4月28日(木) 晴れのちくもり
昼過ぎ、誠司からLINEが届いた。「来週の連休、一緒にうち帰る?」って。<br>
もちろん、彼の実家が岡山にあるのは知ってたし、家族仲もそれなりにいいことも。<br>
でも、「大屋敷」っていう響きには少しだけ、身構えてしまった。
誠司は私と違って、何事にも物怖じしない。正義感が強くて、どこか昔の刑事ドラマみたいなところがある。<br>
友達と喧嘩になったって話を聞いたときも、どこか迷いのない人だなと思ったっけ。<br>
私を守ってくれるのは頼もしいけど、時々、何かを押し潰して進むような危うさも感じる。
「ばあちゃんち、ちょっと変わってるけど、気にすんなよ」<br>
そう笑って言われたけれど、「変わってる」って、どんなふうに?
彼の実家の場所は、岡山県の中でも山間部にある静かな町で、地名は彼自身もはっきり言わなかった。<br>
「昔から言っちゃダメって言われてる」なんて、子どもの迷信みたいなことを、誠司が言うのは初めてだった。
私は今、荷造りをしている。最小限のものだけ、でも読書用に一冊だけ文庫本を持っていく。<br>
今読んでいるのは、夢野久作の『ドグラ・マグラ』。奇妙な物語は、なぜか心が落ち着く。
一度、母にも話した。<br>
「岡山の彼の家に行くんだけど」って。<br>
母は少し黙ってから、「気をつけてね」とだけ言った。普段はあれこれ口を出す人なのに、その一言で終わったのが、少し怖かった。
きっと、考えすぎだろう。<br>
彼の家族に会えるのは楽しみだし、岡山の空気も吸ってみたい。<br>
東京から離れて、少しだけ日常を忘れる小旅行。<br>
でも、何か胸の奥がざわついているのは、たぶん……気のせいだと思う。
誠司の言葉が、ふと頭をよぎる。
「うちのばあちゃん、90超えてるけどまだ元気でな。昔から、色々“見える”らしいんだよ」