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第九話「オープニングテーマ🎵ソウサクセミナー♪」

 ――開幕、笑いと蝉の異常接続――


 ーー●●県●●市●●町・噴水広場前ーー


 真夏の昼下がり。

 蝉が張りつくように鳴き続ける中、噴水広場には異様な人だかりができていた。


 近くの老舗ラーメン屋では、芸能人御用達の醤油ラーメンに夢中のベテラン俳優が、汗だくで麺をすする。

 その横を、緑の着物を着た細身の青年が店を出ていった。メガネをかけ、片手にレシート、もう片方には塩ラーメンの余韻。


 青年はまっすぐ広場中央の噴水台に立ち、空を仰ぐ。

 そして、何の合図もなく天を指差すと、静かに――「指揮」を振りはじめた。


 その瞬間。


 ――蝉が、鳴き止んだ。


 ザッ……。


 場の空気が変わった。


 風も止まり、人々は気づく。

 蝉の声が消えた。真夏の「無音」は、不自然に静かだった。


「……?」


 やがて、木陰の中で何かがザワつく。無数の蝉たちが一斉に機械音声のような「囁き」を始めたのだ。


「ソウサク、ソウサク、ソウサク……」


 1匹の蝉が枝に張りついたまま、はっきりとアナウンスする。


「イマカラ ソウサクセミナー カイシシマス。

 ソ・ウ・サ・ク ソ・ウ・サ・ク ソ・ウ・サ・ク……」


 その声を合図に、爆笑が始まった。


「あはははははははははははははははは!」


「ギャハハハハハハハハハハハハ!」


 機械的な女性の爆笑が、蝉の口から一斉に響き渡る。

 つられて木々が揺れる。葉が震え、蝉の体が透け始める。


 ベテラン俳優は、ラーメンを鼻から噴き出し、慌てて外へ。

 だが、外ではさらに異常が展開されていた。


「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」


「ぐべべべべべべべべべべべべべ!」


 今度は、低い男声の機械爆笑が混ざった。

 音が波のように押し寄せ、人々の耳に侵入する。

 蝉の透けた身体が宙を飛び、笑いながら人々の頭や肩に止まり、爆笑を響かせるのだ。


 ザッ。

 バタバタッ。


 逃げ惑う子ども。耳を塞ぎうずくまる女性。

 スマホで撮影しながらも笑いが止まらず、震える大学生。

 公園は、異常音響によるパニックホラー劇場と化した。


 そして──


 青年のいた場所には、着物とメガネだけが残されていた。

 彼の姿はどこにもない。


 ラーメン屋の俳優は鼻から麺をぶら下げたまま、放心したように立ち尽くし……やがて、崩れ落ちた。


「……ソウサク……ソウサク……」


 最後に、誰かが踏み潰した蝉の音が響く。


 ぐしゃ。


 静寂。


 ⸻


 オープニングテーマ♫ソウサクセミナー♪ 完


 ⸻


 おまけ


『梅田さんがんばれ♪』


 今日も彼はムシを極める。


 スクワット64回。

 腕立て伏せ64回。

 縄跳び64回。

 逆立ち維持64秒。

 ムシ力レベルも64へ上昇。


 ムッシー梅田は、誰にも構われず、誰にも見られず、それでも今日も元気に生きている。


「ムシこそ真理。」


 おわり♪


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