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子犬という名の……
子犬という名の……
夏代@うさ
現実世界現代ドラマ
2025年07月24日
公開日
8,767字
連載中
実家に帰省した風羅は、祭りの準備の最中、幼い頃に拾った一匹の子犬の記憶を思い出す。 あれから社会人になり、理不尽な現実と向き合いながらも弟の【くもり】から、ある“違和感”に触れていく。 風羅の過去に現れた草摩という謎の女性。そして、彼女の正体は……? あの時の子犬のは、実は…… 社会人になった海里と風羅は、現実に向き合いつつ悩み成長していくにつれーー 過去と現在が繋がるとき、“六つ子”にまつわる秘密が明らかになる。 小さな祈りと縁が重なる、不思議な神縁ファンタジー&人間ドラマをお楽しみください

第1話 小学生から10年後の彼らは……



「━━…という事があったんだよね。あの頃は一週間くらい、家で引き取っていたんだけど……。いつの間にか、姿消しちゃったんだよね……、その子。

どこに行っちゃったんだろう?あの子犬」


 ただいま、台所にて。

 料理をしているのか揚げ物の香ばしい香りが空間に広がっている。


 衣が踊るように ”ジュージュー……パチパチッ”と弾ける音が耳を楽しませ、三大欲求の一つのである食欲を掻き立たせる。

 香ばしい油の中で泳いでいる衣を纏っている鶏肉たち。

 中まで火が通るようにと、菜箸で突っつきながらひっくり返す。油が彼女の前下がりの黒髪と首筋に、“パチンッ”と跳ねる。

 共に、香辛料と使用したローズマリーの爽やかな香りがふわりと鼻をくすぐると、先程跳ねた油の熱さなんか我慢できるというもの。

 これは、母親から教わった作り方の一つ。

 久々に集まる家族の為に、美味しいご飯を作ろうと集中する。


「小学六年生から、十年かぁ……。あの銀髪の子犬は、まだ生きてるとしたら人間の年齢だと……私たちより大先輩ね!」


 今、二人しか居ない空間内。隣にいる兄弟に、懐かしむように穏やかな笑顔で話しながら唐揚げを作っている風羅に対して

「ふーん……?そうなんだね」

と、くりっとした無垢な瞳で相槌する相手。少しソプラノ混ざり、アイドルのような可愛らしい声色なのに、あまり興味なさげに返答をしてきた。

 天真爛漫さ感じさせるその瞳は、風羅と同じ母親似の琥珀色。違うところは、目じりだろう。風羅は母親似の猫目だが……会話の相手は父親似の人当たりの良い下がった目尻である。


(六つ子なのに………、所々パーツが違うんだよなぁ。同じところと言ったら瞳の色くらいかな……。なんか不思議な感じ)


 時々、ふと疑問に思う彼女。

 この町内で、華奢な容姿にグラマラスな風羅。たまに、グラビアアイドルと間違われるほどにだ。

 一方。一緒にいる相手は、彼女より頭一つ分くらい背が低い。栗色とミルクティー色の中間色の淡い茶髪の色。両耳の上側に兎のドロップイヤーを思わせるピョンと外側に跳ねている癖っ毛。それ以外にふんわりとした癖っ毛を首の襟足へ髪ゴムで二つ縛りに束ねている。

 その姿は平日の学校帰りに渋谷でよく見かける、今時の女子学生のような華奢な容姿の【彼】。


 六つ子の四男坊、“神龍時 くもり”


 風羅の弟であり大人の仲間入りである。

 その容姿は、第三者からしてみたら幼い美少女。世の中で言う〈男の娘〉という部類に入るだろう。だが本人は、そんなつもりはない。


「ねぇ〜、お姉ちゃん。ぼくね、この間の海外の研修でねぇー、新作のプラペチーノを覚えてきたの!あとで作るから味見で飲んで欲しいなぁ〜。あ!ぼくねぇ、講師の人に褒められたのぉ☆」



 隣で作業している彼女の二の腕部分辺りにあるティーシャツの裾を、控えめに掴む。

 幼稚さが滲み出ている声色。相手の顔を下から覗き込む子猫のように見上げてくる。

 側から見たら彼氏に甘えているあざと可愛い彼女の姿である。


 もう一度言う。風羅の隣にいるのは弟であり【男】だ。

 そんな、弟からの蜂蜜のような甘ったるい声色に

(うちの弟が女に生まれていたなら、さぞかしモテているだろうなぁ……)

と他人事のように思ってしまう。


「へぇ〜、そうなの!凄いね〜、くーちゃん。楽しみにしているね」


 穏やかな笑顔で褒めると、くもりは子供のように、ぱぁッ……と向日葵をのように目を輝かせた。

 嬉しそうに、「うんッ!絶対に作るねッ!!」と言ってくる姿は、尻尾をブンブンと振っている子犬そのもの。

 こういう時は大抵、かまって欲しくて、褒めて欲しいアピールしているのが嫌でも分かる。


 そこのところは、末っ子と真逆だ。

 末っ子である《神龍時 大地》。彼の引っ込み思案な性格と【例のアレ】さえ無ければ……。

 例のアレの原因が分からない現状。どうすることもできない。


(それが無ければ……今頃、普段から一緒に生活をしていたのだろうなぁ)と、脳内にその言葉がふと過ぎる彼女。

 人間、ふと思ってしまうと壊れた蛇口から出てくる水の如く出てくるものだ。


 それは風羅も例外ではない。彼女の独白は続く。




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