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第3話


半端に大人びた少年たちの話を耳にして、石野夏末は呆れながらも苦笑いを浮かべた。


原作でも触れられていたように、石野琉生は高校時代、反抗的な行動で大人の気を引こうとする癖があった。


今日、クラスメイトを家に連れ込み騒いでいるのも、おそらくそのつもりだろう。


ちょうどその時、二階の手すりのそばにいた石野琉生が突然顔を上げた。


そして、思いがけず、憐れみを帯びた夏末の視線とまっすぐに交わった


。目が合った瞬間、夏末は口元を緩めて、小さく微笑み返した。


琉生は明らかに動揺し、眉をひそめて疑問を浮かべた。


琉生は人気者だ。


そのわずかな表情の変化はすぐに仲間に察知された。


一同が琉生の視線の先を追って見上げると、そろって固まった。


二階に、スタイルの良い若い女性が立っていたのだ。


高校生の本能的な大人への畏敬の念から、さっきまで勝手気ままに継母の噂話をしていた生徒たちも、一瞬で羽目を外した態度を引っ込めた。


「石野くん、あの美人お姉さん、誰だよ?」

一人の男子が勇気を振り絞って琉生の脇腹を小突いた。


「黙って」琉生は冷たい目で睨み返した。


「まさか、君の継母さんじゃ…?」男子は驚いて口を押さえ、声を潜めて言った。


琉生は肯定も否定もせず、そのままソファに沈み込んだ。



「構うな。お前ら、好きにに遊べばいい」とまるで夏末が空気でもあるかのように無視した。



その態度は事実上の認めに等しい。


リビングには次々と挨拶の声が上がった。


「おばさん、こんにちは!」元気な声の波が押し寄せ、夏末の首筋の毛を逆立たせた。


夏末はまだ二十八歳だ。


前世ではよく大学生に間違えられたのに、今は十数人に一斉に「おばさん」と呼ばれて、一気に歳を取った気分だった。


ソファに埋もれた琉生の視線が、だらりと二階へ流れた。


夏末はようやく琉生の全身をはっきりと見た。


眉目には霜や雪が凝ったような冷たさが漂い、全身から「近づくな」というような倦怠感がにじむ。


骨格は鋭く整っていて、将来、年月を重ねれば、どれほど多くの女性を惑わせることだろうか、と思わせるほどの美貌の素地を持っていた。


しかし、見れば見るほど、夏末の胸に疑念が浮かんだ。


この顔は石野卓也とは、似ているところがまったくない。


本当に実の親子なのか?


「こんにちは、皆さん。どうぞご自分の家だと思って、気楽に遊んでね」夏末は疑念を抑え、階下に向かって笑顔を広げた。



わざと明るく軽やかな声を出し、「おばさん」という言葉がもたらした衝撃を和らげようとした。


少年たちは顔を見合わせた。


噂に聞く悪女のような継母が、こんなにも明るく優しい美人だなんて?


さっきまで「絶対に構うものか」と叫んでいた反抗的な男子でさえ、今は後頭部をかきながら照れくさそうに笑っている。

「奥さま、お邪魔します」


夏末は振り返り、自分の部屋へ戻っていった。


思春期の頃、自分も友人たちの前で親がうろつくのが嫌だった。


今は立場が逆になったのだ。


自然と、彼らに空間を残してやることを心得ていた。


リビングは再び騒がしさを取り戻した。


ゲームの効果音とトランプを叩きつける音が入り混じる中、琉生は上の空でスマホをいじりながら、目尻で二階をちらりと盗み見ていた。


本当に気持ち悪い。


クラスの半分を連れ込んで騒いでいるのに、この女、ちっとも怒る気配がない?


優しい継母キャラに変更か?


うける。


そう考えていると、メイドが二つの膨らんだ買い物袋をテーブルに置いた。


「若様、奥さまがお菓子をお買い求めになられました」


「は?」琉生は目を細めた。「あいつが俺のためにお菓子を買うって言ったのか?」


今日はエイプリルフールじゃないぞ。


メイドは確信ありげにうなずいた。


「奥さまは、タピオカミルクティーがお飲みになりたければ、今すぐ買いに行きましょう、ともおっしゃってました」


その言葉にメイド自身も密かに驚いた。


旦那様がいらっしゃらない時、奥様が自ら若様のことを気にかけられるなんて?


まるで夢みたいだ。


「…いいよ、結構だ」

琉生の顔には依然として面倒くさそうな表情が浮かんでいた。


「琉生、お前の継母さん、結構いいじゃん。俺の実母より気が利くよ」

星野大輝はもうポテトチップスの袋を開け、バリバリと音を立ててかじっていた。


中学時代から琉生とつるんでいる親友として、彼はかつて琉生に継母を警戒す

るよう忠告したことがあった。


だって十中八九、継母はろくなもんじゃないから。


しかし今日会ってみると、印象が少し変わった。


「何がわかるかよ」琉生は顔を背けて鼻で笑った。


突然の気遣い? 何か下心があるに決まってる。


「『銀河鉄道』の新譜、持ってきたか?」琉生は突然訊いた。


「カバンの中だよ!」大輝はCDを取り出した。


「再生するぞ」琉生は指で再生ボタンを強く押した。


インダストリアル・メタルの咆哮が一瞬で空気を引き裂き、ドラムの音が重たい槌のように鼓膜を打った。


少年はボリュームを最大まで上げ、歪んでいた期待を胸に、夏末が怒鳴り込んでくるのを待ち、その偽りの優しげな仮面を引き裂かんとしていた。


二階の寝室で、夏末はスマホをスクロールしていた。


暴力的な音波がドアを貫通し、窓ガラスをぶるぶる震わせる。


夏末は諦め混じりにため息をついた。


ネットに溢れる『反抗的な継子を感動させる秘訣』なるものは、やはりみんな嘘だった。


わざといい母親の振りをする?


やめとこう。


寝室のドアが開いた時、琉生は鼻の奥で短く冷たい笑い声を漏らした。


ついに演技が続かなくなったか?


彼はどうでもいいという表情を作り、嵐の襲来を待ち構えた。

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