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第十八話:王女の記憶と交錯する運命

エルヴィーナ王女の、あの澄んだ青い瞳が、俺の黒い瞳を捉えた瞬間。


「貴方……あの時の……」


彼女の呟きが、王城の静かな廊下に響いた。俺は心臓が跳ね上がるのを感じた。


まさか、彼女が俺のことを覚えているとは。あの時、俺はただの一時的な救助者であり、顔を覚えられないよう、すぐにその場を離れたはずなのに。


俺は言葉が出なかった。隣に立つアシュレイ団長も、この状況に驚いたように、微かに目を見開いている。


「エルヴィーナ殿下、どちらへ?」


アシュレイ団長が、先に口を開いた。彼の声は、いつもの冷静さを保っていたが、どこか緊張しているように聞こえた。


エルヴィーナ王女は、アシュレイ団長の言葉には答えず、ただ静かに俺に近づき、その目を見つめていた。その瞳には、確かな記憶の色が宿っている。


「やはり、貴方ね。あの時、森で私を助けてくれたのは……。その、黒い瞳……」


彼女の言葉が、俺の心を揺さぶった。あの時の彼女は、恐怖で顔を歪ませ、ほとんど周囲を見ていなかったはずだ。なのに、俺の瞳の色を覚えていたとは。


【共感性】スキルが、強く反応する。エルヴィーナ王女の心の中に、あの時の恐怖と、そして助けられたことへの感謝が、鮮明に残っているのが伝わってくる。


彼女は、俺に対して、何の警戒心も抱いていない。むしろ、親愛のような感情すら感じた。


「エルヴィーナ殿下、お知り合いで?」


アシュレイ団長が、もう一度尋ねた。


エルヴィーナ王女は、そこでハッと我に返り、アシュレイ団長の方を向いた。


「アシュレイ団長。はい、私を助けてくださった方です。ですが……名前も、素性も存じ上げません」


彼女は、申し訳なさそうにそう言った。


「そうでしたか……。この者は、アルスと申します。先日、南の国境での魔物との戦で、多大なる功績を挙げました。本日、国王陛下にご挨拶いただくために、私が同行しております」


アシュレイ団長は、冷静に説明した。彼は、エルヴィーナ王女が俺の素性を知らないことを見て取り、それ以上の詮索はしなかった。


エルヴィーナ王女は、俺の方を向き直り、その瞳をキラキラと輝かせた。


「アルスさん……! そうでしたの! 貴方が、あのロックオーガを倒したのですね!」


彼女の声には、心からの感嘆と、俺に対する尊敬の念が込められていた。

まさか、彼女が俺の功績を知っているとは。戦場の話は、すでに王城まで届いているらしい。


「いえ、俺はただ……できることをしたまでです」


俺は照れくさく、そう答えた。モブがヒロインに尊敬されるなど、前世の俺には想像もできないことだ。


「いいえ! 貴方は、私の命の恩人です! そして、この国の英雄です! お礼を言わせてください。あの時は、怖くて、何も言えなくて……本当に、ありがとうございました!」


エルヴィーナ王女は、俺の手を両手でそっと包み込み、深々と頭を下げた。

その小さな手から伝わる温かさに、俺は動揺した。


前世では女性に触れる機会なんて無かった。

だが、今は向こうから触れてきている。


柔らかい手だと、素直にそう感じた。


「顔を上げて下さい、王女殿下」


俺は慌てて彼女の顔を上げるように伝える。王女にこんなことをされるなど、モブとして恐れ多い。


「貴方は……私のこと、覚えていますか?」


エルヴィーナ王女が、上目遣いで俺に尋ねた。その瞳は、まるで迷子の子供のように、不安げに揺れている。


【共感性】が、彼女の純粋な気持ちを伝える。彼女は、あの時の恐怖から、自分を救ってくれた「恩人」の存在を、心の拠り所のように大切に思っているようだ。


(……可愛い)


