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ー鼓動ー71

「ま、せやね。そん事で一回別れようって話になったしな。ホンマ、望とはここまで来るまでに幾度となく喧嘩とか話し合いとかっていうのをしてきたって思うわぁ。まぁ、特に俺が医者になろうとしていた時にはな」

「え? あ、まぁ、それは確かに何回も話合ったのは覚えてるよ。だって、お前が初めて医者になりたい! って言っていた時には、まだ、不純な動機でしか聴こえてなかったからな。それだったら、やらなくていい! って俺は何回言った事か。それに雄介の能力的な事も知らなかった時期でもあったし」

「でも、望のお陰で自分に気合いが入って、今はこうして俺が医者になる事が出来たんやけどな」

「え? あ、まぁな」

「あん時、俺が医者になっておらんかったらなー、と思うと怖いわぁ。だって、消防士っていう仕事はな毎日のように死と隣り合わせの仕事やったんやからな。でも、望が俺に医者としての道を教えて来てくれたから、今こうして俺は医者になる事が出来たしな」

「え? あ、うん……まぁ、正確には親父になんだろうけど。どういう考えで親父は島の診療所で働く医者が欲しいって言って来たのか? っていうのは分からないんだけどさ。でも、結果的に雄介がなってくれて良かったんじゃねぇのかな? って思うんだけどよ。まぁ、朔望達の話によれば、春坂病院ともう一つ買い取った病院と俺達が今働いている島の診療所とで俺達兄弟に病院を任せたって事にしたらしいのだけどな」

「ま、それが親としての考えだったんと違う? やっぱ、一つしか病院がなかったら、一人しか院長になれないのはやっぱ喧嘩の原因にもなるだろうしな」

「ま、それもあるんだろうな。俺的には別に院長になりたくはなかったんだけど。それにそんな重い役職は俺には似合わないっていうのかな?」

「せやけど、親として息子をそういう地位に就かせたいとは思うやろな。例えばさ、このまま春坂病院に跡取りが出来なくて、誰か知らない奴を病院の跡継ぎにさせたいと思うか?」


 その雄介の言葉に俺は考える。


「あー……俺が院長だったら、それは嫌かな?」

「せやろ? 人の気持ちになってみると、そうやって簡単に答えが出てくるもんなんやって」

「あ、そういうもんなのか」

「ほな、今の診療所の跡取りはどないするん?」

「……へ!?」


 その雄介の問いに俺は裏声を上げてしまっていた。


「んー、そうだな。俺達には跡取りなんていうのはいないから、ま、いなかったらいなかったで、診療所の方は閉めればいいんじゃねぇのか?」

「ま、そうやね。それしかないもんな」

「つーか、そこまで考えた事はなかったよ。ま、結局、俺達には絶対に跡取りなんていうのは無理なんだから、最後の最後まで俺達があの島で頑張るしかないんだよな」

「ま、そういう事やんな」


 話が丁度切れた所で、雄介は手を合わせて「ごちそうさま」と言い、食器を台所へと運んで行くのだ。


 俺の方も直ぐに食べ終えると食器を置いて、


「んじゃあ、行くか。とりあえず、MRIとCTはやってもらおうかな? 今の所はそれさえ確認出来れば問題無さそうだしよ」

「望がそう言うんやったら、それでええんと違う?」


 雄介は体を伸ばしながらそう答える。


「完全に午前中いっぱい掛かるのは覚悟しろよ。早めに行ったって、患者さんはもういるんだしさ」

「でもさ……望が診てくれるって言うたからって、どないするん? やっぱ、そこは初めてみたいなもんなんやし、診察室には行かなきゃアカンやろ?」

「あー、そうか、流石に雄介だけ特別扱いするなんて事出来る訳がないしな。まぁ、仕方がない、先ずは新城の所に行った方が色々と分かってくれるだろ? ってな事で最初は新城先生の所で診察だけしてもらおうか?」

「ああ、せやな」

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