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第三十六話「赤い傘の女」

「1」


 ーー「野花商店街」ーー


 ザーザーと雪崩のように降る土砂降り雨。

 夕方というのに沈む太陽が雨雲に隠れて少し暗い。

 住人はまばらでこの勢いよく降る状況下で好んで出歩かない。

 そこにピンクの花柄の傘をさす黒髪おさげの白粉肌少女八木楓。

 彼女の手元にはもう一本の緑色の大きな傘を所持してる。

 彼女はある目的地に向かっている。

 しばらく歩いているとそこの本屋の店の前で雨宿りしながら待ち合わせしてる長身の緑の着物着た青年梅田虫男。

「梅田先生」

 そっと、虫男を見かけた楓は声をかける。

「お、きたか。すまんな」

 楓は持ってた緑の傘を虫男に手渡す。そして虫男は傘を開いてさした。

 そして彼らは自宅の帰路を歩いて目指す。

「今日の晩飯はなんだ?」

「今日はアジの開きと先生の好きな豆腐の味噌汁と茶碗蒸しですよ」

「お、久々だな」

 虫男は自分の好物に笑みを浮かべていた。

 楓と虫男は軽く世間話をする

 楓は虫男と何気ない会話に心地よかった。

 彼女は虫男に対しては好意を惹かれている。アプローチしようにも虫男は鈍感なのか全く気づいてはいなかった。

 恋を実ろうとしても虫男と楓の関係は教師と生徒の関係である。もっとも虫男は生徒に手を出すような輩ではないこともあるが。

 せっかく虫男がわざわざ八木家に居候して常に側にいるのに奥手なのか彼女は踏み切れなかった。

 と、しばらくして虫男は急にたち止まる。

 楓は首を傾げて尋ねる。

「どうかしましたか?先生」

「あ、いや。なんかあそこに見慣れない目立つ派手な女性が気になってな」

 と、虫男がさす方向には赤い傘をさして真っ赤なコートを身につけた女性が立っていた。

「あら。例のアレじゃないですか」

「ん?知ってるのか楓」

 楓は頷いた。

「ええ、彼女はこの雨が降る日に限って現れるみたいですよ。……意図は不明ですけどね」

 突如、虫男はブルっと寒気を感じてくしゃみをした。

「で、これも怪異談があるんだろ?詳しく聞かせてくれないかな」

「ええ。もちろんありますよ。彼女はー」

 楓はその怪異談を語った。


「2」


 僕の名前は倉井紀夫。32歳。

 とある商店街の道端で雨が降る時期に合わせて彼女は赤い傘をさして立っていた。

 理由は分からなかった。

 ただ言えることは雨が降る時期に合わせて立つと言うことである。

 僕はふと気になってこのあたりの住人や商店街の人たちに聞いても詳しくわからなかったそうだ。ただわかったことは新しく新商店街ができる前にあそこに立っていたということだった。

 僕はますます気になり出して休日の雨が降る間に彼女をきちんと尋ねてみようと思いついた。

 僕は天気予報を確認して来週あたりの日曜日に雨が降るらしいので僕はその日まで待った。


 当日、僕は商店街に向かった。

 まだ雨が降ってないのか、彼女はまだ来てなかった。

 僕は時間潰しに丁度近くにある定食屋に時間潰した。

 しばらく待ってると雨がぽつぽつと降り出したので僕はその場所に向かうとやはり赤い傘の女がいた。

 僕は思い切って尋ねてみた。

「すみません。どうしてそこに立っているんですか?」

「…………」

 返事はなく無反応だった。

 僕は諦めずに話しかけてみたが無反応だったが僕はあることに気づいてしまう。

「あれ?これって……!?」

 どうやら、彼女の正体はマネキンだった。妙に生気や人の温もりが感じないと思ったらのことである。

 マネキンの肌を見てると青白く年季が入っていた。

(しかし。マネキンが正体ならなんでこの道端に置かれてるんだろうか?しかも毎度雨がふる時期に決まって……一体だれが何の目的で?)

 と、僕はふと疑念をよぎってると雨はいつのまにか止んでしまい、あの赤い傘をさしたマネキンもいつのまにか消えていた。


「3」


 僕は日を改めて赤い傘の女の正体を暴こうと作戦を練った。

 毎日あそこで常に張れないので監視カメラを設置しようと思いついた。

 そこで僕は早速ホームセキュリティセンター用品店でいくつか見積もった後購入してあの場所付近で誰もわからない隠し場所に設置する。

 時間の感覚としては毎週ごとでいいかな?