「はい。もちろん、覚えています」


俺は、彼女の目をしっかりと見て、答えた。

もう、彼女から隠れる必要はない。それに、この状況で彼女の気持ちを裏切るようなことはしたくなかった。


エルヴィーナ王女の顔に、ぱっと明るい笑顔が広がった。

その笑顔は、まるで花が咲いたかのように美しく、俺は思わず見とれてしまった。


(くっそ……なんでこんなに可愛いんだよ……)


この笑顔を、魔王の脅威から守らなければならない。俺の決意は、より一層強固になった。


「国王陛下がお待ちです、殿下」


その時、侍女がエルヴィーナ王女に声をかけた。

彼女は、残念そうな顔をしながらも、俺の手を離した。


「また、お話しさせてください、アルスさん! 貴方と、もっとお話ししたいです!」


エルヴィーナ王女は、そう言って、侍女と共に奥へと去っていった。


彼女の背中を見送りながら、俺は改めて、この世界の運命に深く関わることになったのだと実感した。


(……あの侍女め、俺と王女の時間を邪魔しやがって!許さん!)


いつの間にか俺は王女の事が気になっていた。

そして姿が遠のいていくと、


「……王女殿下は、あの時のことを、よほど気にされていたようだ」


アシュレイ団長が、静かに呟いた。彼の表情には、俺への理解と、そして諦めのようなものが混じっていた。


「さあ、国王陛下が、貴殿をお待ちだ」


アシュレイ団長はそう言うと、歩き出した。

俺は、エルヴィーナ王女の残した温もりが残る手を握りしめ、国王陛下が待つ謁見の間へと向かった。


国王陛下との謁見は、厳かな雰囲気の中で行われた。


国王陛下は、威厳のある老年の男性だった。俺の功績を称え、感謝の言葉を述べた後、今後の騎士団への協力を正式に要請してきた。


勿論俺は、承諾した。

物語に深く関わるなんてもう言ってる場合じゃない。俺は彼女のあの笑顔を守らなければ。



謁見を終えた後、俺はライオネルと共に、騎士団の詰め所に戻った。

ライオネルは、俺を祝福するかのように、肩を叩いた。


「これで、お前は正式に、騎士団の一員……いや、協力者となったわけだ。これからは、もっと忙しくなるぞ」


彼の言葉に、俺は頷いた。

これからの日々は、騎士団の任務に同行し、魔物との戦いに身を投じることになるだろう。


そして、その中で、この世界の真実をさらに深く探っていくことになる。


その夜、自室に戻った俺は、静かに自分のステータスを確認した。


【名前:アルス】

【種族:人間】

【職業:騎士団協力者(仮)】

【体力:7.5】

【魔力:7.5】

【筋力:7.5】

【敏捷:7.5】

【器用:7.5】

【知力:9.5】

【幸運:1.0】


【スキル】

 毒物耐性   :3.0

 サバイバル知識:3.5

 薬草学    :3.5

 ナイフ術   :3.5

 モンスター生態学:4.5

 魔力親和性  :3.0

 魔法理論   :4.0

 魔力操作   :4.0

 ファイアボール:4.5

 剣術     :5.0

 体術     :3.0

 危機察知   :1.5

 交渉術    :1.0

 速詠     :1.0

 複合詠唱   :0.5

 鑑定     :1.5

 共感性    :1.0


【ユニーク能力:なし】


【幸運】が「1.0」に上昇していた。これは、エルヴィーナ王女との再会が影響したのだろうか。


そして、【共感性】も「1.0」に。ヒロインとの繋がりが、この未知のスキルをさらに成長させている。


「騎士団協力者(仮)」という職業も追加された。

モブだった俺が、ついにこの世界の組織に正式に組み込まれたのだ。


「……仮ってなんだよ。別に協力者でいいだろ」


これで、俺はもはや、傍観者ではいられなくなった。


次に待ち受ける試練とは。そして、ヒロインであるエルヴィーナ王女との関係は、どうなっていくのだろうか。


「……また会いたいな」


俺は静かに呟いた。

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