ナターシャとニャムと一緒に町へ向かうと、町の入り口では一人の女性がおろおろとしていた。
「誰か助けてくれませんか?」
女性に近付くと、女性は僕たちに話しかけてきた。
女性の言葉を聞いたナターシャは、何かに納得したようにうんうんと頷く。
「これは特殊クエストね」
「特殊クエスト?」
「酒場でクエストを受注する以外にも、定期的にこうやって特殊クエストが発生するの。クエストをクリアすることで報酬が貰えるわ」
「基本的に特殊クエストは参加しないと損ニャ。酒場でのクエストよりもクエスト達成報酬が美味しいニャ」
女性は僕たちの会話には興味が無い様子で、ずっとおろおろとしている。そしてまた同じ言葉を口にした。
「誰か助けてくれませんか?」
プラントワールドが他のゲームと同じなら、これはNPCの特徴だ。
NPC、ノンプレイヤーキャラクターは、決められた言葉を何度も口にする。
「同じことを言ってるってことは、彼女はNPCなんだよね?」
確認のため二人に尋ねると、二人からは肯定の言葉が返ってきた。
「クエストを頼んでくるのはNPCよ。それに町を歩いてるモブっぽい人たちもNPCだから、似たような言動を繰り返すの」
「話してみると、すぐにプレイヤーかNPCか分かるニャ。あの女はNPCニャ」
やっぱりプラントワールドにもNPCが存在しているのか。
しかし二人の話を聞く限り、プレイヤーとの見分け方は簡単そうだ。
「さっそくクエスト内容を聞いてみましょうよ」
「そうだね。クエストを受けるか受けないかは、内容を聞いてみないことには判断できないもんね」
僕たちを代表して、ナターシャが女性に声をかけた。
「何があったの? あたしたちで解決できることなら力を貸すわよ」
「妹が悪党に連れ去られてしまったのです。妹を助け出してはくれませんか?」
「悪党……居場所は分かってるの?」
「妹を連れ去ったのは、有名な五人組の悪党です。この村の東にある森の奥に洞窟があります。彼らはその洞窟を根城としています」
どうやら悪党の居場所は分かっているらしい。その洞窟へ行って悪党から妹を連れ帰ってくるクエストのようだ。
「そこへ行って悪党どもをぶちのめして妹を奪還すればいいわけね?」
ナターシャが女性にクエスト内容を確認すると、女性は期待の眼差しを向けてきた。
「お願い出来ませんか?」
「任せるニャ!」
女性の言葉に答えたのは、ナターシャではなく、横で話を聞いていたニャムだった。
「ちょっと!? 即答しちゃっていいの!?」
「大丈夫ニャ。これは簡単な類のクエストニャ」
ニャムは悪びれる様子もなく言い切った。
「そうなの?」
「相手はモンスターじゃなくて人間ニャ。強さはたかが知れてるニャ」
「そうね。ニャムなら一人でもクリア出来ちゃうクエストよ」
ナターシャもニャムの言葉に同意した。
「じゃあ初めてのクエストとしてはちょうどいいのかな」
「その通り。リューはまだこの世界にいられる時間が短いんだから、早く行きましょ!」
ありがとうございます、という女性の言葉を背中に浴びながら、僕たちは悪党のいる東の森へと向かった。