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第5話 結成のお茶会

 ファイエンの足首を掴んだ直後、フリードは自身の身体を持っていかれそうになるも、踏ん張り、難を逃れた。


(屈強な身体のフリードだからできたけど、前の僕だったらファイエンと一緒に落ちちゃってたよ)


 フリードはファイエンを引き上げようと、もう片方の足首に手を伸ばしたそのとき――。


「離してくれ!」


 宙にぶら下がっているファイエンがじたばたと暴れる。


「離さない!!」


 フリードはタイミングをはかり、ファイエンの足首を掴んだ。

 両足首を掴まれたファイエンは抵抗をやめ、大人しくなる。


「ファイエンは火の勇者として――」

「君になにが分かる!!」


 フリードはゲームの世界で活躍していたファイエンについて語ろうとするも、ファイエンに遮られる。


「僕の人生を奪った君だけには会いたくなかった……!」

「っ!」


 フリードはファイエンに拒絶されたことで、ショックを受ける。

 両足首を掴んでいた手の力が抜け、ファイエンの身体が地に近づき、ずんと重くなる。


「偽物だった僕なんて、存在する価値もない」


 本音を聞き、ファイエンは絶望しているのだとフリードは悟る。

 フリードはこの気持ちを知っている。

 転生する前、余命宣告されたときの自分。

 傍にいた両親や妹は『余命より長く生きた人はいる。頑張っていたら完治できるかもしれないよ』と前向きな言葉を自分にかけていたらしいが、当時は何も聞こえなかった。

 誰の言葉も耳に入らなかった。

 シンとした真っ暗な空間に一人取り残された感覚。

 それが絶望。

 今のファイエンは過去の自分と同じ感覚に陥っているのだと。


(僕が生きる希望をもらったファイエンが、僕のせいで絶望している……)


 かける言葉を見つけられず、フリードは言葉を失う。


(でも、僕は――)


 すぐに気持ちを切り替え、フリードはファイエンに再び話しかける。


「偽物でもいいじゃないか」


 ファイエンんの気持ちを傷つけないよう、優しい声でフリードは話す。


「俺は……、ファイエンの一生懸命な姿に元気づけられてた。周りに嫌なことを言われても見返そうと努力する姿に勇気づけられてた。だから――」


 フリードはファイエンに言う。


「今度は俺と一緒に旅をして、偽物だって言ってる奴らを見返してやろうぜ!」

「フリード……」


 フリードは自身の旅にファイエンを誘う。


「君は僕の力なんて――」

「必要だ」

「……」

「俺の隣で戦ってくれ、ファイエン」


 そうフリードが言った直後、ファイエンの身体が急に軽くなった。

 好機だと思ったフリードはファイエンの身体を引き上げる。

 バルコニーに戻ったファイエンは、ぽかんとした表情を浮かべていた。


「どうして君が泣くんだよ……」


 フリードがボロボロと涙を流していたからである。


「そりゃ、ファイエンが悲しいことを言ったから……」


 裾で涙を拭くと、ファイエンの笑顔が戻った。

 ファイエンは立ち上がろうとするも、バランスを崩す。

 フリードが落とすまいと強く掴んでいた両足首に違和感があるようだ。


「さっきの言葉、すごいね。まるで愛の告白みたいだった」


 ファイエンにそう言われ、フリードの顔が熱くなる。


(不意にファイエンにそういうこと言われたら男の僕でもドキッとしちゃうよ)


 冗談というのは分かっているものの、王子様のような容姿のファイエンに言われたら同性でもどきっとしてしまう。


「火の勇者フリード」


 冗談を言って場を和ませてくれたファイエンが、フリードに手を差し出す。


「君の旅に僕を同行させてください」

「ファイエン、俺の方こそよろしくなっ」


 フリードはファイエンの手を握り、握手を交わす。

 こうして各国を救う旅にファイエンが加わった。



 フリードはファイエンを連れ、シャーリィと約束をした場所に入った。

 そこには紅茶と軽食、お菓子が用意されており、シャーリィとティニアが待っていた。


「遅かったじゃない。一杯目のお茶が冷めちゃったわ」

「わりい、その――」


 シャーリィの文句に、フリードは言葉が詰まる。


(ファイエンがバルコニーから飛び降りようとしていて――、なんてこと言えないよ)


 事実を口にすることをためらったから。


「卑屈になってた僕に活をいれてくれてたんだ。だから遅くなったのさ」

「あっそ」


 その間にファイエンがそれらしい理由を述べてくれ、シャーリィが納得する。


「火の勇者様のありがたいお言葉のおかげなのかしら」


 シャーリィはファイエンの顔を指す。


「まともな顔になったわね」

「もう、大丈夫だから。僕のこと心配してくれて、ありがとうシャーリィ」

「ふんっ」

(誰に対してもシャーリィはツンデレなんだ)


 ファイエンとシャーリィのやり取りをみて、フリードはそう思った。


「ファイエン!」


 ティニアはファイエンを目にするとぱあっと明るい表情になった。


「一緒に旅してくれるの?」

「うん。フリードに『隣で戦ってくれ』って言われちゃったからね」

「余計なこと言うんじゃねえ!」


 あの時の言葉を掘り起こされ、フリードは途端に恥ずかしくなる。


「僕はそう言って貰って嬉しかったんだよ。あの時の言葉はずっと忘れない」

「一緒に旅をしようと思ったのは……、私たちの言葉じゃなくてフリードさんの言葉なんだ」

「うんっ」


 ティニアの問いに、ファイエンは満面の笑みで肯定する。


「そっか……、そうなんだ」


 ティニアの言葉は一つ一つ重く感じる。

 清楚で礼儀正しい子のはずなのに、フリードの前では湿度が高いような気がする。


「ティニア、ファイエンがついて来てくれるなら不満はないでしょ」

「……ええ。シャーリィお姉さま」


 シャーリィがティニアに声をかけ、ジトっとした雰囲気がなくなった。

 四人はそれぞれ席に着く。


「フリード」


 席に着いた直後、シャーリィに声をかけられる。


「旅のリーダーとして、一言ちょうだい」

「一言……」


 シャーリィに振られ、戸惑いながらも、咳ばらいをしたフリードはティーカップを掲げ、宣言する。


「この旅は各国の危機を救い、二年後に復活する魔王を倒すためのもの。楽なもんじゃねえ。けど――」


 フリードは仲間と一人一人目を合わせる。


「シャーリィ」


 シャーリィは堂々とした態度でティーカップを掲げる。


「ティニア」


 ティニアは不服そうな表情でしぶしぶティーカップを掲げる。


「ファイエン」


 ファイエンは新たな目的を得て、晴れ晴れとした表情でティーカップを掲げる。


「四人で必ず成し遂げよう」


 フリードの宣言と共に、四人のティーカップが重なり、ゲームの展開とは違う、四人旅が始まった。


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