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ー鼓動ー57

 こうして家でのんびりするという事は何だか懐かしい感じにもさせてくれている。


 油が跳ねる音の次に聞こえて来たのはいい匂いだ


 お腹の空腹を誘ってくれるようないい薫り。


 確かに島に居る時だって雄介はご飯を作っていてくれたのだから、毎日のようにご飯を作るいい匂いというのはしていたのだけど、今のこの空間というのはこうも懐かしく感じてしまっているのであろうか。


 テーブルに肘を付けボーっと考える俺。


 きっと本当に今までこうしたのんびりとした時間がなかったからなのかもしれない。


 何も考えなくてもいい空間。そのまま俺がボーっとしていると、


「ハンバーグが焼けるのにもう少し時間掛かるし、お風呂にでも入って来たら?」

「……え? いいよ……って言ったて、もうすぐ出来るんだろ? そういうもんっていうのは熱いうちに食べたいもんだしさ」

「ほんなら、待ってて」

「ああ、うーん」


 何だかもう少し雄介と話をしてくて言葉を濁す俺。


 懐かしさに浸ってるのもいいのだが、今は雄介と二人だけの時間なんだから、雄介とゆっくりと話がしたいと思ってしまっていたのだから。


 でも、そういう時に限って話題というのは無いもんだ。


 いや俺からしてみたら話し下手だから何かこう話題みたいなのが出てこないっていうのかな?


 人と話す事だって苦手なのに、好きな人とだともっともっと話下手になってしまうのかもしれない。


 昔だって俺から雄介に話を振った事というのはあまりなかったようにも思える。だいたい昔っから話をしてきてくれるのは雄介の方だ。


 それに俺から話をしてしまうと、きっと真面目な話しか出来ないからだろう。


 ……ったく。俺って本当にそういう所不器用。


 そう思いながら俺の方は思いっきりため息を吐く。


 するとそのタイミングで料理が出来たのか雄介がテーブルへとその料理を運んで来ていた。


 するとその瞬間、雄介と目が合う。


「どないしたん? 俺が料理してる間暇だったんか?」

「え? あ……まぁ、確かに」


 そう言う雄介から視線を外してしまっていた俺。


 そこで雄介は何かに気付いたのであろうか。


「風呂に入って来れば良かったのに」

「あー……風呂な……その……」


 俺はその雄介の言葉で瞳を宙へと漂わせている。


「えーと……そのな……お前と入りたかったから……じゃ、ダメか?」


 そう溜め込んで言った言葉に、急に雄介の方が俺の真正面でクスクスとし始める。


「あ、そっか……そういう事やんなぁ。それは俺が風呂勧めてもうてスマンかったわぁ。確かに二人きりで居るのに一人で入るのは……ってな事やろ?」


 その雄介の言葉に俺の方は頷く。

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