強さとは、本当に力のことだろうか。
鉄を砕く拳があっても、心は壊れやすいまま。
誰かに見せるための力は、誰にも見せたくない弱さの裏返しなのかもしれない。
日々を削り、汗で傷を埋めることでしか、
自分を保てない者がいる。
その姿を、人は「戦士」と呼ぶ。
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激しい打撃音が響き渡り、周囲のすべてが震え上がる。
視点が変わり、数人の兵士たちが目の前の光景に呆然としている。
兵士1(目を見開きながら)
「信じられない……どうしてあんな力が?」
拳の衝撃は止まらず、最前線の兵士たちですら後退させるほどだ。
兵士2(引きつった笑顔で)
「ほんとに……まだ17歳なのか?」
兵士3
「そうだ。何しろ、あいつはあの世代のナンバー3だ。」
場面が切り替わり、紫黒の装束をまとった若者の姿が映る。
その身体から放たれる威圧的な紫のオーラ――
そして、若者が放つ最後の一撃。
その拳は標的のマネキンを粉々に砕き、鋼鉄の体を数百の破片に変えた。
兵士たちは唖然とし、言葉を失う。
兵士2(苦笑いしながら)
「……あのマネキン、鋼でできてたはずだぞ。」
その若者の視線は冷たく、そして迷いなき決意に満ちていた。
カメラが引いて、ようやくその姿が明らかになる――エデンだった。
エデン(心の声・小さく息を吐きながら)
「まだ全然足りない……あいつらに一人で勝ちたいなら、もっと強くならなきゃ。」
そこへ一人の女性が現れ、場に声をかける。
メイ(トロイア王国・近衛隊)
「はいはい、もういいわよ。時間の無駄。さっさと持ち場に戻りなさい!」
兵士たちは命令に従いながらも、去り際にエデンの話をひそひそと交わす。
そんな様子を見て、メイはほほ笑みながらエデンに声をかける。
メイ(微笑しつつ)
「来てからずっとね……目立つことばかりしてるじゃない、ヨミ。」
エデン
「……そうみたいだな。」
メイ
「もう休んでいいわよ。来てからずっと休まず訓練してたでしょ。」
エデン(冷たく)
「大丈夫だ、休む必要なんてない。」
メイは少し悲しげな目をしながら、優しく言葉を添える。
メイ
「あなた、今……苦しんでるように見えるの。数日でもいいから、少し心を休めなさい。」
エデン(少し苛立った声で)
「だから、俺は……」
その言葉を遮ったのは、メイの怒りのこもった視線だった。
メイ(鋭い眼差しで)
「これはお願いじゃないわ。上官としての命令よ。分かった?」
エデンは悔しげな表情を浮かべつつも、黙ってうなずく。
彼の中には、どこかその言葉を認めている自分がいた。
メイ
「たしか、もうすぐトーナメントの決勝があるはずよね? せっかくだし、友達と一緒に観に行ったら?」
エデン
「……ああ。」
メイはその場を去る前に、そっとエデンの肩に手を置いて言った。
メイ
「私たちは、あなたの帰りを待ってるわ。でも今は、少し自分を解放してあげて。」
メイ(優しく微笑みながら)
「そして、心が整ったら……その時は胸を張って戻ってきなさい。いい?」
エデン
「……ありがとう、メイ。」
エデンの目線で風景が切り替わる。
目に映るのは――アドナイスとタカハシの戦いで破壊された無残な光景。
エデン(皮肉な笑みを浮かべ、小さな声で)
「やっぱり俺が来ると……不幸を呼ぶみたいだな。」
兵士
「急げ! 負傷者を運べ!」
場面が切り替わり、病院の一室。
そこには、ベッドに横たわるシュンと、壁にもたれるエデンの姿がある。
シュン(少し苛立った声で)
「どうした? 黙って突っ立ってるつもりか?」
エデン(真顔で)
「お前な……まるで馬二十頭に糞かけられたみたいな顔してるぞ。」
その言葉に、思わず吹き出すシュン。
つられてエデンも笑い、二人だけの穏やかな空気が流れる。
シュン(苦笑しながら)
「他になかったのかよ、マシな一言。」
エデン(口元に小さな笑みを浮かべながら)
「お前に励ましの言葉なんて効くわけないだろ、ピンク頭。」
シュン(ふっと笑い返す)
「だな、バカ野郎。」
エデン(少しだけ真剣な顔つきで)
「で……これから、どうするつもりだ?」
シュン(きょとんとしながら)
