「んー? なんやろなぁ?」
そう雄介は腕を組んで眉間に皺を寄せてまで考えてしまっている。
「あ、分かった……」
呟くように言う雄介。
「な、何だよ……」
そう言ってると雄介が俺の眼前まで近付いて来て、
「眼鏡が無いんや」
「……へ?」
そうやって俺の鼻の頭をツンと軽く突いて来る。
「はぁああいい!? だって、それはいつも風呂に入る前には付けてないだろ?」
「ま、そんだけ今は俺の方も落ち着いて望の事を見れてるって事なんやろな?」
「……って、自分で自分を分析してんじゃねぇよ」
「しっかし、久しぶりにまともに望が眼鏡掛けてない姿見ておっても望って可愛いのな」
そう無邪気に微笑む雄介。
その顔に俺の方も何だか安心してきたようにも思える。
今の俺は久しぶりにゆっくりとしているのに、今の雄介の言葉でもっと気が抜けてしまったような気がした。
「どないしたん? なんや、ボールから空気が抜けてまったような顔して」
そうあっけらかんとしたような表情で言う雄介に今度は俺の方が笑いが込み上げて来る。
それは次第に込み上げて来るから本格的に笑ってしまっていたのだ。
「あはははー!! お前ってそんな奴だったか?」
俺からの質問に完全に首を傾げてしまっている雄介。
気が抜けてしまっている雄介っていうのは完全に面白い。自分が言ってしまっている事にさえ自覚がないのかもしれない。
こういうのが天然ボケっていうのかな? いや、もし自覚があって言ってるのなら、ただの馬鹿っていう事になるのか。
天然ボケと馬鹿というのは、結構な勢いで境界線が近い。
雄介の場合には天然ボケの方だろう。
「でもな、ホンマに、それだけ望の顔をまともに見てなかったって事になるんやろうなぁ?」
そう腕組みをしながら雄介は浴槽の壁へと寄り掛かる。
「確かにそうなのかもしれねぇよな。俺だって、雄介の顔を久しぶりに見たような気がするしさ。だって、いつものように最近は見てるのにさ、なんか、いつもと違うっていうのかな?」
「それって、望も俺の事、歳食ったって言うやないやろな?」
そう今度は雄介の方が眉間に皺を寄せながら、俺の事を真剣な眼差しで見て来る。
そして俺の方は雄介から視線を逸らせ、
「……へ? あ、まぁ、歳は食ったんだろうな、俺もだしさ。だって、実際あの頃よりも歳は食ってるんだしよ。でも、昔とあまり変わってないっていうのか、あ、ぅん……カッコ良くなったっていうのかな?」
「……へ?」
その俺の言葉に雄介は声を裏返してしまったようだ。