「あのさ、二人は大学に通ってた?」
杖でモンスターを殴りながら、二人に聞いてみる。
今日の出来事について、少し愚痴りたい気分だったのだ。
「プライベートな話題を出すわね」
「嫌だった?」
「別にいいわよ。まあ、あたしは大学通ってないけど」
「ニャムは通ってたニャ」
モンスターを倒す手を止めずに二人が答えてくれた。
「質問なんだけど、講義のノートを赤の他人にコピーさせてもらうのって普通のこと?」
病欠で休んでいた友人にノートをコピーさせてくれと頼まれても、嫌な気はしない。むしろ頼られて嬉しいと感じるかもしれない。
しかし今日のあの三人は、病欠の日の分のコピーを取ったわけではない。休んだのはどうせただのサボりだ。だって三人一緒に病気になることなんてそうそう無い。それに出席していたはずの日のノートもコピーしていた。
そもそもあの三人とは今日初めて喋ったから、友人ではない。
「ノートのコピー? 大学は勉強したいから通うものニャ。だからノートは自分で書くニャ」
悶々としていた僕に返ってきたのは、ニャムのごもっともな意見だった。
「ニャムは真面目な学生だったのね」
「でもそんなの一部だよね? 多くの学生は遊ぶために大学に行くものだと思う」
「大学にもよるニャ。ニャムの通ってた大学では、みんな真面目に勉強してたニャ」
たぶんだけど、ニャムは偏差値の高い大学に通っていたのではないだろうか。
自慢ではないけど、僕は適当に決めた中の下の大学に通っている。大学卒業という学歴が欲しいから通っているだけで、特段講義に魅力を感じているわけではない。
大学に通う大多数は、僕のような何となく大学へ行っている学生だと思っていたが、環境が違うと学生の様子もガラッと変わってくるのかもしれない。
「へえ。大学によっても差があるのね。参考にするわ」
「参考にする? もしかしてナターシャって、高校生……だったりして」
「そうよ。現役女子高生ってやつ」
「マジで!?」
「マジかニャ!?」
まさかナターシャが高校生だとは思わなかった。何となく同じ大学生だと思っていたため、素直にびっくりした。ニャムも僕同様に驚いているようだ。ニャムたちはこれまでに実年齢の話はしてこなかったらしい。
「若そうだとは思ってたけど、高校生でよくテスターになれたニャ」
「親に同意書を書いてもらったのよ」
テスターになるにあたって、さすがに親の同意書が必要だったのか。とはいえ、よくこんな怪しいテスターの同意書にサインをしてくれたものだ。
「説得が大変じゃなかった? こんな得体の知れないゲームのテスターなんて」
するとナターシャはニヤリと口の端を上げた。
「親がサインを渋ってたから、ゲームのバグを見つけるデバッカーをするだけ、って嘘を吐いたの。それなら安心でしょ?」
「ナターシャは悪い子ニャ」
「これくらいの嘘、誰でも吐くわよ」
「トラブルが起こったら大変だと思うよ。嘘もバレるし」
「何も起こらなければいいのよ」
「それはそうだけどさ」
高校生と知ったからか、ナターシャの発言が高校生らしいものに聞こえてきた。
「もしかすると『エンジョウジサエコ』はあたしと同じ現役女子高生なのかも。あたしは同じ女子高生の視点から『エンジョウジサエコ』の居場所を見つけることを期待されてる気がする。そうじゃなかったら高校生なんて雇わないでしょ」
「一理あるニャ」
僕の出席したテスター説明会には高校生らしき人物は見当たらなかった。すでにナターシャがいるからかもしれない。
「高校生なんて何でもすぐSNSにアップするから情報漏洩しがちなのにね。あたしはその辺をわきまえてるけど」
「ナターシャは偉いニャ。だからきっとテスターに選ばれたんだニャ」
「別に偉くはないわ。秘密をSNSでバラす方がおかしいだけよ。秘密を全世界に公開して、何がしたいのかしら」
「チヤホヤされたいとかそんな感じじゃないかな? ナターシャにはそういう願望無いの?」
僕の言葉を聞いたナターシャが鼻を鳴らした。
「言っちゃいけない秘密を暴露してされるチヤホヤなんて、百害あって一利なしよ。『この人には秘密を伝えてはいけない』ってみんなこっそり線を引くでしょ。チヤホヤされたいなら、秘密の暴露じゃなくて、もっと自分の魅力で人を惹きつけないと」
「ナターシャが眩しいニャ。どうやって育てたら、こんなにまっすぐ育つのかニャ!?」
ニャムが目を細めて太陽でも見るかのようにナターシャを眺めた。
確かに今のナターシャの発言は、正論であり、高校生でこれを言えるのはすごい。
ただ僕は忘れていない。
ナターシャが、親を騙してプラントワールドのテスターになったことを。
* * *