトを並べる。「ほら、早く座って。」
焼き鳥の箱を開けると、香りが一気に広がる。星奈は鼻を鳴らしながら言う。「この店、行列すごいのよ。お金払って並んでもらって、やっと買えたんだから、絶対食べて!」
「月見亭?」佳がパッケージのロゴに気づく。
遥もすぐ察する。「神崎家の系列よね。」そしてふと思い出す。「そういえば、白鳥玲子って最近全然見かけないね?誕生日パーティーの後は音沙汰なし。」
佳が情報通らしく答える。「聞いた話だけど、お父さんに海外に送られたらしいよ。」
星奈は焼き鳥を食べながら訊く。「じゃあ、神崎家との縁談は?」
「多分、白紙になったんじゃない?」佳は自信なさげに言う。「タイミング良すぎるよね。騒ぎの後すぐって。紗織、もしかして社長の差し金?」
みんなの視線が紗織に集まる。
紗織は焼き鳥を食べながら、逆に問い返した。「どう思う?」
三人は一瞬顔を見合わせ、同時に首を振る——司がそんな細かいこと気にするとは思えない。
四人でちゃぶ台を囲んで、夜食がテーブルいっぱいに並ぶ。罪悪感を感じつつも、遥は食べる手を止めず、同時に話も止まらない。「それで、藤原先生とはその後どうなの?前回ご飯食べ損ねて、進展なかったの?」
紗織は首を振る。「彼、心臓外科で忙しいし、顔を合わせても挨拶するくらい。」
「え、それだけ?」遥が驚く。「てっきり、彼は紗織のために帰ってきたと思ってた!」
星奈も続く。「私たち、昔から二人はうまくいくと思ってたのに。」紗織が医学部を志望した時も、藤原琢也はずいぶん助けてくれたし、幼なじみの王道だと思ってた。
佳は率直に言う。「本当に好きなら、今まで何もなかったはずないでしょ?」
遥はカップル推しの第一人者で、負けじと言い返す。「藤原先生、実は恥ずかしがり屋なんだよ!星座もそんな感じじゃん!」
佳は呆れ気味。「それはないでしょ…」
「お似合いだったのに、残念…」遥は残念そうに嘆く。「私の推しカップル、完全終了だ!」
「酔いすぎ。」紗織は笑いながら、遥の手からビールを取り上げる。「ちょっと控えなよ。」
「酔ってないもん!」遥はろれつの回らない声で、「紗織、本当に藤原先生に気持ちがなかったの?」
紗織は一瞬手を止め、過去がよぎったが、すぐに落ち着いた声で答える。「彼とは無理だよ。」
遥は目を見開いて叫ぶ。「私、立ち直れない…!」推しカップルの夢、現場で崩壊。
佳は額に手を当てた。「もう、だいぶ飲んでるね。」紗織は眉をひそめる。「今日は酔うの早いね?」星奈は酒瓶を揺らしながら、「焼き鳥が美味しすぎて、水みたいに飲んじゃってるんだよ。」
幸い、遥は酔うとおしゃべりで眠くなるだけ。三人は彼女を横目に、大学時代の思い出話で盛り上がり、リビングは笑い声で満ちていた。
その時、玄関で指紋ロックの音が静かに響いた。
司が旅先から戻り、玄関のドアを開けると、濃厚な焼き鳥の香りと女性たちの賑やかな笑い声が一気に押し寄せてきた。
センサーライトがぱっと点き、仕切りのないリビングの光景が目に飛び込む——テーブルの上は食器でいっぱい、見知らぬ三人の女性、そして「彼のことが恋しい」と言っていたはずの妻。
彼女はとても楽しそうに笑っている。その無邪気な表情は、司が今まで見たことのないものだった。
恋しい、だって?
司の目が一瞬、鋭く光る。文の「伝言」も、だいぶ盛っていたらしい。