目を開けた僕は、ヘッドギアを被って椅子に腰かけている状態だった。
ヘッドギアを取っていいのか迷っていると、すぐに女性社員がヘッドギアを取りにやってきた。
「おつかれさまでしたー。気分はどうですかー? 身体に異変はありませんかー?」
「あ、はい……大丈夫です」
「良かったですー。じゃあ早速ですが、新作VRMMOに関する簡単なアンケートにご協力をお願いしまーす」
僕を椅子に座らせたまま、女性社員がアンケート用紙の挟まったバインダーを渡してきた。
「あの、質問をしても良いですか?」
仕事は済んだとばかりに僕から離れようとする女性社員に声をかける。
「いいですよー。下っ端の私で答えられるかは分かりませんけどー」
「このゲームには『プラントワールド』という名称が付いてるのに、どうして新作VRMMOと呼んでるんですか?」
仮の名称だとしても、新作VRMMOよりもプラントワールドと呼んだ方が、分かりやすい気がする。外では口外禁止だとしても、社内でならプラントワールドと呼んでも別に良いのではないだろうか。
「あー、それは会長にバレたらマズい名称だからですねー。『エンジョウジサエコ』も聞かれたらマズいんですけど、姿も名前を分からないんじゃ、いよいよ探しようがないので教えてる感じですねー」
「…………?」
今の発言は、一体どういうことだろう。この会社が作ったVRMMOなのに、会長にバレるとマズい?
「ええと、同じ名称のゲームがすでに他社から発売されてるとかですか?」
「そうじゃないですけどー。だってプラントワールドって……」
「こら横井! 勝手な判断でテスターに情報を与えるとクビにするぞ!」
女性社員が僕の質問に答えようとしたところで、男性の怒号が飛んできた。
「すみませーん。って言うか、縦川さんに私をクビにする権限なんて……なんでもないでーす。クビはごめんなので、話は終わりでーす」
「は、はあ」
横井と呼ばれた女性社員は、それ以降僕の質問に答えてくれることはなかった。唯一答えてくれたのは、次回のテストプレイについてだった。
「新作VRMMOは、予約さえして頂ければ、毎日朝九時から夜九時までプレイが可能です。プレイヤーごとにプレイ可能時間の縛りはありますけどね。あと参加人数の関係で予約時にお断りすることもありますので、特に休日は早めに予約を取ってくださいねー」
「へえ。毎日やってるんですね」
「最重要業務ですからねー」
「横井!」
「やべっ」
気付くと先程怒号を飛ばした男性、説明会で説明をしてくれた縦川さんが近くにいた。
縦川さんは横井さんを引っ張って僕から引き剥がすと、一枚のカードを渡してきた。
「今後新作VRMMOをプレイする場合は、受付でこちらのカードを提示してください。予約時のお名前と本人のお顔とこのカードが照合できた場合のみ、通行許可が下りますので。本当はセキュリティゲートを通れるカードキーをお渡ししたいところなのですが、なりすましが発生すると困るので、このような対応にさせて頂いております」
渡されたカードには、説明会で撮影された顔写真が貼られていた。仕事が早い。
「厳重なんですね」
「最新技術の詰まったVRMMOですから。情報を知りたいと思う輩は多いのです」
「すごい技術ですもんね」
僕は渡されたカードを財布にしまうと、ベータテスト部屋をあとにした。