昔から、私は兄と手合わせをするのが好きだった。
手合わせと言っても、兄と戦うのは私ではない。兄と戦うのは、私の操る動物たちだ。
「あー、参った!」
大蛇に巻きつかれて身動きのとれなくなった兄が降参した。それを合図に、兄の身体から大蛇を解く。
「やっぱりドロシーは強いなあ」
兄が自身の服で汗を拭いながら、私のことを褒めた。しかし、いつもなら褒められて喜んでいるところだが、この日の私は明るい気分にはなれなかった。
「お兄ちゃんは私のことを、気持ち悪いとは思わないの?」
「……誰かに言われたのか?」
「うん。死んだ動物を動かす力は気持ち悪いって」
直接言われたわけではない。偶然、村人たちが噂しているのを聞いてしまったのだ。
「気持ち悪いどころか、すごい力じゃないか!」
「でも……」
兄は屈んで私と目線を合わせると、私の両肩に手を置いて、優しく微笑んだ。
「普通なら、死んだらそれで終わり。でもドロシーがいれば、死んでからも誰かの役に立つことが出来るんだ」
「死んでからも誰かの役に立てる……?」
「そう。たとえば村が魔物に襲われたら、俺はすぐに死んでしまうはずだ。だけどドロシーの力があれば、死んでからも俺はみんなを守ることが出来る」
「お兄ちゃんが死んじゃうなんて嫌だよ」
私が半泣きで兄に抱きつくと、兄は笑いながら私の頭を撫でてくれた。
「ただのたとえ話だよ。そのくらいドロシーの力はすごいってこと」
「私のこれが、すごい力……?」
気持ち悪い力ではなく、すごい力。死体を操るすごい力。
「そう、すごい力。ドロシーの力があれば、みんなを守れるんだ」
「みんなを守る力……?」
つい先程まで自分の力が気持ちの悪いものかもしれないと思って悲しんでいたのに、兄の言葉は負の感情を一気に吹き飛ばした。
「俺もドロシーみたいにネクロマンサーの力が強かったらなあ」
兄のこの言葉は、私を元気づけるためだけではなく、心からそう思ってのもののように聞こえた。兄にもネクロマンサーの力はあるが、大きな動物を操ることの出来る私とは違い、小さな鳥を一羽操るのが精一杯のようだった。
「でも私は筋肉がないけどお兄ちゃんはあるよ。筋肉があるからお兄ちゃんは体術も使えるよ」
「その体術で、ドロシーの操る動物に負けちゃったんだよなあ」
兄は恥ずかしそうに自身の頬をかいた。
そうだった。たった今、私は手合わせで兄に勝ったのだ。
「じゃあ私、お兄ちゃんよりも強いの?」
「強いよ。父さんよりも母さんよりも。ドロシーは村の誰よりも強いよ」
「私がこの村で一番!?」
村で一番だなんて、言われたことがなかった。
そのため単純な私は、自分に力があることを嬉しいと思うようになった。
「いざとなったらドロシーが、村のみんなを守ってくれよな」
「うん。私が村のみんなを守る! だからお兄ちゃんは、私に守られてね!」
「頼もしい妹だなあ」
兄は私を持ち上げると、その場でくるくると回った。ネクロマンサーの力を気持ち悪いと言われたことなど忘れて、私はきゃあきゃあとはしゃいだ。