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第10話 ボス

「!!」


 飛び掛かって来る岩モンスター。


『ピラーマン』


 直訳して柱男と名のモンスター。岩と言ったが訂正。胴体から腕、脚、首に至るまで、岩を掘った柱の様な造形で構築されている。


「ッハ!」


 ――ッドガ!!


「!?」


 襲い来るピラーマン。カウンター気味に回し蹴りを顔面に喰らわせ、ピラーマンは粒子へと消える。


「ゴオ!!」


 まるで重い石を引きずった様な声。四つん這いの下から両手を大きく広げ、俺に襲いかかって来た。


「グロウ・スパイク!!」


 ――ッピシィ!! ッピシィ!!


「ッ!?」


 二連続のロケットパンチ攻撃。スパイクの付いた拳がピラーマンの頑丈な胴体を砕きクリティカルダメージ。例の如く粒子へと消える。


「ゴロ」


「ゴオ」


(まだ来るか!)


 襲って来た二体のピラーマンを倒したと思ったら、岩陰から一体、そして腐敗毒沼の中からもう一体姿を現した。


 腐敗毒に塗れながら出てきた一体に注目。


「ゴオロ」


 柱に目と口が付いた顔。なお鼻と耳は無い。そして胴と四肢、それを繋ぐ関節までもが石というか、柱で構成されている。


 そして腐敗毒沼からぬるっと出てきた辺り、ピラーマン事態に腐敗毒に対する強い耐性、又は一切効かないと考えるのが妥当。


 そして目を見張る攻撃と言えば。


「オロ!」


 ――ッバシャ!


「ッ」


 容赦なく腐敗毒を手で巻き散らかす狡猾さだろう。


 少しでも浴びれば一溜りも無い腐敗毒。それをさも当然の攻撃手段だと言わんばかりに両手で掬って放り投げる様に撒き散らす。


 人間なんて自分の手を汚さすとも腐っちまえば容易い。あまりにも効率的すぎる考えに俺は脱帽だ。


 しかもだ。


「オロ!」


「ゴオ!」


 二体して腐敗毒をバシャバシャやってる絵は、そこはかとなく水をかけあうカップルにも見えてしまう……。まぁかけ合うというより俺にかけて来るんだが。


(二体の背景が青春のキラキラした具合が見える。どうやら俺も腐敗毒に思考を侵されてる様だ……)


 と、そんなふざけた考えを他所に置き、地面を蹴り二体に接近。ピラーマンと同様に俺も遠慮なく腐敗沼に足を着け、右の一体にパンチ攻撃。


「ッゴ!?」


 腐敗毒を浴びながら繰り出したパンチは容赦なくピラーマンの顔面を捉え、頬に当たる部分を瓦解。


 ――バシャ!


「ッ!!」


 俺の隙を突いて腐敗毒をかける来たもう一体。腐敗毒を頭から被った俺は一瞬だけ硬直する。


『オートクリーニング発動中』


 なんて安心感のあるメッセージだろう。そう思いながらピラーマンの懐に入る。


「オラッ!」


「ッゴ!?」


 四つん這いから立ち上がった状態のピラーマン。その腹部に真下からのアッパー攻撃を浴びさせ、文字通り奴の体が空中で九の字に曲がった。


「ッフ!!」


 腹部から更に岩が砕ける音を奏でさせる膝蹴り。


 小さな衝撃波を生んだ攻撃は奴を浮かし、俺はそのまま脚を大きく開脚し、奴の腹部を足裏で受け止めた。


「ガン・ヴェール!!」


 ――ガンッ!!


「――」


 踵に内蔵されたガンで腹部を打ち貫き、ピラーマンは沈黙。


「ッハ!!」


 ――ッド!!


 そのまま左脚の回し蹴りでピラーマンを吹き飛ばし、俺は勝利した。


「ふぅ……」


 とりあえず一息。でも深く深呼吸はしない。アンドロイドで毒耐性はあるにしろ腐敗を吸うなんて以ての外。そもそもここ、なんか臭いし。


「……さて、どうすっかなぁ」


 ピラーマンという最初の洗礼にしては些か味気ない印象。でもそれは俺がアンドロイドであるが故の感想。もし俺が人間だったらここに足を踏み入れた時点で終了だろう。


 それはそれとして。目の前に広がるの腐敗毒を流す滝と一面に広がる腐敗沼。そして高い天井と広い空間を織りなす洞窟だ。


 脚の踏み場なんて俺がいる入口付近と沼からひょこり顔を出している岩々くらいだ。向こうの方に岩地があるも、デッカイ岩が鎮座しているだけ。果たしてこのダンジョンに本当に腐壊石はあるのだろうか。


『空気中腐敗毒素率:1.2%』


 アカン数値がもはや死を警告している。人間がこの場に居るだけで腐って溶けてしまうのかも知れない。


「とりあえず散策するか……」


 ジッとしていても仕方ないので行動。泡立つ腐敗沼の中を突き進む。


 ――ピピ!


