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第3話

「千夏さんことは俺が脱がせますけど、俺のほうは脱いだほうがいいですか?」


「そ、そのままでお願いします」


「わかりました」


 上半身裸の藤堂さんも気になるけど、スーツ姿でも十分絵になるし。むしろ目の保養だ。これから毎日一緒なら藤堂さんのハダカも見れる機会はあるだろうし……。


「嫌だったら言ってね?」


「は、はい」


 気がつけばブラのホックを外されていた。露わになった私の胸に優しく触れる藤堂さん。


「んっ……」


「胸だけで感じるの? 千夏は敏感だね」


 自然と甘い声が漏れてしまう。我慢しようと思ったのに最初からこれなんて藤堂さんも対応に困るよね。


 普通の女の人は声を抑えたり、感じるような演技でごまかしたりするんだろうか。抱きたいと言われ、承諾したものの、実際は恥ずかしさで穴があったら今すぐ入りたい。


「六年前もキス以上のことはしたけど、今日は前よりも刺激的なことをしよう」


「刺激的な、こと? ……あっ、そこは駄……」


「もっと聞かせて。千夏の甘い声を聞いてると、俺どうにかなりそうだ」


「ん……藤堂さ……ん」


「千夏、好きだよ」


「私も藤堂さんのことが好きです」


 私は単純だ。愛の言葉を囁かれただけで、昔の悲しい記憶が飛んでいきそうになるんだから。


 飛んでいきそうなのは記憶だけじゃない。私の理性が壊れそうなんだ。本能は藤堂さんをどうしようもなく求めてしまっている。


「千夏が知らない世界を俺が教えてあげる」


「藤堂さん……」


「俺のこと、名前で呼んで」


「樹さ、あっ……」


「これでやっと一つだ。千夏と繋がれて、俺は世界一幸せだよ」


 藤堂さんの熱いナニかが私の中に入ってきた。初めてで痛いはずなのに、最初にやってきたのは幸福感だった。


 藤堂さんと同じように私も幸せになった。悔しくて認めたくなかった。だって、それを認めてしまったら、私は藤堂さんに心も身体も堕ちてしまっているということだから……。


 本当は最初からこうなることを望んでいたんじゃないかと過去の自分に問う。グチャグチャになってもいい。壊れたっていい。


 藤堂さんに愛されるなら、私はそれだけで女としての悦びを知れるから。


「千夏、愛してる」


「私も……」


 こんなにも本気で私を求めてくる人が他の女性を見てるわけがない。藤堂さんは私のことが好きなんだ。


 だから私のために努力して社長にまで上り詰めた。それだけでも褒めるべきなのに、今はそんな藤堂さんの腕の中で抱かれている。私には勿体ないくらい素敵な恋人だ。


「これからは千夏に寂しい思いはさせない。俺は千夏の側を絶対に離れないから」


「約束してくれる?」


「ああ、もちろんだ」


 そういって指切りをした。ふと目をやると、藤堂さんの薬指にも私と同じ指輪がつけられていた。まだ結婚はしていないから婚約指輪なんだろうけど、お揃いのものをつけているだけで嬉しい。


「今日はたくさん愛してあげる。千夏が嫌だって言っても朝までするつもりだから」


「うっ……。お手柔らかにお願いします」


「俺が手加減できたら、ね」


「っ」


 私を見つめる藤堂さんの瞳は血に飢えたケモノのようだった。理性を失った男性というものはこんなにも変わってしまうのだろうか。


 さっきまでの優しくて笑顔が素敵な藤堂さんも良かったけど、今の男らしい藤堂さんもカッコいいと思ってしまう。どちらの顔も魅力的な藤堂さんは罪な男だ。


 それから私は藤堂さんにたくさんの愛を注がれた。藤堂さんの言葉に嘘はなく、外が明るくなるまでシたのは二人の秘密。


◇  ◇  ◇


「……夏、きて」


「う~ん」


「千夏、起きて。もうお昼だよ」


「まだ眠い~」


「千夏。仕事はいいの?」


「やばっ……、今何時!?」


「なんてね、冗談だよ」


「え?」


「驚かせちゃってごめんね。今日の千夏がオフなのを知ってて、からかってしまった」


「……っ」


 口元を押さえて微笑む藤堂さんは男性なのに妖艶という言葉が似合う。スケジュール帳を確認すると、たしかに今日は休みだったけど。でもそれを何故、藤堂さんが把握してるんだろう?


「俺と結婚するつもりなら、このまま仕事は辞めてもいいんだよ。昨日も言った通り、今の俺なら千夏を養えるし」


「そ、そういうわけにはいきません!」


「どうして?」


「実は私、一人暮らしが長いわりに料理があまり得意じゃなくて……」


「あれ? それはおかしいな」


「?」


 何かを思い出したかのように言い放つ藤堂さん。


「自分は家事が得意だから専業主婦希望なんじゃなかった? それに六年前は俺のために毎日美味しい料理を作ってくれてたのに。俺の記憶違いだった?」


「全く出来ないってわけじゃないんです。でも社長になった藤堂さんの口にあうような手料理を作れる自信がなくて」


「なんだ。そんなことか」


「え?」


「それなら大丈夫だよ」


 お金持ちだから、専属秘書やらお手伝いさんが料理を用意してくれるってこと?


「俺は千夏が好きなんだから、千夏の作るものならなんだって美味しい」


「食べてもないのにですか?」


「それに六年前、千夏の料理は食べたことあるしね。それに千夏が俺のために愛情込めて手料理を準備してる姿を想像するだけで襲いたくなる」


「へ?」


 今のは聞き間違いだろうか。なんで私が料理を作るだけで「襲いたい」って言葉が出るの? 藤堂さんって実は変な人?

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