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転生した私がうっかり悪役令息を囲ってしまった
転生した私がうっかり悪役令息を囲ってしまった
晴日和
恋愛S彼・俺様
2025年07月23日
公開日
6.5万字
連載中
私は本の中に入ってしまった。 良いニュースは、主人公の妹・小林夏希になったこと。しかし、悪いニュースは――家産を巡る争いで、兄は私を殺したいほど憎んでいること。 家に帰れず、バーで身を隠していたが、そこで自分の理想通りの容姿と体型を持つ男性・修と出会う。しかし、相手はどうやら私が提示した金額に満足していないようだ。 (大丈夫、こっそり兄のお金を使って彼を養う!) 小林光一は、妹が記憶喪失を主張してから、まるで別人のように彼に媚びてくることに気づいた。 彼は冷笑しながら思う。「こうすれば俺が情けをかけるとでも思っているのか?」 ある日、夏希は電話で間接的に「お金がない」と伝えると、光一は不機嫌そうに「それで?」と言って電話を切った。 だが、夏希はメッセージを開けると、そこには【小林光一があなたに振込をしました】という通知が。 仕事に忙殺されて、数日間自分の“恋人”にメッセージを送る暇がなかった。気づくと、会社のアーティストと熱愛報道が出てしまった。 慌てて修にメッセージを送ると、相手は気遣いながら「気にしていないけれど、今会いたい」と伝えてきた。 夏希はこの小さなお願いを断ることなく、その晩、彼の家に向かう。 家に入るとすぐに壁に押しつけられ、腰に腕を回されてしっかりと捕まえられた。 彼の声は異常に冷静だった。「遊び飽きたから、別の人と遊びたいのか?」 暗闇の中、彼の漆黒の瞳からは抑えきれない狂気が漏れていた。

第1話 あなたの生活を面倒みたい


小林夏希こばやし なつきは、もうずっと隅っこの男に気づいていた。彼がバーに入ってきた瞬間から、彼女の視線は自然と彼の方へ吸い寄せられてしまう。


白いシャツにシンプルな黒いスラックス。

彫刻のように整った顔立ち、はっきりした輪郭に柔らかさもあり、高い鼻梁と程よい厚さの唇。垂れた数本の前髪が少し無造作な雰囲気を加えている。

薄暗い照明の下、その肌はひときわ白く冷たい。横顔のラインは、近寄りがたい空気をまとっていた。


彼は、視線に気づいたのか、ふと顔をこちらに向ける。


見つかった小林夏希は、慌てて目の前のグラスを手に取り、うつむいて飲むふりをした。


相手の深い瞳に、明らかな嘲りの色がよぎったのがはっきり見えた。

まるで、彼女の下手なごまかしなどすでに見抜いているかのようだった。


どうせバレたのなら、と小林夏希はグラスを置き、思い切って彼を見返す。


高橋玲奈たかはしれいなが隣に座り、からかうように目配せする。

「なに?気になってるの?」


小林夏希はコクリと頷いた。


「気になってるなら、行動あるのみでしょ」

高橋玲奈が励ます。


「でも……私、セクハラとか思われて通報されたらどうしよう……」

小林夏希は不安そうだ。


「……」


高橋玲奈は頬杖をつき、彼女をじっと見つめる。

「せいぜい断られるだけだよ。警察呼ばれるほどじゃないって。それに、ダメならお金で叩けばいいじゃない。信じて、男で金の魅力に抗えるやつなんて……いや、人間でお金に抗える人なんていないよ」


「ごもっともです」

小林夏希は素直に同意した。


高橋玲奈はさらに背中を押す。

「行っちゃえ、自分を信じて」


「じゃ、行ってくる」


小林夏希は立ち上がり、隅にいる男のもとへと向かっていった。


高橋玲奈はワクワクしながら、その様子を見守る。夏希がどうやってターゲットを落とすのか興味津々だったが、その笑顔はすぐに凍りついた。


夏希は彼の前に立ち、何かを話したかと思うと、バッグからカードを取り出し、男の上着のポケットにぐいっと差し込んだのだ。


高橋玲奈「……」


夏希、なにやってんの!?確かに金で叩けとは言ったけど、いきなりカード突っ込むのは違うでしょ!それ、セクハラと大差ないよ!?