 フィールドスキャンがこのダンジョンを引き続きマップ化してくれているが、懸念が一つ。


(沼の深さが二メートルから表示されない?)


 この一面に広がる沼。フィールドスキャンで確認できる範囲ではあるが深さが表示される。そのほとんどが足のくるぶし辺りまでの深さしかないが、所々急勾配な坂を経て一メートル、それこそ二メートルと深いところが見受けられる。


 危ない。非常に危ない。そこに足を踏み入れたらと思うとゾっとする。


「現れたか!」


「ゴロ」


「ゴゴオオ」


 探索する範囲を広げると、自ずとエンカウントするモンスター。どいつもこいつもピラーマンであり、相も変わらず腐敗毒を巻き散らかして来る。


「ッハ!!」


「ッゴ!?」


 当然俺には効かないので、毒をバシャバシャしてる隙に鉄拳制裁。特に危なげなく完勝。


 それからというもの、ピラーマンの襲撃は多々あれど順調にマッピングしている俺。視界の端には常に『オートクリーニング発動中』がゆっくり点滅。早くお目当ての物を回収して地上に戻りたいところ。


 だが探索して小一時間。未だに成果なし。


「――洞窟の奥にあるとされる腐壊石。それが欲しいの」


 モナさんが言っていた言葉だ。


 そして俺は思った。"される"ってなんやねんと。でも確証はあるとモナさんは言った。そしてその真意を知るべく今ここに居る訳だが、俺はある一つの答えに辿り着いた。


「このダンジョンの奥には何もない」


 否、岩がある。正確には岩壁。


 ダンジョンの奥と言う事は、入り口から一番遠いところに位置すると受ける。


 そしてその一番奥にあたる部分だが、このダンジョンを形成するにあたるただの壁だけがあった。もちろんぶっ叩いたり蹴ったりしたけどうんともすんとも言わない始末。


「そもそもの話、ダンジョンの奥には無いがダンジョンの中に腐壊石がある。なんてオチじゃないだろうなぁ……」


 ダンジョンの中央にあるデカい岩に背中を預けて独り言。ピラーマンも粗方倒したし、正直探索するところはほぼ無い。……正確には沼の深いところを潜ると言う選択肢はあるが、絶対に嫌だ。


「……ん?」


 この時、俺に電流走る。まだ行ってない場所があると。


「この上だ……」


 背中を預けていたデカい岩。それを見上げながら呟いた。よく見るとフィールドスキャンしたマップにも、この岩の輪郭がしっかりと載っている。


「よし」


 そう決まれば早かった。その場でジャンプし小さくステップを踏み、手足をぶらぶらして緊張を解く。そして勢いよく駆ける。


 踏みしめた地面が小さく抉れ、岩肌を縫う様に垂直に駆けた。


「ほいっと!」


 三秒にも満たない秒数でスタッと頂上に着地。高さにして七階建てのビル相当の高さ。自分がアンドロイドなんだとつくづく驚いてしまう。


 そして邂逅。


「あ!」


 キラリと光る物があると思ったら、よく見ると水晶が群生している個所を発見。急いで近づいてみると、岩の窪みに隠れるようにそれはあった。


「中が泡立ってるピンク色の結晶……!」


 モナさんの言ってた通りの石を発見。しかも身を寄せ合う様に群生している。


 手を伸ばして掴もうとした。


 その瞬間。


 ――グラッ!!


「うおっ!?」


 突然の地震。否、岩が急に坂になり、瞬く間に垂直になった。


 堪らず俺はその場を離れ、突起している沼の岩に着地。


 けたたましい音を後ろに聞きながら、俺は振り向いた。


「ゴ■■ロロ■オオオオオ■■ゴ!!」


 そこには巨人が居た。


猛戦士バーサーカー柱男ピラーマン


 岩の正体は巨大なピラーマンだった。


「ボスってことか……。大丈夫! 俺ならやれる!!」


 そう自分を鼓舞し、バーサーカーピラーマンを睨んだ。

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