視界の悪い瘴気の中を進んで、少女のもとへと向かう。
どうにかして、彼女を瘴気の外へ連れ出さなければ。
『……お前に生きている意味なんてない……生きている価値なんてない……無価値な存在がお前だ……お前には何も無い……世界はお前を求めない……』
ぐわんぐわんと頭の中に良くない言葉が響いてくる。そしてその良くない言葉を自分が今まさに言われているような感覚に陥る。
これは瘴気のせいで体調を崩すプレイヤーがいるのも頷ける。
「気をしっかり持て、僕!」
頭を振って良くない言葉を無視すると、僕は少女に向かって手を伸ばした。
「一緒に行こう!」
しかし少女は自分の耳を塞ぐことで忙しいらしく、その場にうずくまったまま立ち上がろうとしない。
「声に耳を貸しちゃダメだ! 早くここから逃げよう!」
「うあ、ああっ、ああああーーーっ!」
少女の耳に僕の言葉は届いていないようだ。
彼女はうずくまったまま、ひたすらに呻き声を上げている。
「仕方がない。文句は後で聞くから!」
僕は少女の身体を自身の背中に乗せた。彼女が筋骨隆々では無理だっただろうけど、少女が軽いおかげで難なく背負うことが出来た。
「よいしょっと」
少女には抵抗する余裕が無いようで、僕にされるがままになっている。
『……お前なんて必要無い……誰もお前を求めない……お前には何の価値も無い……無だ……無がお前だ……』
「うるさい! 今はそれどころじゃないんだ!」
意味がないとは分かりつつも、瘴気に向かって怒鳴った。
しかし僕の言葉など関係無いとでも言うように、声はずっと聞こえ続けている。
「もういい! 勝手に言ってろ!」
僕は声に向かって言い放つと、少女を背負ったまま走り始めた。
走って、走って、走り続けると、だんだんと瘴気の終わりが見えてきた。
瘴気の先には、心配そうな顔でこちらを見るナターシャとニャムがいる。自分だって怖いくせに、僕たちのことを心配してくれているようだ。
「早くこっちへ!」
「家の中に入るニャ!」
見ると、ナターシャとニャムはとある民家の扉の前にいた。
瘴気の中にいるせいで気付かなかったが、すでにここは森ではなく町の中のようだ。
「あと少しだ……!」
僕は最後の力を振り絞って、瘴気の中から抜け出した。そして二人のいる家の中に駆け込んだ。
僕が滑り込むように家の中に入ると同時に、二人が勢いよく扉を閉めた。