(二)
プラントワールド……横井さんは、あえて新作VRMMOと呼ぶ理由があるようなことを言っていたけど、やっぱりこの名称で呼んだ方が分かりやすい気がする。
とにかくプラントワールドは、楽しそうなゲームだった。
いや、ゲーム自体のことはまだよく分からないけど、いきなり楽しい仲間ができた。また三人と一緒にゲームで遊びたい。
しかし、僕はしがない大学生。
ゲームのしすぎで単位を落とすのは外聞が悪いので、昼間は大学に通わなければならない。
今日もいつも通りに講義が終わり、急いでプラントワールドをプレイしに行こうと荷物をまとめていると、肩を叩かれた。
「おつかれさま、優等生君」
「優等生君って毎回真面目に講義を受けてるよな」
「俺たち同じ講義を受けてる学生なんだけど、知ってる?」
たまに講義に来ては、いつも雑談をしている三人組だ。彼らが僕の悪口を言っていることも知っている。
「ごくまれに教室で見かける方たちだと……記憶しておりますが……」
「記憶しておりますが、だって。あははっ」
「知ってるなら話が早いじゃん? 悪いんだけどさ、講義のノート写させてくれねえ?」
「写すって言っても、コピーで一瞬だからさ」
話したことのない僕にいきなり何の用かと思ったら、そういうことか。
気まぐれにしか講義に出ない上に、講義に出ても雑談ばかりでは、講義の内容を把握できているはずもない。三人ともノートを取ってはいないのだろう。
僕が何も答えないでいると、彼らは両手を合わせて頼み込んできた。
「単位を落としたくねえんだ、助けてくれ」
「今度のテストで良い点を取らねえと俺たちヤバいんだよ」
「一生のお願い!」
「あの、えっと……」
正直なところ、彼らになんて構わずに早くプラントワールドに行きたい。
しかし僕がもごもごとしていると、彼らは僕の両肩に腕を回して、僕が逃げられないように肩を組んできた。
「これだけ頼んでるんだから、写させてくれるよな?」
「優等生君は、すがってくる相手を見捨てるような非情なやつじゃねえもんな?」
「信じてるぜ、優等生君?」
「……分かりました」
もう早くコピーを取らせてしまおう。そうすれば、僕がこれ以上彼らに何かをされることは無いはずだ。彼らにとって僕は、ノートをコピーさせてくれる都合の良い相手なんだから。
都合の良い相手になれば、少なくとも僕が講義に出られなくなるようなことはされないはずだ。
……はあ。大学内で珍しく声をかけられたと思ったらこれだ。
友好的な誘いは一切無いのに、都合の良い相手になってくれという誘いはあるなんて。そんなに僕は友人になりたくない相手なのだろうか。
…………もういいや。
考えても嫌な気持ちになるだけだ。この件は、運悪く蜂に刺されたとでも思って忘れて、早くプラントワールドへ行こう。
* * *
『おかえりなさい、リュー様。今日もプラントワールドを楽しんでくださいね』
「うん、ありがとう」
プラントワールドにログインすると、前回と同じ案内人が出迎えてくれた。
ロード中の場繋ぎなのだろうが、「おかえりなさい」と言われると、僕のことを待っていてくれたみたいで少し嬉しい。
『ここでログインボーナス代わりの一言アドバイス。町によって素材の値段が違うので、モンスターを倒せないプレイヤーでも素材の売買でお金を稼ぐことが出来ます』
「RPGあるあるだね。結構な手間が掛かりそうではあるけど」
『では、いってらっしゃい。素晴らしき冒険を』
* * *
プラントワールドにログインをした僕は、草原を歩きながら一人で雑魚モンスターを倒してみた。今日は魔法ではなく、杖で殴る形で。
雑魚モンスターだからか、案外簡単に倒すことが出来た。
みんなの言う通り、飛んで行った素材を回収しに走るよりも効率が良いかもしれない。
「お待たせ、リュー。迎えに来たわ」
「昨日の今日でログインするとは思わなかったニャ」
ひたすら雑魚モンスターを殴っていると、ナターシャとニャムがやってきた。
「今日は二人なの?」
「ええ。平日はニャムとあたしの二人だけのことが多いわ」
「ローレンは大抵、休日にログインするニャ。でもたまに平日夜に来ることもあるニャ」
「ふーん。実生活が忙しいのかな」
僕の何気ない言葉を聞いたニャムが、突然胸を押さえた。
「ぐはっ。今の言葉はニャムの心臓に突き刺さったニャ」
僕の言葉がニャムには効いたらしい。
そういえばニャムは、このパーティーの中で最初にログインして最後にログアウトすると言っていたっけ。もしかして暇人なのだろうか。
「まあまあ。とにかく三人で歓迎会の費用を稼ぎましょ! やあーっ!」
わざとらしく胸を押さえるニャムを放置して、ナターシャが明るい調子で雑魚モンスターの群れに突っ込んで行った。
急いで僕もナターシャの援護に向かう。
ニャムも僕たちに続いてモンスターの群れへと突っ込んだ。