【side ショーン】
「あー、大変言いづらいんだが、そのー、だな……」
パーティーメンバーで円形になって焚火を囲んでいると、勇者が歯切れの悪い切り出し方をした。
「惰性でここまで一緒に来てしまったが、さすがにおかしいと思う」
何の話だと思いつつ、狩ったばかりのウサギ肉を頬張る。そのままむしゃむしゃ食べていると、全員の視線が俺に集まっていることに気付いた。
「俺がどうかしましたか?」
言いながらウサギ肉をもう一口食べようとすると、横にいた戦士に肉を取り上げられた。
「あっ、何するんですか!?」
「大事な話の最中に肉を食うな」
肉を取り返そうと手を伸ばしたが、屈強な戦士に天高く肉を持ち上げられては、諦めるしかない。
「僕たちは勇者パーティーだ。魔王を倒すために結成された」
「何ですか、今さら」
勇者は当たり前のことを急に改まって言い出した。
「……僕の役職は何だ?」
「勇者です」
「じゃあ俺は?」
「戦士」
「わたくしは?」
「僧侶」
「私は?」
「魔法使い」
勇者は長い間を開けてから、最後に質問をした。
「…………君は?」
「運気を上げるラッキーメイカーです!」
これに全員が呆れた顔で首を横に振った。
「君自身はそう名乗っているが、実際は、荷物持ちだ」
「勇者、戦士、僧侶、魔法使い、荷物持ち。どう考えてもおかしいでしょ!?」
「そのくせ飯だけは人一倍食いやがって」
「だって能力を使うとお腹が空くから……」
俺は今にも鳴り出しそうな自身の腹を押さえた。早くあのウサギ肉が食べたい。
「どうだかな。その能力が本当にあるのかは怪しいと思ってる」
「ええっ!? 俺の能力に何度も助けられてきたじゃないですか」
「私はずっと、勝てたのは自分たちの実力だと思ってたわ」
「実はわたくしも……もしかすると本当に運気が上がっていたのかもしれませんが、それが無くても勝てていたと思います」
「つまり、勇者パーティーにお前は必要なかった」
戦士、僧侶、魔法使いの三人は、俺をパーティーから追放する意思が固まっているようだ。仕方がないので救いを求めて勇者を見ると、勇者は諭すような視線を俺に向けていた。
「どうか分かってほしい。君のような役に立たないくせに大飯食らいの仲間がいると、パーティーが全滅しかねないんだ」
どうやらこの場に俺の味方はいないようだ。それでも一度はすがってみようと思った。同情心からまた一緒に旅をしてくれるかもしれないから。
「ラッキーメイカーなんてユニークスキルは俺以外にいませんよ。あとになって勇者パーティーにラッキーメイカーが欲しいと思っても、絶対に見つからないんですよ?」
「あんたの能力、パーティー全体の運気を上げるだけじゃない。全員が運気の上がる装備を身に付ければいいだけよ」
「それに運悪く怪我をしてしまっても、わたくしが回復できます」
「コストパフォーマンスが悪いんだよ。ただ運気を上げるだけで戦闘中ボーッとしてる奴が、パーティーの食料をどんどん食うのは」
そう言いながら戦士は、俺から取り上げたウサギ肉を頬張った。
「ああっ、俺の肉!」
「本当にがめついわね。役立たずのくせに」
「じゃあ荷物持ち! パーティーには荷物持ちだって必要ですよ!?」
「他にやることが無さそうだったから持たせただけで、あの程度の荷物は俺で事足りる」
俺の必死の訴えは、戦士によっていとも簡単に打ち砕かれた。確かに戦士の体格なら、荷物を持っていてもどうということはなさそうだ。むしろトレーニングになって良い、まである。
「俺だって魔王に会いたいんです。でも俺一人じゃ無理なのは分かるでしょう!?」
「そもそも魔王に会いたいからという理由で勇者パーティーに参加していること自体がおかしいのですよ」
こうなったら……仕方ない!
俺は目を瞑ると、ラッキーメイカーの能力を発動させた。
俺の意識はこの場を離れ、因果の世界にダイブする。
暗い因果の世界に伸びる無数の糸の一本を掴み、その先の未来を視る。視たものが求めていた未来ではなかったため、別の糸を手繰り寄せる。それも求めているものではなかったため、また別の糸を手繰り寄せる。
そうして俺は理解した。
「勇者パーティーを追放されない未来が、ない……」
「ああもう、面倒くせえ」
意識が戻ると同時に、低い声が降ってきた。声に驚いて顔を上げると、いつも優しい勇者が、俺に冷徹な視線を向けていた。
「勇者……?」
今の勇者の顔はとても世界を救うヒーローには見えない。どちらかと言うと、町で悪事を働くチンピラみたいだ。
「お前、邪魔なんだよ。貴重なユニークスキル持ちだって国王に押し付けられたから一緒に旅をしてたけど、役立たずは勇者パーティーにいらねえの」
「きゃははっ。本性出ちゃってるよ、勇者」
「ああ、荷物持ちさんは、勇者さんの本性を見るのが初めてだから驚きましたよね。勇者さんは、荷物持ちさんの悪口を言うときはいつもこうなんですよ」
「まあ、睡眠魔法で寝てたお前は知らないだろうけどな」
勇者の変貌ぶりを見ても、俺以外の三人は特に驚いている様子は無かった。
「でもいいの? 勇者、睡眠魔法で眠らせた荷物持ちを殴るのが好きだったじゃない。いなくなったらストレス発散できないわよ?」
「もう飽きたからいらない」
「あら、飽きたなら仕方ないですね。あっ、安心してください。勇者さんが殴った後は、わたくしが回復魔法で荷物持ちさんを回復させていましたから」
「そのせいで殴られてることにいつまでも気付かず、毎日殴られ続ける羽目になってたけどな」
信じられない言葉の数々に眩暈がする。
勇者の本性? 睡眠魔法? 俺を殴るのが好き? 殴った後に回復させていた? 毎日殴られていた?
……俺は、仲間たちにここまで嫌われていたのか。
「ここまで一緒に旅をしたんだ。国王への義理は十分に果たしただろ」
あまりのことに何も言えなくなった俺に、勇者が最終通告をした。
「お前、勇者パーティー追放な」
* * *