浅野修平あさの しゅうへいは無表情で小林夏希を見ていた。視線は彼女の黒髪に一瞬とどまる。


「こんにちは、お邪魔してすみません」


彼女の声は、珍しく礼儀正しかった。


だが、その礼儀は一瞬だけ。次の瞬間、彼女は言った。

「もっと楽に稼げる仕事、考えたことありませんか?」


「は?」


小林夏希は咳払いをして、真面目な顔で続ける。

「つまり、あなたの生活を面倒みたいんです」


「……」


浅野修平は冷たく小林夏希を見つめる。

「また、何の茶番だ?」


「え?」


彼女の困惑した目を見て、彼は眉をひそめた。

「俺のこと、知らないのか?」


小林夏希は素直に聞き返す。

「だから、今知り合ってるんじゃないですか?」


その真剣な様子と言葉に、まるで本気のようだ。浅野修平が彼女の性格を知らなければ、きっと騙されていただろう。


彼は薄く目を伏せ、鋭いまなざしを隠すと、口元をわずかに上げた。

「……いいよ」


彼女が今度は何を企んでいるのか、見てやろうじゃないか。


だが、彼女の思考回路はやはり普通じゃない。彼の目の前で、またバッグからカードをもう一枚取り出し、無理やり彼のポケットに差し込んだ。


「ここに一千万入ってます」


浅野修平「……」


彼が黙ったままなので、小林夏希は瞬きをした。

「足りませんか?」


さらにバッグを探り、もう一枚カードを取り出す。

「ここに五百万も……」


また渡そうと手を伸ばした瞬間、手首を掴まれた。


浅野修平は見上げ、低い声で言う。

「もう、十分だ」


その目には冷たい怒りが宿る。小林夏希のこうした行動は、彼をわざと侮辱しているようにしか思えなかった。彼女は昔からこうだ。

彼は突然立ち上がる。すらりとした長い脚だが、今は顔色が悪い。


「くだらない遊びには付き合ってられない。この金は自分で持っていろ」


そう言い捨て、ポケットからカードを抜き、テーブルに叩きつけると、彼はさっさと立ち去ってしまった。


彼女とその兄の関係は、もともと良くない。今は小林株式会社を小林光一こばやしこういちが継いでいる。彼女が以前のように悠々自適にできるわけがないのだろう。


彼が去ると、高橋玲奈がすぐに駆け寄ってきた。

「どうしたの?なんか、怒ってなかった?」


小林夏希は少し考え、

「……たぶん、金が足りなかった?」


と、真顔で答える。


顎に手を当て、彼の端正な顔立ちを思い返しながら、うなずいた。

「あれだけの条件なら、1500万はちょっと安いかもね」


高橋玲奈「……まさか、いきなり金渡したの?」


「だって、そうしろって言ったじゃない?」


「……」


高橋玲奈はしばらく沈黙した後、頭を抱える。

「普通、いきなりそんなことしないでしょ?そもそも、相手がそういう人間じゃないかもしれないし、それじゃ侮辱になっちゃうよ」


小林夏希は、ちゃんと確認したし、本人も「いいよ」って言ったじゃないか、と心の中で思った。


「早く追いかけて謝ってきなよ」


高橋玲奈は、夏希が前に頭を打って記憶喪失になった時から、実は知能まで落ちたんじゃないかと疑っている。


小林夏希がバーを出て追いかけた時には、浅野修平の姿はもうなかった。


惜しむ暇もなく、バッグの中の携帯が鳴り出す。


電話に出ると、小林雅美こばやし まさみの声が聞こえた。

「夏希」


「お母様」


小林雅美は、ためらいがちに切り出す。

「明日、本邸に帰ってこれる?」


小林夏希は、その声色に違和感を覚え、胸がざわついた。無理に平静を装う。

「どうかしたの?」


「お兄さんが、帰ってこいって」


「……」


「夏希?」


「……行かなくちゃダメ?」


小林雅美はしばらく黙ると、

「たぶん無理ね。お兄さんの性格、知ってるでしょ」


「わかった」


電話を切ると、冷たい風が正面から吹きつけてきて、少し頭が冴えた。


転生してきてからずっと、異母兄の小林光一に会うのが怖かった。バレたらどうしようと、ずっと避けていた。


転移した時は病室で、隣には泣き崩れている小林雅美がいた。


元の小林夏希は、誰かに殴られて病室に運ばれ、そのまま自分が来たのだ。前世の記憶しかなかったので、記憶喪失とごまかしていた。


この母親、小林雅美は、気が弱くて優柔不断。娘が記憶喪失と聞いてまた泣き、夏希の頭痛の種だった。


小林光一に会いたくなかったのは、ここが自分が読んだ小説の世界だと知っていたからだ。原作の主人公は小林光一で、主人公補正が怖かった。


原作では、小林光一と妹の夏希の関係は最悪だった。元の夏希は無鉄砲で、父の死後、周囲にそそのかされて兄と権力争いをし、失敗したものの、光一の心に残っていたわずかな情まで使い果たしてしまった。


その兄妹関係を思い出すと、夏希は思わず身震いした。


帰ったら……殴られるんじゃない?

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