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弱小吹奏楽部 ゆるゆる活動記
弱小吹奏楽部 ゆるゆる活動記
ぼんげ
現実世界青春学園
2025年07月26日
公開日
3.6万字
連載中
こんにちは。私は稲川(いながわ)女子高等学校吹奏学部副部長のサックスパート3年・金森(かなもり)夏希(なつき)です。 今日は来たる新歓でのステージ発表に備えて、みんなで合奏の練習をする予定・・・・・・だったのですが・・・・・・。 音の出だしも終わりも揃わず、音程はバラバラ。やる曲の譜面を持って来ていない部員に、事前の練習すらしていない部員まで。そして、なにより・・・・・・事前に告知したにも関わらず、驚異的な欠席率!  ・・・・・・指揮者の私も、なんだか心が折れそうです。 こんなグダグダ弱小吹奏学部ですが、毎日楽しく活動しています。もしよかったら、ぜひ見学に来てくださいね。

吹奏楽部から 迷い人のお知らせをします…

1曲目「うわっ…部員の出席率、低すぎ…?」

 ~♪


 音楽室に響き渡るチューニングのロングトーン。様々な楽器たちが一斉に一つの音を奏でるその様は一見する分には迫力があるように感じるが、その実何故だか物寂しい。まるで餡の入っていない鯛焼きのようとでも形容するべきだろうか。


 10秒ほどロングトーンを続けたのち、空席の目立つ歯抜けの扇形の中心で、指揮者の金森かなもり夏希なつきが指揮棒の先で中に小さく円を描いた。


 それに呼応してロングトーンを止める各奏者たち。音の切りしなもてんでバラバラで、いっさいまとまりは感じられない。


「はぁ……」


 指揮棒を降ろし、夏希は呆れ顔で溜息をつく。にわかに緊張が走る音楽室内。


「あのさ……私、『18日の新歓ステージに備えて、15日は合奏練をするわよ』って、ずーっと前から言ってたわよね……?」


 誰にともなく、各ポジションに着いているメンバーたち全体へ向けて口を開く夏希。しかし、ステージ仕様に並べた椅子は空席ばかりだ。


「……なんでこんなに、欠席者ばっかりなのよぉー!」


 天井を仰いだ夏希迫真の叫びは、ともすれば先ほどのチューニング音よりもよっぽど迫力があった……。


 ***


「……今更だけど、点呼でも取ろうかしら? ふふふ……」


「あら、夏希さんが壊れましたわ」


 やけくそになって笑い出す夏希に対し、最前列左手に座るフルートパート3年・長岡ながおか咲枝さきえがおっとりと間延びした声で茶化しを入れる。


「咲枝、うるさい。じゃあまず、フルートパートからいくわよ。戸山さんは……?」


「あら? 言われて見れば、萌絵さんがいませんわね……?」


 右の頬に手の平を当てながら、可愛らしく小首を傾げる咲枝。


「いや、気づいてなかったんかい!? しっかりしなさいよ、パートリーダー……」


「あら、嫌ですわ夏希さん。褒めても何も出ませんわよ?」


「1ミリたりとも褒めてないわよ! ……まあいいわ。次、ダブルリード! 白井さん、亜希は……?」


「鴨志田先輩なら『物理のレポートが終わらへん』って嘆いてました」


「うん。私も同じ授業受けてるけど、まだレポートなんか出てないわよ」


 今日は4月15日。新学期が始まって一週間弱だ。レポートはおろか、まだまともな授業すら始まっていない。……つまりはサボるためのでまかせだ。


「亜希は後でしばくとして……次、トランペット! 堀越さん、稚菜は……?」


「川辺センパイならぁ、「今日はバイトのシフトを入れたから帰るわ」って言ってましたぁ」


「そもそもシフト入れるなとは言いたいけど……まあ仕方無いわね。で、トロンボーンに至っては誰もいないと……。次、バリチュー! 由美香、山辺さんは……?」


「山辺さんなら……今日は委員会」


「ここにきて初めてまともな理由ね。次、ホルン! 大林さん、未央は……?」


「ちょうど今、関矢先輩から返信が来まして……『え、あれエイプリルフールの嘘じゃなかったの?』って……」


「ん・な・わ・け・あるかぁぁぁぁ!!!!!」


 確かに夏希が合奏の連絡をグループチャットに流したのは4月1日のことだ。ただ言うまでもないが、夏希は当然そんなつもりで送った訳ではない。


 ついにブチギレた夏希による、味方のエラーにキレる往年のプロ野球投手を彷彿とさせる美しいフォームでの指揮棒叩きつけが決まり、その怒号は音楽室の防音設備をも超えて校内に響き渡ったのだとかなんとか。


 ***


「はぁ……はぁ……。まだ確認してないパートもあるけど、もういい……。私の身体が持つ気がしないわ……」


 絶叫の反動か、肩で息をしている夏希。


「お疲れ様ですわ、夏希さん。パッキーでも食べます?」


 そんな夏希を尻目に呑気にチョコレートスティックを食べていた咲枝が、そのうちの一本を夏希へと差し出してきた。


「ありがとう、咲枝。……って、これから合奏なのに、なにパッキーなんか食べてんのよ!?」


 管楽器は楽器に息を吹き込んで演奏をするその性質上、練習中に何かを食べるのは厳禁なのだ。あまりにも当然のように渡されたため、ついスルーしていた夏希だったが、気がついてすぐにツッコミを入れる。


「え? まさか、これから合奏やるんですの?」


 さも意外そうに、きょとんと首を傾げている咲枝。


「やるに決まってんでしょ!? さっさと歯磨きしてきなさい!」


「はーい」


 夏希の剣幕も意に介さず、呑気な返事をしてのんびりと音楽室を出て行く咲枝。その後ろ姿を見送り、夏希は疲れ切ったように溜息をつく。


「……気を取り直して、いるメンバーだけで始めましょうか」


 夏希が先程床に叩きつけた指揮棒を拾おうとした、そのとき。


 ガチャリ。


 音楽室の扉が開き、色素の薄いホワイトブロンドの髪に寝癖跡をつけたままの部員がその姿を現した。その右手にはクラリネットが抱えられている。


「遅れてごめんねー。いつの間にか教室で寝ちゃっててさ……目が覚めたらこんな時間に……。あはは」


 気の抜けた声で頭の後ろを掻きながら、自分の席へと向かっていく彼女。


月奈るな、アンタねぇ……。部長がそんなんでどうするのよ……?」


「あはは……。ごめん、ごめん。夏希ちゃん」


 呆れた様子の夏希に叱られ、バツの悪そうに頭の後ろを掻く彼女。


 彼女はクラリネットパート3年・宍戸ししど月奈。


 ……そう。何を隠そう、彼女こそが、この稲川いながわ女子高等学校吹奏楽部の部長なのである。


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