――開幕、笑いと蝉の異常接続――
ーー●●県●●市●●町・噴水広場前ーー
真夏の昼下がり。
蝉が張りつくように鳴き続ける中、噴水広場には異様な人だかりができていた。
近くの老舗ラーメン屋では、芸能人御用達の醤油ラーメンに夢中のベテラン俳優が、汗だくで麺をすする。
その横を、緑の着物を着た細身の青年が店を出ていった。メガネをかけ、片手にレシート、もう片方には塩ラーメンの余韻。
青年はまっすぐ広場中央の噴水台に立ち、空を仰ぐ。
そして、何の合図もなく天を指差すと、静かに――「指揮」を振りはじめた。
その瞬間。
――蝉が、鳴き止んだ。
ザッ……。
場の空気が変わった。
風も止まり、人々は気づく。
蝉の声が消えた。真夏の「無音」は、不自然に静かだった。
「……?」
やがて、木陰の中で何かがザワつく。無数の蝉たちが一斉に機械音声のような「囁き」を始めたのだ。
「ソウサク、ソウサク、ソウサク……」
1匹の蝉が枝に張りついたまま、はっきりとアナウンスする。
「イマカラ ソウサクセミナー カイシシマス。
ソ・ウ・サ・ク ソ・ウ・サ・ク ソ・ウ・サ・ク……」
その声を合図に、爆笑が始まった。
「あはははははははははははははははは!」
「ギャハハハハハハハハハハハハ!」
機械的な女性の爆笑が、蝉の口から一斉に響き渡る。
つられて木々が揺れる。葉が震え、蝉の体が透け始める。
ベテラン俳優は、ラーメンを鼻から噴き出し、慌てて外へ。
だが、外ではさらに異常が展開されていた。
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
「ぐべべべべべべべべべべべべべ!」
今度は、低い男声の機械爆笑が混ざった。
音が波のように押し寄せ、人々の耳に侵入する。
蝉の透けた身体が宙を飛び、笑いながら人々の頭や肩に止まり、爆笑を響かせるのだ。
ザッ。
バタバタッ。
逃げ惑う子ども。耳を塞ぎうずくまる女性。
スマホで撮影しながらも笑いが止まらず、震える大学生。
公園は、異常音響によるパニックホラー劇場と化した。
そして──
青年のいた場所には、着物とメガネだけが残されていた。
彼の姿はどこにもない。
ラーメン屋の俳優は鼻から麺をぶら下げたまま、放心したように立ち尽くし……やがて、崩れ落ちた。
「……ソウサク……ソウサク……」
最後に、誰かが踏み潰した蝉の音が響く。
ぐしゃ。
静寂。
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オープニングテーマ♫ソウサクセミナー♪ 完
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おまけ
『梅田さんがんばれ♪』
今日も彼はムシを極める。
スクワット64回。
腕立て伏せ64回。
縄跳び64回。
逆立ち維持64秒。
ムシ力レベルも64へ上昇。
ムッシー梅田は、誰にも構われず、誰にも見られず、それでも今日も元気に生きている。
「ムシこそ真理。」
おわり♪