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ー鼓動ー2

 週に一回しかない定期便。


 それが一昨日の事故で転覆してしまった事で、明日にはもう一度新しい船がこの島へと来るらしい。それまでは父さんや朔望達は東京に帰る事が出来ないでいた。でも普通なら約一週間後に帰る予定だったという事だ。ま、どっちにせよ定期便がもう一度来てくれないと本土に行く人達が戻れないって事でもある。


 島に泊まる気で来てたんだったら、きっと父さんや朔望達はこの島にある旅館かなんかを取って来てたんだと思うしな。


 しかし俺にしては今日の朝は早く起きてしまっていたのかもしれない。そう今はこうして外に出て体を伸ばしているのだから。


 この島に来て約一ヶ月。


 確かに色々とあった。やっと問題は一つ解決出来たように思える。そう俺の中での悩みだったのは、島の人達と仲良くやっていけるかだ。だって本当に最初の一週間っていうのは島の誰もこの診療所に来てくれてなかった。だけどよくよくみんなで話合ってみた結果。島の住民達に挨拶しに行ってなかったって事が問題だったらしい。確かに考えてみればそうだ。確かに引っ越して来て隣近所に挨拶しに行くのは当たり前なのだから。それからというもの住民の人達が少しずつ診療所の方に足を運んでくれるようになって、やっと診療所としての一歩を踏み出せたのかもしれない。


 東京とは違い、本当にゆったりとしたような時が流れてるような気がする。


「よしっ!」


 そう俺が気合いを入れた途端、何処かで誰かが俺の名前を呼んでいるような気がして来た。


「兄さーん!」


 せっかく一人の朝を満喫していたのに、そこに現れたのは朔望だ。寧ろ、俺の事を『兄さん』と呼ぶのは兄弟の中でも朔望しかいない。歩夢の場合には俺の事を『望兄さん』って呼ぶしな。そこは歩夢からしてみたら朔望と俺が兄になる訳だからそう呼んでるのかもしれないのだが、歩夢と朔望は今は恋人でもあってアメリカ生活が長かったからなのか、あの二人の中では名前を呼び捨てしてたようにも思える。


「ってか、何でお前は、そんなに早いんだよ」


 と俺は朔望の登場にめんどくさそうに答える。


「え? いいじゃん! いいじゃん! 早起きは三文の徳って言うでしょ? ま、それにこんな仕事してたら、睡眠時間とかっていうのは関係無くなっちゃうから、だから、早く起きようが遅く起きようが関係無くない?」

「ま、確かにそうだけどよ……」


 とりあえず俺からしてみたら、朝からこうもうるさいのが来ると鬱陶しくて仕方がない。


「あぁ! そうだ! まさに、今日の朝っていうのは、その通りだったのかも!?」


 そう何でか嬉しそうに言っている朔望だが、俺からしてみたらその朔望が言いたい事が分からない。だからもっとめんどくさそうな表情をしながら、朔望の事を見上げていた。


「はい!?」

「だから、三文の徳の話」


 ……ああ、その事か。


 確かに朔望の言葉で三文の徳の事を言いたかったのは分かったのだが、何で三文の徳になったのかというのは分からないままでいる。ま、朔望だから別に聞きたいとは思わないのだけど、だけど朔望は俺の心の中とは関係無しに、寧ろ自分から、


「その三文の徳っていうのはねぇ、朝から、兄さんに会えたっていう事!」

「はぁいいい!?」


 俺がその朔望の言葉でそんな反応をしてしまうのは当たり前だろう。だって本当に俺っていうのは、朔望には興味がないのだから。確かに兄弟で双子だっていうのは分かったのだけど、それ以上の事は本当に興味はない。


 しかし朔望からしてみたら三文の徳だったのかもしれないのだけど、俺からしてみたらもう朝から最悪な気分だ。 そうそう三文の徳でも無いしな。


「ま、とりあえずさ、今日一日僕達っていうのは、ここにいる訳だし、兄さん達の診療所手伝って上げるよ」


 そう言って朔望は俺の背中を押し、俺達が住んでいる家の方へと向かってしまうのだ。

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