「何の話だ?」
エデン(冷静に)
「その状態じゃ……ただの足手まといだ。」
シュン(むっとした表情で)
「ほんと、どうしようもないくらいバカだなお前は、エデン。」
その目が変わる。冗談の影は消え、決意に満ちたまなざしに。
シュン(静かに、しかし力強く)
「俺は戦うよ。最後の一秒まで……
命が尽きるその瞬間まで、俺は――戦う。」
その言葉を聞き、エデンの顔に安堵の微笑みが浮かぶ。
エデン
「……それを聞いて安心した、シュン。」
エデン(少し背を向けながら)
「もう行くよ。日が沈む前にはトロイアに戻らないと。」
シュン(ややいたずらっぽく微笑んで)
「で? 楽しんでるのか?」
エデン(肩をすくめて)
「楽しむってほどでもないけどな……できることをやってるだけさ。」
その言葉に、シュンもまた笑顔を浮かべる。
そしてエデンは、静かにその場を後にする。
……シュンの笑顔が消える。
彼の表情は、確信から迷いへ、そして痛みに変わっていく。
拳を震わせながら、心の中で叫ぶ。
シュン(心の声)
「戦わなきゃ……俺が、やらなきゃ……」
その目には、滲むような涙――
悔しさと、自分の無力さを噛み締めながら、彼はただ、天井を見つめていた。
場面は港へと移る。
湿った木の板に打ちつける波の音が静かに響き、夕暮れの光が海面を染めている。
桟橋の先に、エデンが一人立っている。
その背後から、誰かの足音が近づく。
エデンが振り返ると、そこにはシュウ、ユキ、そしてヴァイオレットの姿があった。
シュウ(軽く笑いながら)
「まさか、また黙って行くつもりだったのか?」
ユキ(頭をかきながら、少し拗ねた様子で)
「ほんと、あんたって頑固だよね。一日中こっちに寄りもしないでさ、まるで俺たちが病気でも持ってるみたいじゃん。」
ヴァイオレット(優しい目で)
「エデン、私たちは友達でしょ?少しくらい話してくれてもいいのに。」
エデン(少しうつむき、小さな声で)
「……みんな……」
シュウ
「アフロディーテ先生が……全部話してくれた。」
その表情が、理解と悔しさに揺れる。
シュウ(声を落としながら)
「……そばにいてやれなくて、本当にごめん。」
エデンは黙ってシュウの肩に手を置き、ゆっくりと首を振る。
エデン
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫……少しだけ、時間がほしいだけなんだ。」
ヴァイオレット(心配そうに)
「……本当に、それでいいの?」
エデン(静かに)
「ああ、今はそれが一番だと思う。」
そのとき、ユキが急に近づいてきて、まるでケンカでも始めるような勢いで構える。
エデンが驚く間もなく、ユキは彼の胸を軽く叩き、そのまま強く抱きしめた。
その行動に、皆が目を見開く。
エデン(戸惑いながら)
「な、何してるんだよ……」
ユキ(少し涙声で)
「気をつけろよ、バカ……いいな?」
エデン(目を細め、少しだけ柔らかな声で)
「……ああ。分かったよ、ブス。」
遠くから、船の汽笛が港に響き渡る。
エデン(少し顔を上げて)
「……そろそろ行かなきゃ。」
そう言って、ポケットから一通の手紙を取り出し、シュウに手渡す。
エデン
「俺はもうここにいないから……これを、アレックスボルドに。卒業の日に渡してくれ。」
シュウ
「……分かった、任せろ。」
エデン(穏やかで、どこか寂しげな声で)
「ありがとう、みんな。また、会おう。」
やがて、彼の乗った船は水平線の彼方へと消えていく。
岸辺に残った仲間たちは、黙ってその背中を見送っていた。
そして船の上――
エデンは遠ざかる景色を見つめながら、拳を強く握りしめ、心の中で誓う。
エデン(心の声)
「絶対に……強くなってみせる。みんなを守れるくらいに。――絶対にだ!!」
場面が変わり――
壮麗なギリシャ風の神殿。そこには、各国の王や将軍たちが一堂に会していた。
巨大で筋骨隆々の男が、怒りに任せて机を叩きつける。
アヤックス(激昂しながら)
「こんな侮辱、許されるか!! あの野郎ども、一体何様のつもりだ!」
アヤックス
「もし神々の介入がなければ、とっくに滅んでたはずだろうが!」
