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第60話


【side ショーン】


 魔王リディアと焚火を囲みながら空を見る。空には満天の星が広がっていた。


「星空を閉じ込めたような合図玉も綺麗でしたけど、やっぱり本物の星空には敵いませんね」


「そうじゃのう。こうも星が綺麗じゃと、星をつまみに一杯やりたくなるのう」


「お酒を飲むときは大人の姿で飲んでくださいね?」


「細かい男じゃのう」


「細かくはないですよ……それより、今になってドロシーさんのことが心配になってきたんですが、一旦あの村に戻りませんか?」


 魔王リディアは、ヴァネッサが冒険に出るかどうかは五分五分だと言っていた。そんなヴァネッサが、本当にドロシーを助けに行ってくれるか不安になったのだ。

 ラッキーメイカーで視た善き未来への因果は掴んだはずだが、少しのズレで未来は全く違うものになってしまう。今頃、あの二人は何をしているのだろう。


「不安を覚えずに、最高の未来を掴んだぜ!と言えておったらカッコイイのに、どうにもショーンは決まらんのう」


「そうです、俺はカッコよく決められない人間なんです。だから明日、ドロシーの村に食料を届けに行きませんか。早くラッキーメイカーを消したいですが、急ぐ旅というほどでもないですよね?」


「……ショーンには、まだまだ見てほしいものがある。急いで取りこぼしても困るが、後戻りをしている時間も無いのじゃ」


 魔王リディアが要領を得ない発言をした。


「リディアさんは、俺に何かを見せたいんですか? それならまずはそこへ行きましょうよ」


 俺がそう提案すると、魔王リディアは俺の顔を見て微笑んだ。


「これといって見せたい場所があるわけではないのじゃ」


「え? だって今、見てほしいものがあるって……」


「ショーンはただ、旅をしていればよい。旅をしていれば、おのずと見るべきものを見ることが出来るからのう」


 俺が首を傾げると、魔王リディアは二組の布団と毛布を出現させ、そのうちの一つにさっさと寝転んでしまった。


「もう寝るんですか? 結局、俺に見てほしいものって何ですか?」


 魔王リディアは大の字になると、再び夜空を見た。


「妾がお主に見せたいものは、この世界、じゃよ」


「世界……?」


「理想通りに回らない、これで良いのかと思う出来事だらけの世界と、そこで生きる人々。お主には、それをしかと目に焼き付けてほしい。この世のすべてが他人事の傍観者よ。世界の存続を裁定する者よ」


 空では、小さな星がきらりと流れて消えた。




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