私はガタガタと揺れる音でゆっくりと目を覚ます。いつの間にか寝てしまっていたようだ。
「あら、起きたのね。もうすぐ、王都の屋敷に着くわ」
考えると数日ぶりの王都での我が家へ帰宅となる。と、いうか今後、王族達には関わりたくないと強く思ってしまう。本当に碌な事が無い。
「明日の朝になったら、即出発しよう。リリーナには悪いがしばらくは王宮にはもちろん、王都にも近づきたくない」
「それはもちろん。マリ―には悪いとは思いますが、貴方の言う通りかもしれません……王子殿下のなさりようは少し酷いと思いますもの。あの話も無かった事に致しましょう」
「リリーナがそう言ってくれるなら、私は嬉しいよ」
そう言って馬車の中で二人は手を取り合った。私は内心ガッツポーズだ!
しかし、よくよく考えると、私ってば早々にシナリオ破壊してないかしら? まぁ、悪役令嬢というかラスボスになんかなる気ナッシングではあるけど、さすがに最強装備が脱げないのは今後の生活に支障を来すのではなかろうか?
とりあえず、心のなかでだけ言っておこう。
(あら? 私、なにかやっちゃいました?)
まさに、そんな気分だ。ただ、これから色々と確認していかなければならないことも多くある。
まずは『着ぐるみ猫ちゃん』の機能をキチンと使いこなせないといけない。見た感じ、視界の至る所に何かの模様……たぶんアイコンや数値が表示されている。それの意味や効果を知らなければならない。
ゲーム時代では装備を外すことで脱げたハズなのだ。それが脱げないのも、私が『着ぐるみ猫ちゃん』を使いこなせていないからと考える。
あ、大事な事を思い出したんだけど……これってお風呂に入れない!?
それはダメだよー、あー、おふろー、お風呂入りたいのにぃー、着ぐるみのまま入っても意味無さそう。日光浴して天日干しするしかないの? その辺りも検証が必要なのかも。
そうこうしているうちに、王都でも最も郊外――城壁を越えた街道沿いにあるベルシュタット家の屋敷へ到着するのであった。
ベルシュタット家が所有する王都の屋敷は他の貴族に比べて土地の広さで言えば侯爵家と同等ではあるが、王都の位置で言えばもっとも城から離れており、王都の入り口にある大きな城門より外に出て街道を進んだ場所にある為、王都にありながら王都にあらず。と、小馬鹿にする貴族もいるらしい。
そもそも王都というものは幾へもの城壁に囲まれていて、それらは街が大きくなる度に郊外と呼ばれていた地域である城壁の外に人が住み始め、さらに発展してそれに合わせてさらなる城壁を作っていったが故だ。まさに如何にして王都が発展してきたかの軌跡だ。
それに、分かっている人間が見ればベルシュタット家の屋敷がいかに重要な位置にあるか分かるのだけど、平和な時代が続いている昨今、多くの貴族達は忘れている者が多くなっている。
なお、このエピソードはゲーム内で語られていたけれど、どのキャラで出てきたかまでは忘れてしまっていた。
そして、屋敷の前で止まった馬車から降りると、一足先に戻っていた使用人達が出迎えに集まっていた。
「お帰りなさいませ、旦那様、奥方様……そして、おっ、お嬢様……」
筆頭執事であるチャールソンが涙声で耐え忍ぶように声を出した。
「チャールソン、後で話がある。とりあえずは昼食の後だ……準備は整っているな?」
「はい、当然にございます」
「では私は一度執務室へ行ってから食堂へ向かう」
「お前達は食堂へ向かって待っていてくれ」
「ええ、分かりましたわ。リーナと共に参ります」
あ、あれ? そういえば、私ってばごはん食べれるのかしら?
そうして、私は自身の手を見つめる。
ワキワキしても大きな肉球がキュートなおてて。どう考えても物を掴むんだりするのにはかなりの訓練が必要じゃないかしら?
そんな事を考えながら母と手を繋ぎながら屋敷の中を進む。ゲームではこの屋敷に入る事は無かったし、物語で語られるフィリーナが登場するシーンでも屋敷内のシーンは殆ど存在しない。
しかし、ゲーム内にもこの建物は存在してたのは一応は記憶している。ただ私の記憶にあるのは王都に幾つか存在していた彼女のアジトであり、要塞化されている不気味な建物だった。
(こんな素敵なお屋敷がどうやったら、あんなに凶々しくなるのだろう?)
オーレリア王国の王都郊外に位置するベルシュタット家の屋敷は王都の入口となる街道に面しており、近くには王国騎士団の訓練施設などがある。はっきり言って辺境貴族の廃れた屋敷では無く、王都を護る軍事司令部的な要素が強い事を考えると彼女が屋敷を要塞化させたのも分からなくは無い。
外敵を迎えるにも良い場所ではあるけど、王都を攻める拠点としても優れた位置にあるんだものね……ここの場所に居を構えたベルシュタット家のご先祖様は優れた兵法家だったのかな?
屋敷内の廊下を母と手を繋ぎ進みつつ、私は周囲を見ながら屋敷の中はベルシュタット領にある本宅と変わらない落ち着いた色合いの壁紙、調度品。質実剛健という言葉がピッタリな武門の家らしい雰囲気に息を吐く。
込み上げる実家感に思わずホッとする。これはこれで少し不思議な感覚だ。