大人になってからおんぶされることなんて初めてだ。
しかも、相手は知らない人。
顔さえ、まだはっきりとは見ていない。
進んで行くうちに、私がいたのは森のようなところだとわかった。
うちの近くに公園はあるけど、こんなに木の生い茂ったところじゃない。
やっぱりここは、なにかおかしなところなんだって想いが強くなって来た。
「あの…大丈夫ですか?
私、重いですよね?」
「こんなの全然たいしたことない。」
強がりなのか何なのかわからないけど、彼は素っ気なくそう言った。
でも、とりあえず、この人は善人だと思う。
困ってた私を助けてくれたんだもの。
いや…そうとも言い切れないか。
彼は家に連れて行くとは言ったけど、それが本当かどうかなんて、まだわからない。
それに、そこで何が起きるかもわからないんだから。
なんせ私はまだ動くことさえままならない体…
彼が、良い人であることを祈るしか、今の私には出来ない。
彼は暗闇の中、話もせずにただ黙々と歩いた。
やがて森を抜け……しばらく進むと、月明りに照らされた小さな家が見えて来た。
多分、彼の家はそこではないかと私は直感した。