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第2話 落ちるにLOVE

 ふん♪ ふん♪ ふふ~ん♪


 愛用のVRダイブ用のカプセルタイプの機器に体を寝そべらせて鼻歌を口ずさむ。

 かなりお値段の張る、人間工学に基づいた寝心地抜群、床擦れ防止機能、空調機能、酸欠防止、緊急時通報機能、その他諸々の機能のついた超高級なやつ。


 私、落合美葉おちあいみよ

 年齢22歳、職業は無職、最終学歴は高校中退。

 え、ダメダメなプロフィール?

 一応これには深い理由があるんです。

 まず私、生まれつき下半身が動かないというけったいな体で生まれました。

 なのでずっと車椅子生活。

 学校はオンライン授業だけで受講。

 それでも優しい両親のもと、健やかに過ごしていたのです…が…私が高校2年になった頃、両親が買い物中、暴走した車に轢かれて他界。


 多額の賠償金や保険金などで生活には困らないであろうお金はいただきましたが、私の心は完全に絶望してしまいました。

 それで高校も中退して介護もできる家政婦さんと2人だけで鬱々と暮らしていました。


 そんな私に転機が訪れたのは…私が自ら命を絶とうと私の住むマンションの屋上からの飛び降りを試みたときでした。


 こっそり購入してきた工具で落下防止の柵を破壊して穴を開け、ちょっと配線をいじって速度制限を取っ払った電動車椅子をフルスロットルさせて屋上からダイブしたのです。


 結果は…まぁ勢いがつきすぎたのか車椅子が隣のマンションまで飛んでいってあちこち引っ掛かったり落ちる寸前で車椅子がマンション壁面を逆さ向きに走ったりしてブレーキがかかり辛うじて一命を取り留め生還してしまったわけなんですが。


 私、気づいてしまったんですよ。

 落ちるって……素敵って。

 重力から解き放たれたあの感覚。

 私、自由落下に恋をしてしまったんです。


 そんなわけで、私はあの感覚を再度味わう為に八方手を尽くしました。

 そうしてたどり着いた答え。

 導きだした最終解。


 それがフルダイブVR空間だったのです。

 さすがに再びの紐なしバンジーで生還できる保証はありませんでしたし。

 家政婦さんと一緒に遊園地などの施設に足を運んだりもしました。

 足は動かないのですが。


 その動かない足がネックになりました。

 フリーフォールタイプのアトラクションやバンジージャンプというかアトラクション全般が車椅子での利用は大変困難でした。

スカイダイビングもダメ。

インドアスカイダイビング…吹き上がる空気で飛べる施設ですがあれは落ちるというよりは浮く、でしたし。やはり下半身の自由がきかないと利用制限などもあり満足に楽しめませんでした。


 そうしてたどり着いたのがフルダイブVR空間でのスカイダイビングでした。

 試してみて驚きました。

 まるで現実と相違ない感覚…肌をなぜる風、浮遊感…落下のスピード感…まぁさすがに地面に衝突する前に勝手にパラシュートが開くようになっていましたが。

 私はVR空間の虜になってしまいました。

ほとんどVR中毒です。


 さらに生まれつき下半身の動かない私でもVR空間では歩いたり、走ったり、跳んだりできたのです。

 最初はなかなか上手く動かせなかったのですが、むしろ現実の感覚に引っ張られない私はVR空間での足の使い方に適正があったようです。VR足とでもいいますか。

 VRでパルクールをしたときは現実離れした動きに動画を見た家政婦さんがすごく引いてしまいました。


 どんどんVR空間にはまった私はフルダイブのゲームをやることにしました。

 そして出会った最高のタイトルは暗殺者のゲームでした。

 暗殺者として古い街並みを駆け回り標的を仕込み武器でグサリ!うーん、快っ感。

 かなり体を動かす感覚に気を遣って開発されたのでしょう。走る際に足に伝わる感覚や衝撃…そして…落下の感覚…。

 自由度が高く様々な方法で標的を仕留めることが出来たのですが、私のお気に入りは高所から標的が下にきたタイミングで上からグサリ!うーん!さいっこう!!


 対戦モードなんかもありました。

ありがたいことにランキングは常に上位をキープ。同じ会社の別作品だったのですが、暗殺ゲームの成績から特別招待されて大会にも出場し見事優勝することもできました。

 いまはその賞金と賠償金の残りなんかで悠々自適な生活をしております。


 とは言え、ずっと同じタイトルをプレイしていてはさすがに飽きるというもの。

 なので半年ほど前から別のタイトルをプレイしているのです。


 そして今、私はかねてよりの計画を実行に移すべく、そのタイトルでセカンドキャラを作成すべくゲームにログイン……いえ、ダイブするというわけです。










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