最後にもう一度確認と思いつつ、いそいそと待機場所としていた窓から中庭を覗いてみたが、せつなの姿どころか、そこには暗闇が広がるばかりだった。がっかりとしつつ彼が出口へ向かうと、司書がふんわりとした笑顔で話しかけてきた。
「待ち人現れず、だったわね?」
「えっ、何で?」
「うふふ。なんとなくね」
「まぁ、約束してたわけじゃないんで……」
そう言いながら、浩志は頭を掻き、気まずそうに視線を逸らす。
「そうなのね。また、外で待ちぼうけするくらいなら、いつでも図書館を利用してね」
「はぁ。……そうします。それじゃ」
「暗くなったから、気をつけてね」
外まで出てきた司書に見送られながら、彼は図書館を後にした。
そしてもう一度だけ花壇へ視線をやると、両手をコートのポケットに突っ込み、寒そうに背を丸めて帰宅の途についたのだった。