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第20話 6.3月13日(4)

 最後にもう一度確認と思いつつ、いそいそと待機場所としていた窓から中庭を覗いてみたが、せつなの姿どころか、そこには暗闇が広がるばかりだった。がっかりとしつつ彼が出口へ向かうと、司書がふんわりとした笑顔で話しかけてきた。


「待ち人現れず、だったわね?」

「えっ、何で?」

「うふふ。なんとなくね」

「まぁ、約束してたわけじゃないんで……」


 そう言いながら、浩志は頭を掻き、気まずそうに視線を逸らす。


「そうなのね。また、外で待ちぼうけするくらいなら、いつでも図書館を利用してね」

「はぁ。……そうします。それじゃ」

「暗くなったから、気をつけてね」


 外まで出てきた司書に見送られながら、彼は図書館を後にした。


 そしてもう一度だけ花壇へ視線をやると、両手をコートのポケットに突っ込み、寒そうに背を丸めて帰宅の途についたのだった。

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