その怒号の中、美しい顔立ちの若者が気まずそうに笑いながら口を挟む。
パトロクロス(苦笑いで)
「まあまあ、少し落ち着こうよ。叫んでも何も変わらないさ。」
堂々とした威圧感を放つ男が静かに同意する。
アキレウス(低い声で)
「……パトロクロスの言う通りだ。まずは冷静に話すべきだ。」
その声に、年嵩の男がにやりと笑う。
オデュッセウス(イタカ王)
「おや、珍しく正論じゃないか。……パトロクロスに何を吹き込まれた?」
その瞬間、アキレウスの剣が閃き、オデュッセウスの喉元に突きつけられる。
オデュッセウスは息を呑み、凍りついたように動けない。
アキレウス(殺気に満ちた目で)
「その口、もう一度開けば……その舌、引きちぎるぞ。」
オデュッセウス(震えながら)
「……すまない。」
メネラオス(スパルタ王)
「黙れ、全員。来たぞ――」
その言葉とともに、会場の扉が重々しく開かれる。
現れたのは、堂々たる風格と威圧を持つ男――
アガメムノン(ミュケナイ王)は血の気を感じさせない笑みを浮かべて現れる。
アガメムノン
「……ようやく全員そろったようだな。遅れてすまない。」
アガメムノン(周囲を見渡しながら)
「今日こそ、重要な決断を下す日だ。」
アヤックス
「……ああ。またしても、トロイア王プリアモスが連合への参加を拒否した。」
アガメムノン(肩をすくめて)
「まったく、あの老人はどこまで強情なんだか。」
アヤックス
「俺は、もう滅ぼすべきだと思う。どれだけ軍を集めようと、我らには敵わん。」
アガメムノン
「それが一番手っ取り早いな。奴らの領土を、武力でもぎ取るのも悪くない。」
その言葉にアキレウスが小さく笑う。
アヤックスは不快感を露わにする。
アヤックス(怒りを抑えきれず)
「何がおかしい!?」
アキレウス
「筋肉はあるのに……脳みそは空っぽだな、猿どもが。」
アヤックスは怒りで槍を強く握る。
アヤックス
「貴様、今なんと言った……!?」
アキレウス(真剣な目で)
「今ここで戦を起こすのは、ただの愚行だ。無意味に民の血を流すだけだ。」
アキレウス
「たとえ遠回りでも、外交こそが正しい道だ。……無実の命を奪う理由など、どこにもない。」
沈黙が支配する中、一人の従者が部屋へ入ってくる。
従者
「陛下……」
その直後、巨大な影が迫る。
アガメムノンの手が一閃し、従者の頭を無情に潰す。
ぐしゃり、と音が鳴る。
その場にいた全員が、言葉を失った。
アガメムノン(返り血を浴びながら、冷酷に)
「敵を潰すのに……理由が要るのか?」
アキレウスは冷たい目で、静かにアガメムノンを見つめる。
アガメムノン
「アカイアの主権に歯向かう者は、滅びと苦痛を受けるだけだ。」
アガメムノン
「民が何人死のうと……その血が勝利の礎になるなら、それでいい。そう思わないか?」
場が再び重苦しい沈黙に包まれる。
その空気を裂くように、軽やかで不気味な足音が近づく。
そして現れたのは――ヨゲン。
ヨゲンが姿を現した瞬間、全員が一斉に剣を向ける。
オデュッセウス(恐怖で声が震え)
「な、なんでこいつがここに!?」
アヤックス
「警備兵を呼べ! こいつは……!」
アガメムノン(落ち着き払って)
「下がれ。彼は――我々の客人だ。」
その言葉に、誰もが耳を疑う。
メネラオス(困惑と怒りの混ざった声で)
「な……何を言ってる!? こいつはブラックライツのリーダーだぞ!?」
アガメムノン(不気味な笑みで)
「……だからこそ、我々の客人だ。」
アガメムノン
「彼が我々の味方につけば、トロイアを落とすことなど容易い。」
メネラオス(蒼白な顔で)
「……冗談だろ……」
ヨゲン(穏やかな微笑を浮かべながら)
「よろしくお願いしますね、諸君。」
全員が呆然とする中、アキレウスだけは、席に座ったまま沈黙を貫いていた。
──
一方その頃、場面はトロイアへと移る。
エデンが港から戻ると、そこにはメイが待っていた。
メイ(優しい笑みで)
「おかえり、ヨミ。」
エデン
「……ただいま、メイ。」
メイ(目を細めながら)
「強くなる覚悟は、できてる?」
エデン(その瞳に決意を宿し)
「……ああ!」
紫のオーラが彼の周囲に満ち、背後にはヴォラトラックスの影が浮かび上がる――