 また、もしかしたら赤い傘の女のマネキンを置くために犯人が下見するかもしれないので雨が降る降らない時期にかかわらず24時間設置して置く手筈する。

 さてと、準備は整った。

 この頃の僕は犯人の正体を掴もうと躍起になっていた。


 ーー「1週間後」ーー


 僕はネットワークカメラで確認する。

 今週は雨があまり降ってなかったのか、犯人は現れなかった。

 特に下見する輩もいなさそうだった。


 ーー「2週間後」ーー


 カラスが辺り写ってるだけだった。とくに住人も気にせずその場所をただ通過するだけだった。


 ーー「3週間後」ーー


 女子高生が親しそうに話をしていた。これも特に雨が降ってなかったので犯人らしき映ってない。なので諦めて雨が降る当日に合わせて観ることにした。


 ーー「雨が降る当日」ーー


 たしかこの日は雨がかなり降るみたいだ。

 と。しばらく映像流してるとぽつぽつと雨が降っていた。

「よし!いったいどんな人物だろうか?」

 そして今でも雨が降った途端に急に一瞬ノイズの白黒画面になってしまった。

「あれ?こんな時に故障かよ!?まいったな」

 と、僕は早送りしてるとノイズ画面が収まり赤い傘の女が映っていた。

 そして僕は頭を掻きむしる。

「まいったな。またやり直しか。こうなったらとことんやるぞ」

 僕は諦めなかった。絶対マネキン置かれた犯人を見つけるまではと僕は意気込んでいた。

「あれ?」

 僕は一瞬カメラの映像を見逃してると赤い傘のマネキン女は消えていた。

 雨が降ってるにもかかわらずだ。

 僕は映像の流れをチェックするが見当たらなかった。

 と、僕の自宅の外から、雷が落ちて雨がぽつぽつと降り始めた。

「…………」

 と、僕はうっすらと誰かの気配がした。

 人の気配ではなく何か見られてる違和感が感じた。

 僕の背中から水が垂れて濡れる。

 そして僕は冷や汗をかいて恐る恐るゆっくり振り向く。

「………ッ!?」

 そこに立っていたのは赤い傘のさしたマネキンの女。

 僕は声にならないような叫びを出した。


「4」


「なるほどな。赤い傘の女の正体はマネキンというわけか」

「ええ。昔このあたりで服屋があっていくつかマネキンが置かれてたみたいで、当時はそこそこ人気があったみたいですよ」

「そうか。彼女も次第に意思を持ちあの辺りで徘徊するようになったのか。しかしなんで雨を降る時期に合わせて傘をさすようになったんだ?」

 虫男の疑問に楓は応えた。

「それは以前の話になるのですが元々彼女は雨が降る時期に現れずに傘を所持してなかったんですよ。どうも親切な殿方が赤い傘をあげたみたいですね」

 楓はクスクスと笑う。

「親切な殿方というのと知ってる素振りだな?誰だそいつ。物好きだな」

「ひーみーつです♡特にこれは乙女のピュアな物ですからね」

「なんなんだ!?めちゃくちゃ気になる。クソ。ということは俺の知ってるやつかそうなんだろ!」

 と、楓は人差し指を唇を押さえて言った。

「先生も気づくといいですね♪」

 楓の意味深なセリフに帰宅するまでつぶつぶと独り言をつぶやいた虫男だった。


「5」


『いらっしゃいませ……誰もいないな』

 最恐AI自動販売機である最恐は雨が土砂降り降る中自動販売機をやっていた。

『ぶぇっくしゅん!うー冷たい』

 手も足が出ない最恐は雨の雪崩に耐えていた。

 と、そこの近くのそばに赤い傘をさしたマネキンが現れる。

『お、いらっしゃいませ……と、ねーちゃんはわいと同じ身動きできないもんか』

 最恐は同じ境遇を知った赤い傘のマネキン女に親しみ込めてフレンドリーに接した。

『ねーちゃんは、なんの歌が好きや?わいはやはり梅田花郎先生の俺のおし花や。あの演歌は痺れるや。俺のおしい花~♪』

 最恐はノリノリに演歌を歌う。

『どや!!いい声出ていたやろ!と、どないしたん!?ねーちゃん?傘をさすのやめて!風邪ひくぞ!』

 最恐は赤い傘をさすのやめたマネキン女は突如強い雨飛沫に耐えていた。

『……もしかして泣いてるのか?……ねーちゃん。なんか嫌な思い出もあったんか?それは悪いことはしたな』

「…………」

 マネキン女は答えない。マネキンであるため声音などはついてなかった。

『そや。ねーちゃんにいいもんやる。……これはわいのおごりやで』

 すると最恐の自動販売機からホットレモネードのドリンクを出した。そして最恐の自動販売機から無数の細長い機械の腕が現れて掴んだドリンクをマネキン女の手に触れる。

『まだ暖かいやろ?これを肌身離さず心もホットになるで』

「…………」

 マネキン女の手が謎の力により片手にスポンとドリンクがはまる。

『おっ?ねーちゃんもワイのギャグに乗り気になったか。ははは。ま、ねーちゃんも風邪ひかないよう気をつけな』

「…………」

 するとマネキン女はいつのまにかもう一つの片手に赤い傘を携えて最恐に向かいたつ。

『うー寒いな。ん?ねーちゃん悪いな傘はありがたく気持ちは受け取るよ。ま、そやな。旅にはこれは必要だけど……ええ!?受け取れてか?おおきに。あんやとさん。なら受け取るわ。でもワイだけやと心細いから、今日だけ一緒に雨宿りしようか。ワイ丁度手があるしな。自動販売機なのに手動販売機なんちゃって』

 どこか最恐の言葉に耳を傾けてるようなそんな感じした赤い傘をさしたマネキン女は彼と仲良く並んで傘をさしながら強い雨飛沫に耐えていた。


 ーー「数ヶ月後」ーー


 しばらくすると真昼間に商店街の道端に片手にドリンクを携えたマネキンの女性が現れていた。しばらく雨が降りそうなると忽然と姿を消していた。


 赤い傘の女 完

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